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あの頃の僕たちは空の端に沈んでいく夕日を見ながらどんなことを思っていたのだろうか?そんなこと すら思い出せぬほどの長い時間が過ぎ去り、僕は今、一人の大人になってしまった。あの頃の自分が今の 自分を見たら何と言うだろう?失望するだろうか?それとも所詮こんなものだと鼻先で今の僕の姿を笑い 飛ばすだろうか?遠い昔のこととは言え、自分はこんな風な大人になることを夢見てはいなかった。実際 のところあの頃の自分は少し先の未来も、大人になった自分も、これから先の全てに目を背けていたので はないだろうか?世の中の矛盾に少しだけ気付き、それでも信じられることの方が多かったあの頃。僕た ちは本当は何一つ考えていなかったのかも知れない。だからこそくだらないことで笑い、些細なことに腹 を立て、それでも直ぐに大声で笑い、そんな自分たちの姿を客観的に見ることなどなく過ごしていたのか も知れない。あの頃あんな風に笑うことが出来た僕は、今は少しだけ笑っている自分に冷ややかな視線を 送る自分の姿が浮かんできたりする。そんな自分をあの頃の自分はどう思うだろう?ただ、あの頃の僕た ちの生き方の方が今の自分に比べ羨ましくもある。あの頃に戻りたいとは思わないが、あの頃のように笑 ってみたいと本気で考えたりもしてしまう。そんな時、僕はあの頃の風景の中に自分を描き、やがてそこ に二人が現れ、直ぐに馬鹿話をはじめる。そして僕はあの頃の自分に向かってありがとうと言う。 過ぎ去った時間を美化する訳ではないが、あの頃は楽しかったなとふと考える思い出を持つことが出来 た大人であることだけが、唯一あの頃の自分に自慢できることかも知れない。
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Sun do which?
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「マツ、どう言うことだ?」 「こっちが聞きてえよ」 「俺は人間の女の子と遊びたかったんだ。異星人と文化交流なんか・・・・・・、俺はもう少しで発狂して罪無 き異星人を血祭りに上げるところだったよ」 「タケ、あいつらは生きていることが罪だ」 「ウメ、俺もう駄目かも知れねえ、もし明日死ぬことになったら、俺は成仏できないまま女子校に住み着 く怨霊となっちまう」 「マツ、タケはもう駄目だ。お前が犯した罪は大きいぞ」 「その報いならたった今受けたところだよ、俺はもう誰も信じない」 「お前が一番信じられねえよ」 「そこまで言うことはねえだろ?可愛い子を連れてくるって言ったんだ。俺はその言葉を信じただけで、 俺だって被害者なんだ」 「安易だったよな。紹介してくれる子が自分より可愛い子を連れてくることなんかまず有り得ない話で、 そんなことぐらい俺は学んできたはずなのに、自分が情けないよ」 「そりゃそうだ、もういっそのこと死んでしまいたい」 「死ねばいいさ、お前が死んだとして悲しむ女の子もいない。死ぬべきだよ」 「うちのかあちゃんと姉ちゃんは悲しむはずだ」 「俺はばあちゃんも悲しむぜ」 「俺たちがこんなに悩んでるって言うのに、どうして神様は知らん顔でいるんだろうな。そう言えば、あ の鈴木がこの間女と歩いているのを見たって黒田が言ってたぜ。あの顔中ニキビだらけで、もう半年は風 呂に入っていないような黴の香りがうっすら漂う包茎の鈴木がだぞ」 「あのアニメオタクがか?世も末だな。きっとあいつは神様に同情されてるんだ。神の御慈悲によって奇 跡が起きた。俺もいっそのことアニオタにでもなろうかな」 「ウメ、丁度イイんじゃねえか、お前包茎だろ?」 「そうなの?」 「ふざけんな!誰がそんなこと言ってやがるんだ。俺はモテないが包茎じゃない」 「本当か?」 「何なら今ここで見せてやろうか?」 「いいよ、そこまでムキになんなよ」 「何だよタケ、お前こそトイレで嫌に便器に密着して小便してるじゃねえか?そう言うお前こそ包茎だ ろ?」 「それはあるかもね」 「なんだよそれ、そんな証拠何処にあるんだ?タケこそ包茎だろ」 「馬鹿じゃねえの?お前らやっぱりガキだな。中学生でもあるまいし、だからモテねぇんだよ」 「何だよマツ、その言い方。お前だってモテねえだろ」 「やめろよ、こんなとこで喧嘩したって彼女が出来るわけでもないだろ?それよりあの金どうする?」 「金って?」 「上手くいった奴に三千円ずつ、引き分けドローなんだし、その金でぱあっと残念会でもしようぜ」 「このメンバーでか?」 「他に誰がいるんだよ?今から誘える女友達でもいれば話は別だけどな」 「そんな奴がいたら俺は今日お前らと一緒にカラオケになんか行かない。それに一日に二度も空振りに終 わるようなことになったら、俺は明日の新聞の三面記事に首つり自殺で有名人になりかねない」 「じゃあどうする?」 「マックでイイんじゃねぇ?」 「マックじゃ一人三千円使ったら三日は何も食えなくなるぜ」 「じゃぁ、何処行く?」 「マックでイイじゃん。この三千円は次の機会って事で」 「またこのメンバーで合コンに行くつもりか?」 「出来ればそれは避けたいけど、実際のところその可能性の方が高いだろ」 「まぁ、そうだけど、それにしてもこの世の中夢も希望もありゃしない」 「まぁ、まぁ、その愚痴の続きはマックでと言うことで、もしかしたらマックに可愛い女の子との出会い が待ってるかも知れないし」 「それもそうだな、そう考えたら俄然やる気になってきた!俺は元々合コンなんて不純なシステムが嫌い だったんだ。真実の愛はきっと道端に転がっているはずだ」 「頑張って探してくれ、馬鹿は放っておいてさっさと行こうぜタケ」 「じゃあね、せいぜい見落とさないように頑張ってね、ウメ」 「お前ら本当に薄情な奴らだな、そこに愛はあるのか?」 「ねえよ」 「行こうぜ」
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あの頃の僕たちに期待を持つなと言うこと自体が無意味なことであり、僕たちはいつでもほんの僅かな 可能性に賭けていた。それは事のつまり全ての出来事において最善の事態が自分の元に舞い込む確率が全 ての人間に平等に与えられていると考えていたためだ。そして僕たちは大人になっていく過程で世の中と いうものがそんな風に出来ていないことを知るのであるが、それはもっと先の話で僕たちはただ運が悪い だけと次のチャンスを待ち望んでいたのだ。 約束のカラオケボックスに辿り着いた僕たちはまるでその小さな密室に自分のこれからの未来が全て押 し詰められていて、まさしくその大人への入り口のドアを開かんと胸を躍らせていた。 ドアの向こう側で待っていたのはまさしく三人の女の子。 女の子? 生物学上では雌に分類されないその生き物を僕たちは認めることは出来なかった。それを認めることが 同時に自分の負けを認めることと等しく、何よりも僕たちは負けることを恐れていた。 オナ中の微妙ちゃんの連れてきた友達はスピルバーグの描く異星人そのもの。けれど実際のところ僕た ちは嫌われることよりも異星人であろうと自分に好意を寄せてくれることを拒否しようとは思わない。し かし、そうは思わないとは言え僕たちには捨て去ることの出来ないプライドがあった。そのプライドも大 人になる道中でぼくは何処かに置き忘れてきてしまった。ほとんど盛り上がらないカラオケルームで僕た ちは愛想笑いで歌を歌う。歌うと言うよりも叫ぶと言った方が正しいかも知れない。とびきりのラブソン グを自分に向けて叫ぶ。愛!愛!愛! 歌うことでしかそんな言葉を使うことは出来ない。プライドが邪魔をするし、何よりも相手がいない。 LOVE!LOVE!LOVE! 意味なんか分からないし、まして相手がいない。だから自分に向けて歌う。叫ぶ。 全力で生きていればそれだけ腹が減る。結局のところ僕たちの愛の叫びは異星人の心すら動かすことが 出来ずに、僕たちは疲れ果て空腹のまま絶望という名の坂道を転げ落ちていく。しかし、その坂道を転げ 落ちた先に待っているのは明日という未来であって、僕たちはその未来で再び全力疾走をはじめる。
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「何か面白いことないのか?」 「何だよ?面白いことって?」 「例えば合コンとか、ナンパとか、とにかく有意義な時間を過ごせるようなことだよ」 「ウメにとって面白いことは女のこと以外ないのか?」 「何だよ、マツ、お前は女の子と遊びたくないのかよ」 「そんなことはないけど、それだけじゃないってことだよ、なぁ、タケ」 「俺は女の子と遊びたい。せめて放課後ぐらいは人生において有意義な時間にしたいね。そのためには女 の子が必要だ、と考えている」 「何だよ、タケまでそんなこと言うなよ、せっかくイイ話があるって言うのに、話す気もなくなるよ」 「何だよ?タケ、勿体振ってねえで言えよ」 「イイ話ってなに?」 「実は、この間オナ中の子に駅前で偶然会って、話してるうちにその子も彼氏がいないらしくて、合コン でもしようって話になったんだ。それで今日清水と加藤を誘ったんだが断られちまって、あと二人男手が 足りないんだよな。行く?お前ら」 「ちょっと待てよ、清水と加藤ってなんだよ。まず俺たちを誘うのがスジってもんだろ?お前俺たちの友 情はそんなもんだったのか?」 「ウメの言うとおりだよ。マツ、俺はお前がそんな小さな人間だとは思ってなかった」 「じゃぁ、絶交するか?そう言えば下山と佐々木が今日暇だって言ってたっけ・・・・・・、ん?どうした の?」 「松田君、一昨日ジュース奢ってあげたよね。俺、今日はこの後予定もないし、一生お前とは友達でいる つもりだし」 「松田様、どうか寛大なおはからいをおねげえしますだ、なにぶんおらたちは恵まれねえ毎日をおぐって ますぅ、どうが、どうが、連れてっでくださいまし」 「言っておくけど、一番可愛い子は俺だからな。それを約束できるって言うなら、仕方がないから連れて ってやるよ」 「お前、こっちが下手に出れば調子にノリやがって」 「ウメ、お前松田様になんて口のきき方だ。お母さんそんな子に育てた覚えはありません」 「マツ、お前の言い分は飲む。けど、もしも一番可愛い子が俺を気に入ったらその時はお前も大人になれ よ」 「あぁ、イイよ。きっとそれはないから。お前を気に入る女なんて病気持ちの女ぐらいだろうから、そん 時はせいぜい用心ししてくれ。間違ってもうつさないでくれよ」 「それよりもどこの学校の子?」 「F高。約束するときにちゃんと可愛い子連れてきてって何度も念を押しといたから、きっと期待してイ イと思うよ。彼氏がいないめちゃくちゃ可愛い友達がいるって言ってたから」 「そのオナ中の子は可愛いのか?」 「ん?まぁ、中の下位。角度次第では可愛く見えたりもするよ」 「何だよそれ、二人可愛い子で一人がその微妙な子だろ?要するにウメか俺がその微妙な子の相手をしな くちゃならないって訳だろ?そんなのウメが可愛そうだろ」 「どうして俺が可愛そうなんだよ?お前がその微妙ちゃんに当たるかも知れないだろ?」 「まぁ、まぁ、今から仲間割れしてもしょうがないだろ。今回は俺が用意した話なんだから俺を立てるの は当然の話だとしても、お前らもこの際選り好みなんかしてる場合じゃないだろ。俺たちは何としても卒 業までに童貞を捨てなけりゃならねえんだから」 「けど、どうせなら可愛い子がイイ」 「俺も将来自分の息子に自慢の出来ないような女は嫌だ」 「下山と佐々木、まだその辺にいるかな?」 「済みませんでした。もう我が儘は一切言いません。ですからそんな殺生なことを言うのはおやめくださ い。何なら、明日の昼飯は二人であなた様に献上さしていただきますから、どうか、どうかこの恵まれな い子羊に慈悲のお心を・・・・・・」 「分かったよ、それで相談なんだが、金持ってる?」 「金?」 「あぁ、まさかこれからお世話になる女の子を前に割り勘でイイですかって訳にもいかないだろ、カラオ ケ代ぐらいはある?」 「まさかそれも俺たち二人で出せなんて言うんじゃねえだろうな?」 「まさか、そこまで俺も人でなしじゃないよ。ただ、一つ提案があって、もしこの中で上手くいった奴が いたら、そいつに三千円ずつその後の交際費をご祝儀代わりに払ってやるってのはどうだ?」 「三人とも上手くいったらどうするんだ?」 「考えても見ろよ、今まで数え切れないほど合コンにいって、不成功の確率百パーセントだぞ」 「その話乗った!六千もあれば、そのまま盛り上がってホテル直行も夢じゃない。マツ、その代わり約束 はちゃんと守れよ」 「ウメ、えらい自信だね、俺は自分だけそんな金を貰うのは気が引けるけど、しょうがねえか」 「タケ、お前もたいそうな自信だな、まあお互いフェアプレーを心がけて今日の試合に挑みましょ」 「よしっ!何はともあれ、これはきっと神が俺たちにくれたチャンスなのかも知れない」 「よっし!俺も何だかムラムラしてきた。絶対に彼女つくるぞ!おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
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誰から言い出すともなく屋上まで続く非常階段の途中にある死角に身を屈め食後の一服。旨いなんて誰 一人思っていないし、教師にばれれば謹慎処分は免れない。旨くもないし得もしない、その上体には有害 で、金までかかる。それならどうして僕たちは、などとは一瞬たりとも考えたりはしない。ケムリをたゆ らせ、空を見上げ、あぁ、俺は生きてるんだなと物思いに耽るわけでもなく、ただ、国のために今のうち から税金を払いたいという愛国心。でないことは確かである。とにかく食後の一服は英単語を必死で覚え ることよりは楽しいと言うことである。 食べて休んで昼休みの僅かな時間を有意義に過ごし、午後の授業に臨む。始業のチャイムが鳴る前に僕 たちは行儀よく席に着き、昼寝をはじめる。後、二時限を乗り切れば僕たちは全力を尽くさなければなら ない放課後が始まる。それまでに出来るだけ体力の回復と温存をはからなければならない。放課後は誰も が全力だ。部活に所属している人たちが放課後に自分を磨き上げる時間を持っているように、僕たち帰宅 部の人間にとって放課後に与えられた時間は自分をスキルアップさせるための貴重な時間なのである。よ って、その前に無駄な体力を浪費する、無駄な講義などに耳を傾けられるほど僕たちは大人ではない。十 七歳。体はすっかり完成しつつある中で、心の成虫はその何倍も遅いことを知っている。だから未だに成 り得ない大人に憧れたり、まだまだ幼稚な自分に焦り大人達に反発してみたり。そんなことを一々考える ことが出来ないほどあの頃の僕たちはぐっすりと眠り、起きたときにはすっかり忘れてしまうような素晴 らしき夢を見続けていたのであった。 六限目の終業のチャイムが教室に鳴り響き、僕たちは小さな自由を手に入れるのであった。
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