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嗚呼、高校ラグビー!

大阪の花園ラグビー場に試合終了の笛が鳴る。
「KS」くんが、左ウイングとして出場した岡工は、
1回戦で岡山県代表の津山工業を大差で破って勝ち上がり、
大阪代表の淀川工業との2回戦を同点で引き分けた。

あの年、岡谷工業高校は長野県予選を他校を
全く寄せ付けない力で勝ち上がり、
そのままの勢いで全国大会に臨んでいた。
自慢の重量フォワードと俊足の両ウイングを有したチーム力は、
岡工ラグービー部史上、屈指の戦力だった。

KSくんは中学3年生の夏期講習から塾に来た。
初対面で「KSくんだね。じゃあ、Kちゃんと呼ぼうかな」
と言った私の顔を彼は鋭い眼光で睨み返してきた。

あるとき、こんな事件があった。
秋も終わりの寒い日に、彼は真っ赤な顔をして塾にやってきた。
ろれつが回らない。
明らかに酒に酔っている。しかも相当に。
彼は学校では無口らしかったが、その時は雄弁だった。
「悪友のところに集まっていて酒を断れなかった」
「団地内を何周かランニングしてきた」
「ランニングして酒を醒まそうとした」とも。
とにかく彼は良くしゃべった。
そんな状況でも彼は塾に勉強しに来た。
だから今日のことは不問に付そう、私はそう思った。

彼は体格こそ175cm程度であったが、
スポーツ万能の運動神経と鋭い目つきで恐れられていたらしい。
同級生を一睨みで泣かせてしまった話や、
隣町の中学生から呼び出しを受けて一人で乗り込んでいったら、
相手がみんな逃げてしまった話や、
同学年の生徒をバスの停留所の支柱に括り付けて放置した…
そんな話を人づてに聞いていた。

そんな彼だったが、
同級生の女の子が言うには、
「学校ではいつも威張っていて恐いけど、塾では笑顔で気持ち悪い」と。どうやら塾では別人になるらしい。

冬が来て、いよいよ進路を決めなければならない時期になった。
Kくんは岡谷南高校への進学を希望していた。
岡谷南はそれなりに学力が必要な高校だが、
彼には合格圏内の学力はある。

「岡谷南に入って勉強したいのか?」という私に、
「勉強は嫌いだ。岡谷南で野球を続けたい」という。
「だったら岡谷工業はどうかな?」
「岡工で野球ですか?」
「いや、ラグビーだよ。君の運動能力や性格はラグビーに向いている んじゃないかな。
 それに、岡工なら花園の全国大会に出られると思うよ」
「じゃあ、もしオレが花園に出たら、先生は応援にきてくれる?」
「ああ、絶対にいく」
「それならオレ、岡工にする。岡工でラグビーをやりたい」

そして私は彼との約束を3年後に果たすことになる。
1回戦の津山工業戦の応援は
大雪で高速道路が閉鎖されて行けなかった。
そして2回戦、
暗いうちに家を出た私は花園ラグビー場にやってきた。

試合開始一時間前のグラウンドに降りて、
ゴールを見上げていた私の横を岡工の選手が通り過ぎていく。
居た。Kくんだ。
「K!」
彼は私の方に鋭い視線を送ってきた。
気迫が全身から溢れていて恐い。
「おう、先生、来てくれたんだ!」
彼はそう言うと柔和な微笑みをみせた。
「K! 勝てよ!」
「おう、絶対に勝つ!!」
彼はそう言うと短距離の選手のように全力で疾走して行った。

試合中に野球やサッカーのような黄色い声援は一切なかった。
低音でドスの効いた「おーかーこー」の応援しか聞こえない。

重量フォワードの激突、モール。俊足のウイングをタックルが襲う。
倒された選手から別の選手へとボールが託される。
実力者同士が全力でぶつかる、すごい試合だった。
見ているだけで背筋が寒くなった。
彼らを走らせているものは度胸ではない。勇気だ!

試合は終わった。
ラグビーには延長がないために、抽選で勝ち上がる学校を決める。
抽選くじの結果、3回戦に進むことができたのは淀川工業で、
岡工は涙をのんだ…。

私は…ひたすら高速道路をぶっとばし、
時々「あー!」「くそー!」と激しい言葉をぶつけながら
帰路についていった。


後日。
高校を卒業した彼は、穂高のワサビ漬けを持参して塾を訪れた。
「先生、就職が決まりましたので報告にきました」
「どこに就職したの?」
「C電力です。オレ、ラグビーやってなかったらC電には入れなかったと思います」

さらに数年後。
彼の結婚式に招待された私が会場で見たものは…。
いやはや、近づきたくない猛者の集団で会場はいっぱい、いっぱい。
みーんな、あの時のラグビー部の連中だ。(笑)



閉じる コメント(11)

こんばんは。
・・・学校と塾での態度が違う!・・・
ふ〜む!・・・
そりゃ・・・やっぱり!aromaさん!・・・
「教育者としての包容力、眼力、信頼度・・・諸々が半端なく強力なのでしょうね〜!!」☆
・・・いやいや!以前からビンビン感じてましたよ〜そのaromaさんのオーラを!!・・・
いや〜、K君はaromaさんと巡り合えて幸運でしたね〜(涙)

ヒメ「私なんて!私なんて!見向きもされないで!aroma殿に無視され、昆虫ガールには虫勧められ・・・涙にくれる日々ですのに〜!!・・・」
ジイ「ヒメ!戯言も大概になさいませい、お忙しいaroma殿を、お引止めしてはなりませぬぞ!これ!手を!その手をお離しなされ!早う・・・視て御覧なされ・・・aroma殿のお顔が!カープのユニフォームの様に成ってしまわれたではありませぬか!」

2015/1/11(日) 午後 11:19 [ 今日も、こっそり自然観察! ]

おはようございます♪

ノーサイドの笛が鳴れば敵も味方もなし(^o^)

ラグビーは本当に良いですね。
私も学生時代は膝を壊すまではFW(フッカー)としてスクラムの真ん中で頑張っていました(^o^)

2015/1/12(月) 午前 7:05 [ - ]

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時間を超えて思い出が蘇りますね。
懐かしい思い出の数々が人生を豊かにしますね (^^♪
ナイス!

2015/1/12(月) 午後 1:24 絵里奈

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いい話だにゃー・・・うん。良い話♪

同点の場合、くじなんすか?それって納得できないですね
サッカーみたいな方式ならいいのに・・・

ラグビー仲間がそのままつきあいが継続するのも分かる気がします
ぶつかりあって過ごした3年間なんですものね

2015/1/12(月) 午後 2:13 田舎の猫・みけ

おはようございます😊

K君は、もし湖池健彦aromaさんとめぐり合っていなければ、こんな素晴らしい選手(人間)にはなっていなかったかもしれません。

やっぱりその子の才能をしっかり知って導いてくれる指導者がいなければ、その子の才能は開花せずに埋れてしまいます。

湖池健彦aromaさんは、素晴らしい指導者なんだと改めて思いました。

これからもお身体には充分気をつけられて、いろいろな子供たちの才能を開花させてあげるように頑張っていただきたいと思っております。

今回も素晴らしいお話しをありがとうございました。

2015/1/13(火) 午前 4:35 [ てんし ]

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> 今日も、こっそり自然観察!さん
昆虫ガールさん、こんにちは!
こんばんは。
Kくんの学校と塾での態度が違うことですが、
彼には悪友が多く、おそらく学校では「つっぱっている」
必要があったのだと思います。
その点、私は自然体で接していたから気楽だったのでしょう^^
彼と私の出会いが、彼にとって良かったのか、それとも悪かったのか、
誰にも分からないのですが、
私にとっては良かったと思います。
少なくともラグビーというスポーツが、
何より「勇気」を求められている、その事が分かったからです。
とにかく素晴らしいスポーツです!
※続きます↓

2015/1/16(金) 午後 4:06 [ 湖池健彦 Essay ]

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> 今日も、こっそり自然観察!さん
※続きです↑
山田くん「師匠!ラグビーは素晴らしいスポーツみたいですよ」
歌丸師匠「うーん、確かにあのボールの形を見ていると、ワシには親近 感がわいてくるねぇ」
山田「そうですよね。あのツルツルのボールは師匠の…」
歌丸「山田くん、それ以上言ってはいかんね(怒)」
山田「あはは、冗談ですよ、冗談(汗)」
歌丸「それより、山田くん、今年の広島は盛り上がるねぇ」
山田「昆虫ガールさんが、ヒメさまを連れて、ツチの子でも捕獲するん
ですか?」
歌丸「ちがうよ、ヒメさんを連れてカープの応援にでかけたガールさん が、黒田投手が打たれそうになると叫ぶんだよ!」
山田「何て叫ぶんですか?」
歌丸「こらー、バッター!もし打ったらスズメバチを放つぞ!〜って」
山田「今年も昆虫ガールさん、大活躍ですね(爆笑)」

2015/1/16(金) 午後 4:07 [ 湖池健彦 Essay ]

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> キヨカズさん
キヨカズさん、こんにちは!
え、キヨカズさんはラグビーをやっていたのですか?
何と!
あの試合を間近で見たので、その激しさがわかります。
身体を壊してしまうのも理解できます。。。
それにしても、キヨカズさんはスポーツも勉強も、
文武両道でがんばっていたんですね。
そして今も仕事以外にも多くの趣味をもって…
人生を有意義に過ごす名人だと感じています。

2015/1/16(金) 午後 4:14 [ 湖池健彦 Essay ]

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> 絵里奈さん
絵里奈さん、こんにちは!
そうですね、人生は「出会いが総て」なのだと思います。
その結果がどうであれ、多くの出会いが
その人の人生の質を決めていく…不思議なものですね。

2015/1/16(金) 午後 4:17 [ 湖池健彦 Essay ]

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> 田舎の猫・みけさん
三毛さん、こんにちは!
そうなんです、同点の場合、くじを引いて、次に進む高校を決めるんです。だから決勝で同点だと、両校が優勝になります。
それが他の競技にはないラグビーの魅力でもあります。
勝敗にこだわらずに、精一杯のプレーをする、
試合後は両者の健闘をたたえあう、それがラグビーなんです。
それに、延長戦を戦う体力と集中力が残っていないと思います。
延長などしたら怪我人がでると思います。
そのくらい激しいスポーツですね。

2015/1/16(金) 午後 4:25 [ 湖池健彦 Essay ]

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> てんしさん
てんしさん、こんにちは!
私はKくんに適切なアドバイスをしたのか、
今でも自問自答をしています。悩んでいます。
彼は頭も良かったから、
もし岡谷南高校に進んでいたなら、
大学に行き、そして別の人生を選択できたはずです。
彼は当時、悪友が多くて、そこから離れるにはラグビー部が良いと
私が勝手に判断して、彼に勧めたのですが、
それが一番いい方向だったのか、私には自信がありません。

今まで塾をやってきて、
「塾なんだから、勉強だけ教えていればいいんだ、うちの子に余計なことを言わないでくれ」と怒鳴り込んできた親もいました。
でも、間違ったことをしたときに「お前は間違っている」と言えないようなら、私は塾を続ける必要がありません。
でも、Kくんの場は、私ののアドバイスが
結果として彼の人生の多くを決めてしまっているので、
責任は大いに感じています。
でも、気力がある限りは塾を続けていくつもりでいます。

2015/1/16(金) 午後 4:35 [ 湖池健彦 Essay ]


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