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仕事柄、夜遅くに国道や県道を車で走ることが多い。
大型トラックの容赦のない接近に、時には危険を感じて
左に寄って道を譲ることもある。
彼らは有料の高速道路を避けて、
夜間の空いている一般道を猛スピードで走り、
再び高速道路に乗ることで時間と金を稼いでいるらしい。
警察の検問なども、トラック仲間から情報を入手していて平気だ。
彼らの危険を伴う走りを一言でいえば<野暮で下品>だ。
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天才と呼ばれた世界的な老物理学者を前にして、
天山山脈で羊飼いをしているカザフ族の少年は言う。
「車は不便で嫌いだな。それに車がお尻から出す臭いはたまらない」
「どうして車の方が不便なの?」と老物理学者。
「だって、車で行けるところなら、どこでも馬で行けるけど、
馬で行けるところで、車で行けないところはたくさんあるし、
車の食べるガソリンは高いけど、馬の食べる草はただみたい
なものだよ。ただひとつの取りえは、車のためにわざわざ
作られた道を走るときだけ、馬よりも速いってこと。
でも、速いってことは、それほど意味があることじゃないよ」
「でも、例えば、刈り取った羊毛を街まで運ぶのに、車なら
倍以上も早く行けるだろう? そうしたら、あまった半日を
他のことに使えるじゃないか?」と老物理学者。
「わかっていないんだね、お爺さん。その人は一日に何度も
羊毛を積んで街まで出かけてしまうことになるのさ。
早くなるということは、時間が余ることじゃなくて、
もっと忙しくなるということなんだ」
「この宇宙で、一番速いものって、何だろうね?」と老物理学者。
「それはひと口には言えないな、たとえば鳥が速いっていっても
土の中ではモグラの方が速いし・・・」
「この世で一番速いものは光だよ。馬より速い車が170年以上
もかかる距離を、光は8分ほどでやってくるんだ。だから
この宇宙には光よりも速いものは存在しないんだよ」
と老物理学者。
「もっと速いものを僕は知っているよ。それは僕のお父さんだよ。
僕のお父さんは、僕が生まれた
今から13年前の9月20日の夕方に、ここからすごく
遠いカシュガルに居たんだけど、僕が生まれた途端に、
お父さんはお父さんになったんだ。だから、お父さんがお父さんに
なるのに時間はかかっていないんだ。
もしお父さんが、車で170年かかる太陽に居たとしても、
やっぱり時間はかからない。
だから、お父さんになる、というのは、絶対に光よりも速いんだ」
カザフ族の少年と、天才と言われた老物理学者の会話はさらに続く
「さっき、物質とか、時間とかの話を、きみはしたよね。あれは、
とてもおもしろかった。
もう少しわたしに教えてもらいたいんだけど」と老物理学者。
「いいよ。物質というのはね、時間を入れるための器なんだよ。
それでね、時間っていうのもね、物質を入れるための器なんだよ。
たとえば石の中にだって、時間はある。太陽みたいなものにだって
時間はある。だからね、石の中にある時間の量も、太陽の中にある
時間の量も同じなんだ。1秒とか、1時間とか、いろんな時間が
あるけど、1秒の中にも、この宇宙は全部入っているし、1時間の
中にも、この宇宙は全部入っているんだ。
物質っていうのが時間を入れる器で、時間っていうのが物質を
入れる器だっていうのは、そういう意味なんだけどね・・・」
老物理学者の愛嬌のある顔が、
おさえきれないほどの微笑で埋もれそうになっていた。
そして「ビューティフル!」といい、
少年に抱きついてキスをしていた。
老物理学者と少年は、さらに長い時間を話し続けたのだった。
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夢枕獏さんの短編、「羊の宇宙」の内容の一部である。
たむらしげるさんの温かい挿絵も素晴らしい。
私の最もお気に入りの本のひとつである。宝物といってもよい。
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読んだ「本」
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漂亮!とでもいうのでしょうか^^
素敵なお話ですね。
天山会は4年前に解散しました。カシュガルまで行ったのです。
当時でもウイグル自治区は独立したいと言っていました。
少数民族が集まった地区のようでした。
読んでみたい一冊です。
ナイス☆ (⊹^◡^)ノ凸☆
2015/6/17(水) 午後 8:03
こんにちは。
・・・この本の事を知りませんでした・・・
上記の抜粋、紹介の文で・・・
この少年の柔軟な発想、考え方に・・・
心奮えました!
淡々とこだわりなく話す少年の話の内容には、難しく事を考えがちな天才老物理学者の難問を、いとも簡単に解いてしまうヒントが隠されてたのでしょうね?・・・
その少年の柔軟で自由な発想は!
自然の中で暮らす事から、生まれて来てるものだと想像できます。
自然の中で自然の様子を観察してるだけで、自然に湧いてくる感情、想いが口を通して言葉として素直に出て来ただけなのかも?・・・???
自然と共に暮らす少年の素直な発想と柔軟な考え方に触れるだけで!
私は、心が和む気がします・・・
そう言った意味でも、一度は読んでみたい本の一つに成りました!!!☆・・・
2015/6/18(木) 午後 2:38 [ 今日も、こっそり自然観察! ]
お久しぶりです。
お元気でしたか(^^)
トラックの方、早く走りますよね〜
仕事上急ぎかと思い、道を譲りますよ。
事故にならないといいな〜と思っていますが、
お気に入りの本があっていいですね。☆
近年本を読むことがありませんので、
遠い昔は落合恵子の本をよく読んでいましたが、
ラベンダーですか〜!畑でも小さなラベンダーの花を
咲かせてきましたよ。
2015/6/18(木) 午後 6:18 [ setia ]
someyukiさん、こんばんは!
「漂亮」ですか、someyukiさんは中国語に詳しい方なのですね(^_^)
カシュガルまで行かれたのですね。どんな街なのでしょうか(?_?)
私は、海外はヨーロッパに二度だけ行ったことがあるだけです。
昔はシルクロードに憧れて、
いつか旅をしたいと思っていましたが、
今は日々の雑事の中に埋没しているような生活です(×_×)
大国の横暴で、ウイグル自治区などの少数民族は哀れです。
夢枕獏さんの「羊の宇宙」(文藝春秋)は、
「鳥葬の山」に収められた短編の一つですが、
たむらしげるさんの挿絵と共に絵本として発売されました。
残念ながら、現在では絶版となっています。
でも、Amazonなどで、昔のものを入手できます。
挿絵も、とっても魅力的です。
ぜひともお読み下さい\(^O^)/
僕は落ち込んだりしたときに、いつもながめています!
2015/6/20(土) 午後 7:27 [ 湖池健彦 Essay ]
今日も、こっそり自然観察!さん
昆虫ガールさん、こんばんは!
僕は「羊の宇宙」が大好きです。
何かあると手にとって眺めたり読んでみたり考えたりします(^^)
この本には人が幸せに生きるヒントがいっぱい詰まってますし、
宇宙物理学、哲学、宗教にも通じるものがあります。
ガールさんの「自然の中で自然の様子を観察してるだけで、自然に湧いてくる感情、想いが口を通して言葉として素直に出て来ただけなのかも?」という考察、実に鋭いです(@_@;)
まさに、その通りだと思います。
さすがに昆虫ガールさんです(*_*)
物理学者の「どうして投げた石は下に落ちるの?」の問いに、
少年は「それは、石が落ちたがっているからさ」と答えます。
ふふふ(^。^)
何だか、昆虫ガールさんも同じ答えを出しそうですよね(*^_^*)
Amazonなどで手に入りますので、
ぜひともお読み下さいね(^_^
このところ、ブログに気持ちが向きませんでした。
また昆虫ブログにお邪魔しますね(^ニ^)
2015/6/20(土) 午後 7:41 [ 湖池健彦 Essay ]
ぽいんせちあさん、こんばんは(^_^)
すっかりご無沙汰してしまいました^_^;
このところ、仕事や勉強が忙しく、それにプラスして、
自分にとって、とても嬉しい出会いがありましたので、
ブログを更新することすら忘れていました(^_^;)
トラック運転手たちの商売にケチをつけるわけではありませんが、
シルバーマークを貼った車まで煽ったりするのはやり過ぎです。
商売だから許される? そんなことは、僕は認めません。
久々の更新に、この本を選び、
ベランダに置いてあるラベンダーの鉢の前で記念撮影しました。
さすがに、ぽいんせちあさんですね、葉っぱだけで
ラベンダーって分かるんですね(^_^)b
庭に植えたラベンダーたちは、かなり大きな株になっていますが、
鉢植えしたものは玄関に置いたり、部屋に持ち込んだりして
楽しんでいます(^o^)
ぽいんせちあさんの富良野ラベンダーも開花したんですね(*^^)v
僕はテレビをほとんど見ませんので、ラジオばかりです。
落合恵子さん、たまにNHKラジオで拝聴しますが、
やわらかい語り口が心を癒してくれます>^_^<
2015/6/20(土) 午後 7:59 [ 湖池健彦 Essay ]
絵里奈さん、こんばんは!
老物理学者の正体を明かさなかったのは、
これからこの本を読む方々への配慮でした。
この世のことは誰にも分かっていない、
それは世界的な物理学者にも、釈迦にも・・・
みんな自由にこの本を読み、
自分なりの理解をする、そんな読み方が出来る本だと
僕は理解しています。
だから、宝物なのです^^
2015/6/20(土) 午後 10:03 [ 湖池健彦 Essay ]
素敵な本ですね。科学万能主義の現代社会を痛烈に批判しているのでしょうね。読んでみます。
2016/3/4(金) 午後 10:05 [ bonneyのブログ ]
> bonneyのブログ☆和知幸枝☆さん、こんばんは!
「羊の宇宙」は、夢枕獏さんの「鳥葬の山」という本にある短編でしたが、挿絵を加えて一冊の本になりました。
今はAmazonなどで古本としてあるだけだと思います。
少年の素直で優れた洞察と、
老物理学者の少年の心が嬉しい作品です^^
2016/3/5(土) 午後 7:23 [ 湖池健彦 Essay ]