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ルナはゆっくりと時間を掛けて窓から差し込んでくる朝の光が自分の肌を照らし、その温もりで目を覚ました。もう朝かと誰に聞かせるでもなく呟き、泣いたせいで腫れ上がった瞼や頬に手を当てた。 ルナは一晩中、祖父の側に座り続ける間、彼女の頭の中には形にならない漠然とした思いが巡っていた。自分自身が抱いている感情がどんなものなのか分からなくなり、自分に問い掛けるが答えは出ず、涙も枯れ果ててしまったように途切れていた。祖父の死を目の当たりして、死というものに抱いていた恐怖や悲しみを殆ど感じることが出来ず、ただ単にルナの心の中には虚しさだけ存在し、そんな自分が酷く残酷な人間に思われた。今となっては知ることが出来ない祖父が一人で抱えていた苦しみを思い、ルナは途方に暮れた。ゆっくりと窓から差し込んできた光はいつの間にか角度を変え、ルナの全身をすっぽりと覆い、心地よい温もりを与えた。 朝日に誘われるように、椅子に凭れたまま眠ってしまっていたルナは、玄関の呼び鈴の音に目を覚ました。ルナは半分眠ったままの頭で立ち上がり、玄関に向かった。 ルナは尋ねてきたのうちの一人は予想していたが、もう一人は予期せぬ人物であった。 バンヤは表情を殆ど変化させぬままルナにおはようと挨拶をし、その背後には身を隠すようにピノの姿があった。 「僕も何か手伝えることがあると思って・・・・。それと、ちゃんとさよならもお礼も言ってなかったから・・・・」 ピノは申し訳なさそうに小さな声で話し、言葉の端は弱々しく擦れていた。ルナは何か言葉を返そうとしたが、思いを言葉に代えることは出来なかった。心配したという言葉を伝えるにも、怒り口調で伝えるべきか、安堵の意味を込め優しい口調で伝えるべきか、ルナは自分の複雑な思いを表現することが出来ずにいた。何よりも、どんな態度を示そうと今はまだ知られたくない、ピノへの思いが本人に伝わってしまいそうでルナは口を閉じていた。今はまだ知られたくない思い。それはルナの中で本当に少しずつ形作られ、漸く彼女が気づくことが出来るくらいの漠然とも言える思いであった。 「怒ってる?」 押し黙ったままのルナの態度に、ピノは不安げな表情で尋ねた。ルナは殆ど表情を変えずに首を横に振り、二人を家の中に招き入れた。 「やっぱり怒ってるのかな?」 ピノはルナに聞こえぬように、バンヤに耳打ちをするように顔を近づけ小声で聞いた。それに対しバンヤは肩を窄め、分からないというジェスチャーを返した。 その後三人はヤシマの埋葬の準備に取りかかった。終始憮然とした態度だったルナは、火葬で一筋の煙が上ると同時に大粒の涙を流した。
ルナの提案でヤシマの墓を海辺の少しだけ高台になっている場所に作ることにした。それはヤシマが毎日飽きることなくこの場所から海を眺めていたことと、この海が唯一地上とこの世界の共通点であると言う理由であった。 三人はそれぞれの思いを胸に抱き、海を眺めていた。その思いはそれぞれに違っていたが、これから進むべき未来についてのことだということは共通していた。 |
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