|
翌日、ピノはバンヤに理由を話し、一人でルナの元へ向かった。途中、ピノは色々なことを考えていた。ルナの言った好きという意味。彼女が今日までに見つけようとしていること。これからの彼女のこと。そしてこれからの自分のこと。今の自分のこと。今までの自分のこと。ピノは昨日ルナの家を出てから考え続けていたそれらのことを、改めて考えていた。 ピノが予想していたよりもルナは明るい表情でピノを迎えた。ルナが出したお茶を口に含みながら、ピノは何度かルナの表情を盗み見たが、その表情からはこれと言った変化を探し出すことは出来なかった。そんなピノを気にも留めずにルナは二人が出会ったときのことを楽しげに話し始めた。殆ど一方的にルナが話し続け、ピノは相づちだけを打ち続けた。 ルナの話は最近覚えた料理の話や、幼い頃に描いた花の絵の話、少し前に買った黄色のワンピースの話と次々に話題を変えていった。漸くルナの取り留めもない話が続き、それが終わる頃には、長い時間座り続けたピノの尻は殆ど感覚が無くなってしまっていた。 雪崩のような勢いで話し続けたルナは、急に話すのを止め、それに伴い表情からも笑顔が消えた。部屋の中は急激に静けさを取り戻し、ピノはルナの心臓の鼓動が聞こえてくるような気がした。 「昨日の話・・・・」 ルナはそう言って言葉を句切り、ピノの反応を窺うようにじっとピノを見詰めた。 ピノにはルナの表情が笑っているのか泣いているのか、それとも怒っているのかわからなかった。彼女が今、複雑な思いを胸に抱いていることは分かった。 「ひとつだけ約束して」 ルナはそう言って不安を掻き消すための笑顔を作った。 ピノはゆっくりと頷き、どんな約束と尋ねた。 「今から嘘は吐かないで。私のためを思って吐く嘘も、そうでない嘘も・・・・」 ピノはどうすればいいのかが分からなかった。けれども、どうしたいのかは分かっていた。ルナに嘘は吐きたくない。それがルナのためであっても、彼女が真実を望むのならば、ピノは心の中で呟き、ルナに分かったと大きく頷きながら言った。 「おじいちゃんの部屋を整理していたら、日記を見つけたの。日記と言っても毎日描いていたものじゃなくて、ノートに走り書き程度に書いていたものだと思うの。それはおじいちゃんがこの世界で生活するようになった時ぐらいから書かれていて、私はそれを読み返していったの。おじいちゃんが抱えていた苦しみや悲しみ、それだけじゃなく、喜びも書かれていたの。私の知らなかった、おじいちゃんが私には話してくれなかったことが書いてあったの。知りたいという思いとは対照的に私は悲しくなっていった。なんだか自分が本当に一人になってしまったことを指摘されているようで」 ルナは小さな溜息を吐き、またそれを笑顔で隠した。 「そこには父さんのことも書かれていたの。それを読んで私はおじいちゃんがお父さんを憎んでいた理由が分かったの。それとお父さんが生きているということも」 今度のルナが見せた笑顔は、何かを隠すための笑顔なのか、本当の笑顔なのかピノは判断することが出来なかった。 「私のお父さんは人殺しなの」 ルナの言葉にピノは彼女から目を反らしたくなった。しかし、それではいけないと自分を叱り、前を向いた。 「私はお父さんを探そうと思うの。会ってどうすればいいのかも分からないし、恐怖もあるの。けど、会わなければいけない気がするの」 ピノの頭に一人で悩み苦しみ続けるルナの姿が浮かび上がった。 「次はあなたの番よ」 ルナはそう言うと口を閉じ、ピノの言葉を待った。 ピノはルナの祖父であるヤシマから聞いたこと、バンヤと一緒にサカキを探すためにセンタータウンに向かうこと、元の世界に帰りたいということ、父に会いたいということをルナに話して聞かせた。同時にそれは嘘を吐いていたことをルナに告げることであり、その嘘の性質がどんなものであるかという言い訳は言わずに、嘘を吐いていたことを謝罪した。
ルナはピノが話している間、殆ど表情を変えることなく、真剣な眼差しで話を聞いていた。最期のピノのごめんという言葉に、優しく笑顔を返した。 「今日中に準備をするから、明日もう一度迎えに来てね」 ルナの言葉にピノは疑問の表情を返した。 「私も一緒に行くのよ」 疑問の表情は戸惑いの表情に変わった。 「お父さんを捜しに私も一緒に行くわ。分かった?ちゃんと明日迎えに来てね」 ピノは殆どルナの勢いに負け、首を縦に振った。なんだか面倒なことになってしまったとバンヤにどう話せばいいのかを考えながらルナの家を出た。しかし、ピノの気持ちの中は、ルナと一緒にいられることへの喜びも大きく占めていた。ピノは鼻歌を口ずさみながら太陽の光をきらきらと跳ね返す浜辺を歩いた。 |
全体表示
[ リスト ]


