いざ進め、満身創痍ing life!

平凡な毎日から生まれた物語・・・

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「鉄の胃袋」〜33〜

 言い訳程度に整備された歩きにくい砂利道を三人は並んで歩き続けていた。
 出発して少しの間は三人の間にささやかな会話が存在していたが、今は只、無言のままに歩き続けていた。
 ピノは自分とルナの少しだけ前を歩くバンヤの背中を見詰めていた。ルナが自分も一緒に行くと言ったことをバンヤに伝えたとき、彼は一瞬だけ表情を曇らせた。そして直ぐにいつものように穏やかな微笑みを浮かべ、僕にはとやかく言う筋合いは無いと答えた。
 ピノはバンヤの穏やかな人柄に強く惹かれていた。それはピノが今まで出会ったことのない不思議な優しさと、強さを感じさせた。しかし、時折バンヤは何かを恐れ、何かを忌むような表情を垣間見せることがあった。そんなときピノは込み上げる恐怖のあまりに、目を背けるように気付かない振りをした。

 どのくらい歩き続けたのか、ピノは先程から振り返ることもなく歩き続けるバンヤに声を掛けようか迷っていた。隣を歩くルナは疲労を隠すように微かな苦痛で歪む口元に力を込め、平静を装っていた。出発前バンヤの話によると、センタータウンまでの道程は、急いでも丸一日程度掛かってしまうと言っていた。急ぐ旅ではないし、何度か休憩を挟んで、泊まるのにめぼしい場所が無ければ、最悪野宿になるかもしれないがと不安げに話を聞く二人に告げた。その言葉にルナは出来るだけ休憩は取らずに行きましょうと言った。ピノもその言葉に賛成の意思を示した。
 バンヤが歩き続ける限りは二人は休みたいと口にすることが出来ずにいた。歩きづらい道のせいでピノは普段よりも大きな疲労を感じていた。脹ら脛は鉄の重りでも巻き付けているかのように重く、靴の裏を通して伝わる石の感触は、微かにではあったが小さな痛みと変わった。しかしピノは男である自分が最初に音を上げるわけにはいかずに、何度もルナの方を盗み見た。ルナはどう見ても疲れ果て、それを必死に堪えていた。しかし、ルナもまた何かに対するプライドを抱え、口を閉ざし歩き続けていた。

 辺りは夜に変わっていたが、ピノにはすでにそんなことを一々気に留めるような体力は残されていなかった。ピノは只歩くことだけに全神経を集中し続けていた。数分前、自分が何を考えていたのかが分からないくらいに、ひたすら前に進み続けた。
「到着だ」
 バンヤの声が突然頭の中に飛び込んできた。幻聴かと思ってしまうくらい不鮮明に伝わる声を聞き、何年もの長い間聞いていなかったようにバンヤの声は懐かしく感じられた。
「今日はここに泊まる。ここはちょうど中間地点で、唯一の宿泊施設なんだ」
 バンヤはそう言って、自分がブルーポートタウンに来る際も、ここに泊まったんだと笑顔を見せた。ピノはその笑顔に何の反応も示すことが出来ないくらいに疲れ切っていた。
「結構きれいな所ね」
 そう言ってルナはバンヤに笑顔を返した。ピノは必死に自分も何か言わなければと口を動かしたが、粘りけのある唾液が喉の奥を塞ぎ、言葉を放つことが出来ず、せめて笑顔だけでもと笑顔を作ろうと試みたが、頬の筋肉は小刻みに痙攣し、更に苦痛の表情に変わってしまった。ピノは屈辱にも似た重苦しい気持ちになり、最もピノの心に重くのしかかっているのは、バンヤの半分と言う言葉だった。到底自分には明日も同様の苦しみを耐え抜くことは出来ないと、肩を落とした。

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