|
ピノはルナの作ってくれた夕飯をバンヤと共にご馳走になり、自分は今バンヤの世話になっていることを話し、明日も来ることを約束し、ルナの家を出た。ルナは思っていたほど辛そうには見えなかったとピノは胸をなで下ろす反面、それはただ、自分には本当の悲しみや孤独を隠しているだけのような気がして、少しだけ悲しくなった。かといって自分はルナが悲しみに暮れる姿を目の前にしてどんな言葉を掛けることが出来るのだろう。そうピノは考えていた。 その夜、ピノはバンヤとサカキを探すための具体的な話を進めた。それは自分が考えていたのと同じで、ブルーポートタウンを出て、センタータウンに向かうということだった。バンヤは自分も一緒にセンタータウンに行くと言ってくれたが、ピノは何度も自分のためにそこまでしてくれなくても良いと、バンヤの好意を断った。しかし、バンヤはピノのためではなく自分もセンタータウンに行く目的があると答え、二人は明日以降、ルナに別れを告げてからセンタータウンに出発することを決めた。勿論、ルナにはその目的は告げることは出来ないという二人の共通の意見で、ルナに上手い言い訳を考えねばならなかった。 「バンヤさんの里帰りに、僕も付き合うってのはどうですか?観光もかねて」 「彼女も一緒に行きたいと言ったらどうするんだ?」 「そんなこと言いますかね?おじいさんが亡くなって直ぐに、その場を離れようとはしないのでは?」 「だから言ってるんだよ。きっと彼女は表には出さないが、寂しい思いをしているはずだ。観光に行くなどと言えば、普通なら気晴らしに一緒にどうだと誘うのがふつうだろ?だから、僕は彼女には何も告げないのが一番だと思うのだが」 ピノはバンヤの言葉に力なく頷き、直ぐに頭を振った。 「それじゃ、わざわざ彼女に会いに行ったこと自体意味のないことになってしまう。僕はこれ以上彼女を傷つけたくない」 「それならいっそのこと全てを彼女に話すか?」 「彼女が全てを知ったとき、どうなると思います?」 「分からない・・・・」 そうやって二人は答えを出せぬまま話を続けた。結局二人はルナの為を思い、嘘を吐くことを選んだ。バンヤは仕事でセンタータウンに戻り、その手伝いをするためにピノも同行するという案で、仕事となればルナも一緒に行きたいとは言わないだろうと二人は何とも言えぬ、すっきりとしない心持ちのまま、そうすることを決めた。 ピノは一人で家を抜け出し、港を抜け、暗闇に包まれた砂浜に向かった。
少し前までは恐ろしい存在でしかなかった闇が、今は心地よい静かな時間を与えてくれていることにピノは気が付き、砂浜に座り海水の消えた海を見詰めた。耳を澄ませば波の音が聞こえてくるようにも思えたが、辺りは変わることのない静寂に浸っていた。聞こえるのは自分の吐息と鼓動だけであった。 ピノの頭の中には次々に異なる思いが浮かび上がり消えていった。そしてその中の一つに、ピノがまだ小学生になったばかりの頃の消えかけていた思い出が蘇った。それは彼の記憶の中には存在しない母親へ宛てた手紙だった。その手紙の内容は覚えていなかったが、書き終えた手紙をブリキの缶に入れ、裏庭にある柿ノ木の根本に埋めたことを思い出した。何故今になってそんなことを思い出したのかは分からないが、その手紙を覚えたばかりの文字で書き上げ、大事に木の根本に埋める自分の幼い頃の姿がはっきりと脳裏に浮かび上がった。 ピノはもう一度その手紙を読むことが出来るという小さな確信のような思いを胸に勢いよく立ち上がった。心の中に存在していた明日へ進むことへの迷いは消え去り、軽やかに 大股で歩き出した。 |
全体表示
[ リスト ]






