体をうごかす

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最低な数字で、最高記録を出してしまった。
血圧。

スイミングスクールで血圧を測るのだが、
これが私は苦手だ。
その理由は、私の血圧が低く、
「今日は入っては駄目。」
と言われるのではないか...と心配になるからである。

83と55
89と54
84と47

いつもの数字。
「しんどくないですか?」
と体調を聞かれても、
「いつも通りです。」
としか返せない。
ちなみに、脈拍はいつも早い。
「走ってきましたか?」
と聞かれますが、実は緊張のためです。

前々からお医者さんに
「薬、飲む方が良いですよ。」
と言われてはいたのだけれど、
別にいつもこんな感じで「辛い」ので、
辛いとは思わず、ついつい病院から足が遠のいていた。
けれど、水泳の記録帳を見たつれあいから指令が...。
「病院に行きなさい!」

ヨガに水泳、
それに養命酒も野菜ジュースも胡麻も、きな粉も、ヨーグルトも....
随分と健康フェチなくせに、
不摂生なつれあいより、
...それでも彼はこの4.5ヶ月で体重を5kg、体脂肪を3%落とした。
私はいつも不健康。

あぁ、気が重い。
腰はだるいし、体は痛い。
これは水泳のせいですが。

体だけが溺れていく

体だけが溺れていく。
ぬるい水の中に落ちてゆくように。

彼の声だけが聞こえ、
それだけを頼りに、手足を動かし、必死に呼吸をしている。
彼の手が私の手を引き、
足に触れ、体を導き、真っ直ぐ終わりへと誘う。

今日からスイミングスクールというわけで、
中学生以来、本格的に泳いだ。
とにかく疲れた。
眠い。

正直に言うと、習いはじめたことを少し後悔していた。
泳ぐ前から。
だって、顔、洗うのも必死なんだってば。
....つれあいによると、かなり必死な顔で洗っているらしい。
中学校のとき、夏中、生理になり続けた。
....もちろん仮病。
なのに、どうして習いに行こうだなんて思ったんだろう。
プールに入るまで憂鬱で、もう逃げだすことばかり考えていた。

泳ぐのに必要なのは、自由に動かせる肉体。
水の中で、どれだけ思うように体を動かせるか。

胸を張り、お尻に力を入れ、顎を引く。
手で前に進むのでは無く、肩を使って水を掻く。
重心は伸ばしている手にもってくる。

あれほど苦手な水の中なのに、
冷静に自分の肉体を意識している自分がいた。
肩、指先、顎と観察していく。
そして、動かす。
思うように、とは言えないけれど、意識は出来る。

「若いから、感覚を取り戻すのが早いのね。」
とおばさん達に言われたのだけれど、
私はこの感覚を味わったことがない。
中学の水泳の授業で、こんな風に肉体を操れなかった。
今日の先生の言葉を借りるなら、
「頑張って泳ぎ過ぎ」ていた。

肉体をがむしゃらに使っても、疲れるだけ。
理に叶った効率の良い方法で、楽に泳ぐ。

泳ぐのは、面白い。
一時間が過ぎる頃には、そう思うようになっていた。
自分の肉体を意識し、動かしていく。
私はそれを嫌いではない。
それどころか、好きだ。

ずっと、ずっと泳げないと思っていた。
水が嫌いで、私はそれと上手く付き合えないと。
なのに、それはすべて思い込みだった。
この二十数年間、私は自分の何を見ていたのだろう。
やってみないと、本当のことは何も見えない。

ところで、
いくら私がすっぴんだからといって
「高校生?」
というおばさん達の発言はどうだろうか。
「違うわよね。高校生は学校よね。」
て、そこで判断したんかい。

これでも私は人妻なんですよ。
四捨五入三十路なんです。

それを言い出したのは私だったのに、
いざ考え出すと、くすぐったいような、白々しいような、
萎びれた夫婦みたいに思えて、つまらなくなってしまった。

同じ趣味を持ち、
休日にそれをして過ごすのもいいのではないか、
と一昨日の晩、提案してみたのである。

「ゴルフ。」と私。
「オセロ。」と夫。
「ジム。」「将棋。」
そんなすれ違いをしているうちに、嫌気がさしてしまった。
そんなものなくても、休日を持て余したことも、
夫との時間がつまらなかったこともない。

夫は、そんな私の気まぐれを察してなのか、
「足のついた将棋盤買おうか。」と勝手に話を進めている。
私がそういうものを、部屋に置きたくないことをわかっていて。

「水泳。」と私は、
江國香織の「ホリー.ガーデン」の不倫をしている美術教師を思い出しながら、言ってみる。
彼女が不倫相手と泳ぐシーン、
その後にオムレツかサンドウィッチかを食べ、別々の場所に帰るシーン。
不倫相手の泳ぎが大胆で、夜もそうなのか、
と想いを巡らせるシーンを思い出す。

村上春樹の「国境の南、太陽の西」の僕の奥さん。
彼女も泳いでいたような気がする。
「アフター.ダーク」の少女もイルカみたいに泳いでいた。

悪くない。
泳ぐのは。
泳ぎたい。

私はもうすでに、
夫婦で共通の趣味を持つということに興味をなくし、
自分が泳ぐ姿を想像し始めていた。

カルキの匂い。
体に張り付く水着の感触。
水のユルユルとした手触り。

「まず、顔を洗えるようにならないとね。」
と水を差したのは夫である。
そう、そうなのだ。
私は水があまり好きではない。
顔を洗うのさえ、自分では気が付いていないのだが、
必死な顔をしているらしい。
泳ぐなんて、もっての外。

足が痛い。
迷子になってしまった。
家から二駅離れた場所にあるスイミングスクール。
「そういう方も大丈夫ですよ。安心して下さい。」
と言う、穏やかな電話の声に誘惑され、ここまで来てしまった。
夕方のせいなのか、教室終わりの子供達でフロントは溢れている。
黄色い声の子供と、怒鳴る親達。
濡れた髪の毛のままで走り回る姿に、決心が揺らいでしまう。

「大丈夫ですよ。このクラスは、そういう方ばかりですから。」
本当に?
中学校以来、泳いだことないんだけれど、
顔洗うのも必死なんだけれど、
それなのに、どうしてなのか泳ぎたくなってしまって...
と口には出さずに、言い訳をしていた。

目標は30歳までに泳げるようになること。
あと、丸々3年ある。
3年あれば、少しぐらい形になるだろう。
「僕は泳げるよ。」
と夏になると、一度はプールや海に行きたがる夫が言う。
私が泳げるようになったら、
一緒にジムに通ってみるのも悪くない。
まず水着と水泳帽を買いに行こう。
次の休みに。
夫と一緒に。

鏡の前で裸にされて

鏡の前で裸になって。
下着をつけて。
それから、スカートを穿いて。
前、横、後ろ、四方八方から視線を浴びせられる。
私自身の視線を。

何のことかと言うと、体のラインのチェックです。
25歳はあらゆるものの曲り角らしい。
肌、髪の毛、そして肉体。
もう体重計や体脂肪率ぐらいでは、正確な自分を認知できない。

裸で確かめる。
服を着ていると見えない部分が見える。
太もものセルライトとか...あぁ、嫌だなぁ。

下着を着けると、
今度はお尻のお肉が無駄だったりする....ううむ。

スカートを穿くと、
太ももが何処までなら綺麗に出せるのかわかってくる。
....ここまでか?

驚き、ため息の連続。
それでも現実を知らないよりは、ちゃんと把握しておいた方が良い。
それが厳しい現実でも。
....かなり厳しい現実なんだけれども。

標準的な体重や、体脂肪率というのがあって、
私のそれは、何とかそこに収まっている。

けれども、数字がすべてではないのが、体。

一年前、私は同じ数字を打ち出す体だったくせに、
今の方が楽に履けるズボンがある。
バーゲンでノースリーブの服を試着して気がつく。
上半身、肩から二の腕にかけて、
明らかに肉付きが変っていることを。

ヨガをはじめて一年。
週一回の教室、平日は毎日1時間自主練習、効果があっても不思議はない。
でも、数字は変らない。

肌や体に良い入浴剤を入れて、ゆっくりと湯舟に浸かる。
お風呂上がり、オイルでマッサージをする。
顔はもちろん、体にも気を使う。
髪の毛にも。
見えないところこそ、手間をかける。
視覚、触覚、嗅覚、味覚...それらをフル回転して味わいたくなるように。

昔、雑誌の「ヒモ」特集で男の人が言っていた。
僕は「ヒモ」だから、彼女達がいつ僕に抱かれても気持ちが良いように
肌の手入れをして、身だしなみを整え、そして会話を用意する。

私は女で、恋をしている。
彼に愛されたいし、私を気持ち良いと感じて欲しい。
もし、この恋が終わっても、また恋をする。
恋をしていなくても、男の人か甘やかされたいし、女でありたい。

服は自分を飾るために、
そして脱がされるために着ていたい。
見られて、脱がされて、触れられて、
いつでも彼らが、声をあげたくなるような私でいたい。

勝負下着?
そんなものはない。
毎日勝負しているので、特別な下着は必要ない。
うっかり買い物ついでに恋に落ちても、慌てないように。
安売りのトイレットペーパーを左手に、
右手で牛乳の賞味期限を確かめている女に恋をする人がいたら、の話ですが。

私のあそこを熱くして

急に思いたってしまったのは、
夫の身体のせいではなく、彼のせいである。

私は行動するまでにおそろしく時間がかかる。
なのに一度思い立つと、
何も目に入らなくなってしまい、走り出してしまう。
もうすでに1年近く燻っていた私を、
動かしたのは夫ではなく、夫以外の男だった。

「元気ないんだよ。」
「疲れているから。」
という言葉を聞くたびに、私は満たされず、
ゆるゆると気持ちが揺れていた。
だけど勇気も冒険心もない私は、いつも躊躇してしまう。
そしてぐずぐずと考え、そのうちそれは萎えてしまう。

「お前は俺を手に入れることができない。」
「俺を離したくなる。」
と彼はいつも、私に大きなことを言う。
「そうね。」
と心ここに在らずの返事を真に受けているとは思わないのだが、
彼は私にだけなのか、
それとも多くの女性にそうなのか、あまりにも高慢すぎる。
そして彼は、度が過ぎた。
それが私に火をつけた。
私の女心に?恋心に...。
ではなく、営業マン心に。

おそらく、彼の2度目の失敗である。

一度目は私を追いつめたつもりで、
逆に私に追いつめられ、オロオロしていた。
いい気味である。
女を、トップ営業マンを舐めるなよ。
お前程度に、丸め込められる女じゃないんだよ。
と口には出さなかったが、心の中で舌を出していた。

彼を手に入れたい、とか
心酔させたいというのではなく、落としたい。
それは
「あなたが言うなら仕方がない。」
とセールス相手に言わせたい気持ちに似ている。
「そんなつもりなかったのに。」
と言いながら、決断する瞬間を見たいのである。

女を、元営業マンを舐めんなよ!

で、何を決断したのかと言うのと、
彼に会いに行くとか、行かないではなく、
彼がこの先、私が会うことがあったとき
「俺、何であのとき、こいつを手に入れなかったんだろう。」
と思わせる女に、妻になろうと決心したのである。
「俺、こいつを嫁さんにしたかったなぁ。」
と言わせてみたい。

というわけで、
夫が前々から私にそれとなく頼んでいた、
マッサージを習おうと思い立った。

夫は医者に驚かれるほど、身体が固く、疲れが溜まりやすい。
休みのたびに、マッサージやら整体に行くのだが、
一回ニ回ではどうにもならないらしい。
それに、もう30半ばのおじさんだし....。
いつまでも、仲良く戯れ合いたいし....。

高慢な彼の鼻をへし折るのと、
一見、関係のない決意なのだが、
そう決意させたのは、彼以外の何者でもない。

もしかすると、彼はそれを狙っていたのか?
何だかんだ言いながら、
私が夫を好きで好きで仕方のないことを知っていて、
私の背中を押してくれたのだろうか。

男を、現役営業マンを舐めんなよ!
と舌を出しているのは彼の方かもしれない。
まったく、侮れない男である。

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