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「手鎖心中」 井上ひさし 著 江戸・深川の材木問屋伊勢屋の若旦那・栄次郎は、「絵草紙の作者になって、他人を笑わせ、他人に笑われ、それで最後にちょっぴり奉られもしたい」という願望を持っている。 ある日(山東)京伝店の煙曲(煙草の煙を使った曲芸)会で、絵草紙作者を目指す与七、清右衛門、太助と出逢う。どうしても絵草紙作者になりたいが才能がない栄次郎は、三人に絵草紙を書いてもらったものの、案の定作品は売れない。 そこで、親に無理やり頼み込んで勘当してもらい、入婿となる。読売り(かわらばん)を買収して、自分の愚行を宣伝させる。吉原の女に溺れて婿入り先を追い出される。お上(幕府)の批判を書いた絵草紙を売り出し、賄賂を役人に渡して手鎖をかけてほしいと頼み込む。果ては鎖をかけたまま、人前で心中を企てる――。 金持ち息子の道楽話かと思いきや、そうではない。栄次郎のバカっぷりは、あきれるというより、拍手を送りたくなるほど純粋で可愛い。 まるで落語の寄席を見ているような、歯切れがよく軽妙な文章は最近ドラマであった「タイガー&ドラゴン」を思い出させる。 何となく、読みながら現代版手鎖心中を頭の中で考え、一人にやりと笑みをこぼしてしまう・・・ 言ってみれば現代は若旦那で溢れている。 太宰に憧れ自殺してみれば少しはいいものが書けると入水してみて、死んだら何も書けなくなってしまうことにも気が付かず、満足げに一生を全うする。玉川上水はいずこへ・・・ そもそも志なんてものは裏表二つで一つみたいなもの。いいものをつくりたい、それを人に伝える。金が入って、女にもてて、長生きできれば言うことなし。 この作品を読んで他人事のように笑えない自分が少しだけ可愛そう・・・ |
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「手鎖心中」が直木賞をとった時、確か筒井康隆の「家族八景」が落選したと思います。筒井さんは、その時の経験をもとに、文学賞をパロディーにした「大いなる助走」という作品を書いていますね。でも「手鎖心中」はよい作品です。私が学生の頃、井上ひさしは、村上春樹に負けないくらい、よく売れていたと思います。「ドン松五郎の生活」とか。ちょっと、政治的なことに首を突っ込むようになって、作家としては下降線になりましたけれど。
2006/7/12(水) 午後 10:15