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ピノは一人での夕食を食べ終え、一日中歩き回った為に、怠く浮腫んだ足をマッサージしていた。バンヤは夕食の時間の少し前に急患の往診に出掛け、ピノは一人でバンヤの帰りを待っていた。多分今日は帰らないだろうという思いはあったが、それ以上にピノはバンヤと話がしたかった。何についての話がしたいのかは、ピノ自身にも分からなかったが、何でも良いから話をしたかった。ピノはバンヤと話をしているときの自分が、一人で居るときに止めどなく自分の中に湧き起こる不安を忘れさせてくれることを知っていた。
ピノは自分用に借りているベッドに仰向けに寝転がり、静かな夜の中に潜む静寂の作り出す音に耳を傾けた。 「これから僕はどうなるんだろう?」 静寂の中から湧き起こるように、一つの思いがピノの頭の中に浮かび、直ぐに消えていった。 「僕はどうなるんだろう?」 直ぐに静寂は新たな疑問を投げかけるが、ピノが答えを見つける前にその疑問は姿を消し、また新たに姿を変え頭の中に現れた。 「僕はサカキという男に会ってどうするのだろう?」 ピノは自分の心の中の声が部屋中に響いていくような錯覚を覚えた。 「八日間も探し続けているのに、何の手掛かりも得ることが出来ず、それでも僕は彼を捜し続けている。僕がサカキを探す理由は?」 ピノはいつの間にか自分で自分に対し、問い掛けていた。 「ルナはどうしているだろうか?」 「ヤシマさんは大丈夫だろうか?」 「父は僕のことをどう思っているのだろう?」 「僕の母さんはどんな人なんだろう?」 ピノは繰り返される無数の問いに対し、大声で叫び返した。 「そんなこと僕に聞かないでくれ!」 ピノはそう叫ぶと同時に、自分がどれ程弱い人間であるかを知ることとなった。 いつまでも母の幻影に追い縋り、父の顔を窺い続け、自分の手に負えない事柄には背を向け、自分を守るために物事を勝手に正当化する。何よりも自分は前に進むことを恐れている。強くなりたい?笑わせるな!お前は本当はそんなことを望んではいない。お前が探し求めているのは逃げ道だ。 ピノはベッドから起き上がり、バンヤの帰りを待った。その胸の中には一つの決心を抱いて・・・・。 |
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