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今回はヘルクリーク層のパキケファロサウルス類の脱落歯(以後ヘルパキ)がアゴのどの部分に生えていたのか考えてみたいと思います。
脱落歯の推定は、同じ地層で疑わしい恐竜の状態の良い歯列(アゴに歯が生えている)と比較するべきなのですが、ヘルクリーク層のパキケファロサウルス類も多分にもれず、詳細な歯列の情報は分かりません。
そこで、パキケファロサウルス類の中でも比較的歯列が解明されており、かつ地理的にも年代的にも近いステゴケラス(UA2)の歯列を参考にして検証を行いました。
*もちろんイコールではないのですが、ヘルクリーク層産の脱落歯の中でステゴケラスに類似したものを見かけるので参考にはなるかと思います。
参考文献
ANATOMY AND CLASSIFICATION OF THE NORTHAMERICAN PACHYCEPHALOSAURIA (DINOSAURIA: ORNITHISCHIA)
1.エナメルが保存された面について
ヘルパキのエナメルが保存された面は、中央に太いリッジがあり、周辺のリッジは目立ちません。歯帯は中央が山なりな形をしています。
エナメル面の特徴はUA2歯の舌面、口唇面共に認めますが、歯帯の形状が類似しているのは左歯骨歯(d12)の舌面だけです。また、この歯の基部には生え変わりの歯(r)を認めます。
ヘルパキの歯帯の下にも類似した空間があり、歯冠のシルエットを重ねるとピタリとフィットします。もしかしたらこの部分に歯が収まっていたのかもしれません。
一般的に生え変わりの歯は舌側から萌出することや、類似した形状の歯帯が口唇面に無いことからヘルパキのエナメル面は舌側と推定します。
2.磨耗した面について
一方、右上顎骨歯に舌面の左右(またはどちらか)に大きな咬耗を有する歯を認めます(mx13、4)。このような咬耗を持つ上顎骨歯と接した歯骨歯の口唇側はどのように磨耗するでしょうか?もしかしたらヘルパキのような咬耗になるかもしれません。
これはテスケロサウルスの歯列です(boyd,2014)。歯骨歯の口唇面はヘルパキと同じような擦り減り方をしています。別の恐竜ですが、アゴのメカニズムが似ていれば類似した咬耗になるかもしれません。また、歯骨歯口唇面のようなすり減り方をしている歯は上顎骨口唇側には認められません。
(パキ類とテスケロ系の異歯性は興味深いものがあります、でもこれはまた別の話)
ヘルパキの磨耗面は上顎骨歯の舌側と接して出来た可能性があるため、口唇面と推定します。
また、口唇面の摩耗パターンとエナメル面の歯帯の形態より、歯骨歯と推定します。
3.近心-遠心の推定
今までの検証からヘルパキは歯骨歯と推定しましたが、アゴの左右の推定は可能でしょうか?
ヘルパキの口唇面(磨耗面)から見ると、基部のふくらみが右より左のほうが上(歯尖側)に位置しています(垂線にふくらみの頂点を結んだ線を重ねると分かりやすいと思います)。
同様の特徴はステゴケラスの前方の歯骨歯(d2−4)にも見られます。これを参考にすると、左側が近心側と推定できます。
以上より、ヘルパキは左の歯骨歯と推定します。
また、アゴのどの位置に生えていたのかは、なかなか難しい問題です。基部の傾きは前方の歯骨歯(d2−4)と似ていますが、エナメル面や歯帯の特徴はもっと奥の歯(d12)と似ています。ステゴケラスの歯列は完全には分からない(一般人が入手できる資料では)ので、なんとも言えない所です(奥の方で傾いた歯があるかもしれないし、d5あたりが最近心と遠心側の歯の特徴を両方持っていたかもしれない)。
これ以上やると妄想のレベルに突入しそうなのでこの辺にしておきます^^;
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北アメリカ(パキ、テスケロ)
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Pachycephalosauridae tooth
Hell Creek Formation, Montana,USA
標本長:12.1mm(歯根含む) 標本幅:8.2mm 標本厚:5.2mm
ヘルクリーク層産のパキケファロサウルス類と思われる歯化石です。
歯の形状はスペード形(歯根含む)で、両辺縁に鋸歯を認めます。
エナメル面の中央には先端から基部に達する太いリッジがあり、その周囲に短いリッジを認めます。歯冠の基部には歯帯を認め、その中央部分は歯尖方向へ山なりに延びています。
歯尖付近の顕微鏡画像です(円の直径は5mm)。
エナメル表面には縦方向へ延びる細かなリッジを複数認めます。これらは鋸歯と連動していません。
基部付近の顕微鏡画像です(円の直径は5mm)。
歯尖付近と同様に細かなリッジを認めます(歯尖部よりも短そうです)。また、歯帯とエナメル質の境はややくぼんだ湾曲状で、鳥脚類の歯のような雰囲気もあります。
歯帯の山なり部分の顕微鏡画像です(円の直径は5mm)。
少しわかりづらいですが、山なり部分の下側(歯根部)はくぼんでおり、短いスジのような構造が見られます。
歯帯の山なり部分に歯冠のシルエットを重ねると、きれいにフィットします。
もしかしたらこの部分には生え変わる歯が収まっていたのかもしれません。
反対側の像です。
この面は左右に大きな磨耗痕(W)を認めます。歯冠の中央は盛り上がっており、わずかにエナメル質が残っています。また、基部はやや膨れています。
磨耗面の顕微鏡画像です(円の直径は5mm)。
表面は平らですが、細かい点やスジ状のキズが見られます。
(もっと拡大すればより情報が得られそうですが、それはまたの機会に)
側面からの像です。
側面から見ると、歯冠は歯根に対してわずかに傾いているようです(赤いライン)。
また、エナメル面と磨耗面の境(垂直方向)は明瞭で直線的です。
上からの像と側面からの像の拡大です。
上から見るとエナメル面よりも摩耗した面が凸なことが分かります。また、これらの境は明瞭で直線的です。
側面からの像(鋸歯の削れっぷりがスゴイ)も含め、エナメル面と磨耗面の関係は、歯と歯の接し方やアゴの動きのメカニズムを考える上で大きな情報になるかもしれません。
歯根側からの像です。
歯根の断面はいびつな楕円形です。
以上、いかがでしたでしょうか。
この歯の大きな特徴はエナメル面の鋸歯と連続しない細かなリッジの存在です。
文献的に知られているヘルクリーク層のパキケファロサウルス類の歯(ドラコレックス等)にも類似した構造を認めるので同一と考えたくなりますが、これらの歯は上顎骨なので(今回の歯は歯骨歯が推定されます、その理由については次回に)、単純に比較することは危険です。
しかしながら、ステゴケラス(時代は違いますが)の歯骨歯にも同様の特徴が見られるため、これらの情報を総合して考えると、この歯がパキケファロサウルス類である可能性は高いと思います。
パキケファロサウルス類の歯は鑑別困難なことが多く(小型鳥脚類や曲竜類、時には角竜類までも対象)我々コレクターを悩ませていますが、リッジの特徴が鑑別のポイントになりそうです。また、補助的な所見として歯帯の形状や歯冠と歯根の角度も使えるかもしれません(エビデンスは低いですが)。
ともあれ、この歯はパキケファロサウルス類歯の一つの指標となる標本だと思います。
過去記事
文献で示されているヘルクリーク層のパキケファロサウルス類の歯
(ドラコレックス、パキケファロサウルス)
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しばらくモロッコの茶色い歯ばっかりだったので、久しぶりに黒い歯をご紹介します。
ヘルクリーク層産のパキケファロサウルス類の歯化石です。
ずいぶん前に入手していたのですが、アップがすっかり遅くなってしまいました^^;
今までパキとラベルされた歯をいくつか手にしてきましたが、今見直すと微妙なものから明らかに違うものまで様々です。
今回の歯はそれらとは明らかに違い、自信を持ってパキと言えます(ポイントはエナメル表面の弱いリッジでしょうか)。
詳細は次回ご紹介します。
マイコレクションのパキとラベルされていた歯化石。
小型鳥脚類や曲竜類が混ざっているようです、それぞれ似た特徴を持っているので鑑別はなかなか難しいですね。
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パキケファロサウルス類の歯はポジションによって形態が異なっていることが知られています(異歯性と言います)。 ゴヨケファレでは、犬歯状(caniniform)と表現される前上顎骨歯と第一歯骨歯、そして三角形状(subtriangular)の上顎および歯骨歯が認められます。 共に犬歯状と表現される前上顎骨歯と第一歯骨歯ですが、図を見ると微妙に形態が異なるので、 それぞれCaniniform-TypeA、Caniniform-TypeBと呼ぶことにしました(私が勝手に名づけたので一般的に通用する呼称ではありません、ご注意ください)。
プレノケファレやゴヨケファレは犬歯状の前上顎骨歯が3本(3番目が最も大きい)認められます。 これらは円錐状でやや後方に湾曲しており横断面は楕円形です。膨れた歯冠基部は前後でくびれています。歯冠表面には複数のリッジを認め、後縁には鋸歯が存在します(ゴヨケファレ:6個/1mm、 プレノケファレ:8個/1mm、DFC069:3.5個/1mm)。 また、舌面に咬耗が認められるため、前歯骨歯の存在が示唆されています。
ゴヨケファレの第一歯骨歯は前上顎骨歯より大きな犬歯状で、横断面は多角形です。後縁には鋸歯を認めます(4-6個/1mm)。 図には比較のため前上顎骨歯と第一歯骨歯を並べてみました。 私見ですが、舌面から見ると前上顎骨歯よりブレード状で後縁は直線的に感じます。基部のくびれや表面のリッジも弱いです。 後縁から見ると歯冠基部は舌面より口唇面のほうが膨れているように思います。
パキケファロサウルス類の上顎骨および歯骨歯は三角形に近い形状です。 図はドラコレックス、パキケファロサウルス、ゴヨケファレの歯冠です。これらの歯の辺縁には小歯を認め、小歯と小歯の間からは溝が伸びています。また、歯冠の中央に基部に達するキールを認めます。歯帯は弱いながらも認められます。 図を見ると溝は基部に達するものと達しないものがあり、一定ではありません(達しているものも弱い)。キールの強弱も同様です。 歯骨歯が残っている例は少ないのですが、ステゴケラスでは上顎骨歯に類似し、近心部より遠心部の歯のほうが大きいと報告されています。 パキケファロサウルス類の歯の数 上顎骨歯はパキケファロサウルス20個、ステゴケラスとゴヨケファレ16個、プレノケファレ17個認められます。 歯骨歯はステゴケラス17個、ゴヨケファレ18個認められます。 以上、パキケファロサウルス類の3種類の歯をご紹介しました。 これらの情報は古いフリーの文献から論文から得たものなので、もっと新しい情報があるかもしれません^^; ところで、パキケファロサウルスは成長段階において頭骨のドームの形状が変わると考えられていますよね(ドラコレックスやスティギモロクは幼体という説です)。 ドラコレックスと考えられているある頭骨(CKP標本)には上顎骨や歯骨に複数の犬歯状のような歯(もしかしたら細長い三角形の歯)がみられ、今回紹介した歯列パターンとは異なっています。 成体のパキケファロサウルスの歯列は不明な点が多いですが、歯の形や歯列も成長段階によって変化する可能性があるかもしれませんね。 *コレクター的観点から見るとTypeBが気になります。パキケファロサウルスにも存在しているとしたら、比較的形態が似ているパロニコドンとして流通している可能性はないでしょうか!?
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Thescelosurus garbanii 6×3.5mm Judith River Formation. Montana USA 前回に引き続きテスケロサウルスの歯です。今回は頬側の歯です。 テスケロサウルスの頬歯は一般的に「木の葉状」と言われています、今回の歯も非常に小さいながらもその形態を有しています(歯冠部のみなら3mmちょっと、もしかしたら幼体の歯かもしれません)。 この歯は前回紹介した前上顎骨歯の産出地に比べ、約1000万年古い地層から発見されています、テスケロサウルスは繁栄した恐竜だったと言えますね。 歯冠表面の拡大です。 歯冠基部から伸びた隆起性のスジが中央に一本、複数のスジが左右に放射状に伸びています。スジの先端は鋭く尖っています(小歯)。スジの数は左右で異なっているので、もしかしたら歯冠の前後が分るかもしれません。 歯冠を左右に横断する白い線が見えますが、これはクラックではなく保護剤が線状になったもの。ばっちり硬化しており取れません(泣)。 歯根部です。 上から。 歯冠裏面です、中央はフラットです、左下に何か見えますね。 裏面右側です、表に比べ隆起は弱いようです。小歯は小さいですが鋭いです。 対応する表面です。 裏面中央〜右側にかけて咬耗面を認めます。 裏面左下に見えた隆起物です。小歯の様なものが見えます、これって歯でしょうか!? さらに拡大、表面に細かいスジが見え、小歯も複数認めます。 これがいずれ大きくなり、新しい歯となるのでしょうね。 面白い所見だな〜。 |




