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「あ!」 食事中、談笑している時、夫が突然迫ってきた。 アゴを掴み、荒々しくキスを迫る男のようなしぐさである。 「何!」 まだ娘を産んで間もなかった私は、 唐突に沸いた夫の欲望に恐怖すら感じ、後ずさりをする。 私は出産で子宮口が避けてしまい手術をした。 子供を産んだばかりで、体の調子も完全ではない。 とても、夫の荒々しい欲求に答える気になれないと思った。 だが、夫は私のアゴを掴んだ手を離さない。 そして言った。 「ちょっ、ちょっと見せてみ!」 「へ?」 「あんた、舌にほくろがあるんだよ!」 「え?」 どうやら、夫は迫ってきたわけではないらしい。 私の口をこじ開けて舌の奥に蛍光灯の光が届くようにしているだけであった。 「ちょっとやめてよ!痛いな〜もう!」 私は夫の手をやっと振り払い、手鏡を取りに行った。 食事中のことである。 おそらく海苔でもついているに違いない。 それを夫が早とちりして、ほくろと言っているのだ。 私は鏡で『ほくろ』の位置をつきとめ、 爪の先で擦ってみた。 海苔ならばすぐ取れるはずである。 しかし、それは擦っても、突いても取れなかった。 不安げに見守る夫の顔が私の恐怖を駆り立てる。 私は食欲が失せてしまい、 とにかくこれが何であるかつきとめようと思った。 パソコンの電源を入れる。 「舌 ほくろ」 という言葉を入力し、検索ボタンを押した。 直後、私の目に飛び込んだのは、 「舌癌」 という恐怖の病名であった。 舌癌は若いうちに発祥すると、 かなりのスピードと高い確率で死に至ることがある恐ろしい病気である。 布団で寝息いをたてる生まれたての娘の姿を見ながら、 私は明日からのことを考えようと思った。 せまる死を強く意識した経験は、これまでの私にはなく、 本当に何も浮かんでこなかった。 我が子を抱くことができたこと、 とにかくそれだけで満足だと思った。 他に何もいらないと思えてくるのである。 世界旅行も、豪華な食事も、その時の私には全く必要のないものであった。 「考えたってしょうがないね」 その日は、驚くほど冷静で安らかに眠った。 ただ一つ、おっぱいをまさぐる娘の今後だけが心配であった。 しかし、母を覚えていない乳児は、 母を失う寂しさも味わうことがない。 きっと誰かが立派に私のかわりをやってくれるだろう。 涙はかすかに浮かんでくるものの、 不思議と流れ出ることはなかった。 翌朝を迎え、私は鏡を見た。 舌を出す。 やはり『ほくろ』が存在した。 歯を磨き、普段どおりに子供の世話をし、また鏡を見た。 すると『ほくろ』がなくなっていた。 そういえば・・・ちょっと前に私は舌を噛んだ。 その部分の細胞が黒ずんでいたのだろう。 我家の沈鬱な舌癌騒動は一日とちょっとで収束し、 私はつまらないほくろを発見し、騒ぎ立て、不安を掻きたてた夫に侮蔑の視線を送った。 だが、命が続くだろうことの有難さだけは残ったのだった。 今、私は娘の成長を見ることができている。 しかし今、不幸にも娘と別れなければならい日がやってくるとしたら、 娘には私の記憶が残ることはない。 だから、娘と二人で過ごした日々は、私だけの思い出となってしまうだろう。 私がいなくなるようなことがあれば、 どこにも残らない日々を思うと本当に寂しい。 あの舌癌騒動の時、何もいらないと思った感情など吹き飛んで 娘の将来を見たい、子供達と一緒に年をとり、 家族全員の記憶に楽しい記憶の数々を刻みたい。 そう思うのである。 今、娘はママという人間がどういう存在なのか分かっていることだろう。 二歳の娘には、今までのママの記憶は残っていなくとも、 愛されてきたこと、一緒に過ごしてきたことはきっと消えない。 娘に形成された感情や表現方法はきっと、娘の中に根付いてくれているに違いない。 だから私は、これからも娘の身体や心がいつまでも忘れることができない程、 たっぷりの愛情を注ぎつづけたい。 何があるか分からない将来が怖くて、 不安で眠れないような日もあるが、 今過ごすことができているこの瞬間に、できるだけたくさん愛されることを教えてあげたい。 出来ることなら娘に子供ができても、孫が出来ても、 夫と一緒に、元気に生きていたいと思うが、 この先何があったとしても、決して娘が忘れることのない母の愛を、 私は注いでやリたいと思う。 ずっとずっと見ていたい娘へ。 たっぷりの愛を込めて・・・
ママより。 |
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目覚ましにいいか。。。。。も?



m彦さん、ハイとウツの波が一日置きにくるのか・・・昨日はやたら感情的でした。今日は爽やかなのに、何でだろう。もっとも、長生きしたいは変わりません。
2006/11/16(木) 午前 8:57
ほくろ事件めでたく楽しく終息して安心しました。でもお体はどうぞ大切に。
2006/11/16(木) 午前 9:17
shinnさん、ありがとうございます。私も少しずつ夫に感化されそうになりますが、普通に構えていられるようにしたいです。身体はだけどだいじですよね!
2006/11/16(木) 午前 9:20
ビックリしましたよぉ。でも・・・「ほくろ」でなくて良かった。このまま優しいママでいられますね♡
2006/11/16(木) 午前 9:41
ゆきさん、優しいかどうかは別として・・・・このまま家族で旅行をしたり、学校でのことを聞いたり・・・過去に私が経験した家族を、子供達に経験させてあげたいものです。
2006/11/16(木) 午前 9:43
そぉですね〜。それも「優しさ」のヒトツです!!!
2006/11/16(木) 午前 9:49
ゆきさん、んまあ、どうも有り難うございます♥
2006/11/16(木) 午前 9:50
ホントにいぃママですね。うちの母にも・・・見習わせたい!!!でも・・・もぉ遅いかもε= (´∞` )
2006/11/16(木) 午前 9:51
ゆきさん、ゆきさんのお母さんはいいママですよね?お義母さんが・・・なんでしょう?それとも、もしかして、ゆきさんは母に恵まれず?なんですか?
2006/11/16(木) 午前 9:53
どちらの「母」にも恵まれていないような・・・ε= (´∞` )
2006/11/16(木) 午前 10:08
ゆきさん、そっそんなぁ・・・・。いやいや・・・・・←フォローの言葉が見つからない。
2006/11/16(木) 午前 10:10
ホントにヒドイ!!!よく言えば???「個性的???」でも・・・2人とも人の言う事は聞かないし・・・。誰かに差し上げたい心境です。
2006/11/16(木) 午前 10:14
ゆきさん、とくに義理のお母様はいりません・・・・。ごめんなさい。
2006/11/16(木) 午前 10:15
otoさんもビビリすぎです
2006/11/16(木) 午前 11:05
きゅうしゅうさん、あはは、言われちゃった。だけどびっくりしますって、夫のびびった脅しの顔が強烈なんですもの。
2006/11/16(木) 午前 11:07
以前、打撲による乳房の痛みを乳がんかと思い込み病院で検査結果を聞くまで本当にいろいろな事を考えました。まだ14歳と3歳だった2人の子供。そして主人のこと。いろいろ泣きながら考えて最後には「私はこの3人に会えて本当に幸せだった・・」なんて思ったりして^^でも感謝する素直な心を思い出せたから今ではいい思い出です☆
2006/11/18(土) 午後 5:39
わんたんさん、うるっときました。会えて幸せ・・・その言葉がとても分かります。それだけになる気持ちも、舌癌もどきのおかげですが・・・。打撲による痛みと分かって良かったですね〜!素敵なコメントをありがとうございます。
2006/11/18(土) 午後 5:42
私の上司が以前舌癌で手術した事があるので「まさか!」と思いました。 違っていてよかったですね。(冒頭で2年前の事とわかっていたので慌てはしませんでしたが・・・)私も2度交通事故に遭っているので気持ちは多少わかります。2度目は打撲のみの軽傷でしたが、1度目は骨盤骨折で3ヶ月会社を休みました。入院中にはいろんなことを考えました。子ども達や夫に会えない日が続くと心配だったり・・・。でも、、、今は毎日怒る日のない母です・・・反省。。。
2006/11/23(木) 午後 11:18
ちーぼうさん、ええ!本当ですか、上司の方は今は回復なさっているんでしょうね、人ごとながらそう願わずにいられません。私も恐怖を一日だけですが味わいました。本当健康はありがたいです。健康以外何もいらない・・・とまで思いますが、しかしまた欲望が・・・懲りないのですね〜。
2006/11/24(金) 午後 2:20
官能小説の素質がありますね。人がどきどきするポイントを十分備えた記事です。素晴らしい
2009/9/8(火) 午前 8:47 [ 記者 ]