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辺りは真っ暗だ。

懐中電灯の灯りだけを頼りにして、

真白い息を凍らせながら雪と砂利が混じった急な坂道を上って行く。

夜明け前だから、気温は氷点下10℃に近かっただろう。

城北小学校4年生だった僕たち四人は、山の中の雑木林の中にある、

中継地点になる「七曲がり」の笹の道を目指して、

千本木川に沿って続く雪の積もった小道を黙々と歩いていた。


出発時の高揚はすでに消えていて、

暗闇を行く少人数の心細さが僕らを無口にしていた。


やがて、東南の方角の山の裏側が少し白み始めた頃、

誰かが「あっっっ」と奇声を発した。

彼が指さす方角を見れば、見覚えのある怪獣が、

尖った鋭い三角形を備えている灰色の皮膚をまとって

仁王立ちしているではないか!


「わあ〜っ」と僕らは雑木林をめざして、一目散に駆けだした。   

そして「七曲がり」の入り口付近で、

僕らは息が切れ、足がもつれて雪の上に重なりあって倒れた。


太陽が現れて、雪上を照らし始めていた。

怪獣の陰影はどこにも無かった。

そこには、垂直に切り立った灰色の岩場の、

凹凸のある複雑な地形が見えるだけだった。


夏には何度か通ったことのある「七曲がり」だったが、

冬のそれは勝手が違っていた。

冬用の長靴を履いているのに、何度もすべって転んで、

全身が雪まみれになった。

雑木林の七曲がりを抜けると、

そこには別世界の明るさが広がっていた。


夏には小さな滝だった川が凍って、そこに朝日が反射している。

水滴の一粒一粒が水晶のような形を形成し、

虹色のグラデーションの連続が瞳に飛び込んできた。


幼い小学生の目にも、その光の芸術群は格別なものに映り、

僕らは20センチにもなる霜柱を踏みつけながら、

しばらくはその場所で遊んだ。


最後の急な坂道を上りきると、僕らは「蓼の海」に着いた。

背中のナップサックに入れて持ってきたスケート靴を取り出し、

握力の足りない少年の指で、ひもを強く結んだ。


鈴木恵一などの名スケーター達が

日本記録を何度も塗り替えた天然氷のリンクの上を、

僕らは転倒を繰り返しながらも元気に滑っていた。

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湖池健彦 Essay
湖池健彦 Essay
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