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「ねこ物語」〈第1話〉前半
僕は勝手気ままに三日程ぶらりんと外出をして、
森野家のお屋敷を留守にしていたんだ。
最初はぐんと伸びたススキに視界を邪魔されて、
それで道を間違えたのかと思い、
僕が前に残しておいた目印とか匂いをたよりにして、
何度も別の道をたどって探してみたんだけれど、
初秋の紅葉も鮮やかな森野博士の広大なお屋敷は、
跡形もなくすっかり消えてしまっていてね、
そこには見渡す限りの枯れススキの群生があるだけだった。
僕は仲間の中ではかなり賢いやつといわれているけど、
それでもこの数日間に起きた出来事を想像するのは難しいよね。
あれ程に大きなお屋敷とお庭がね、突然になくなるなんてさ、
たとえ取り壊すにしたって、数週間はかかるはずだしね。
なんとか取り壊して撤去できたとしても、
屋敷の土台の後や、匂いくらいは残っているはずだよ。
待てよ、気のせいかな。
僅かにネロリの香りがするような気も…。
わずか数日の探検とは言え、僕が食べたものといったら、
草原のバッタやら蝉、それにレモングラスくらいだったから、
僕は腹ぺこ状態のまま「これからどうしようか」
「お腹空いたよ〜」と途方に暮れていたんだ。
腹が減ったら散歩もできぬ、ん?
だから僕の足は何度か訪れたことのある近所の家、そう。
優しいおばあさんのいる三階建てのお洒落な住宅に向かっていた。
その柔和な表情のおばあさん《名前はイトさんという》は、
僕の姿を見つけるとね、そのシワクチャな顔を、
尚更にシワクチャクチャにしてさぁ、
「かわいいね、ほんとにかわいいね」と喜んでくれるんだ。
さてと。今日は何をご馳走してくれるのかな。
そのイトさんが赤い半纏をまとって、
いつも日向ぼっこをしている広い縁側の扉は閉まっていた。
そんな時、僕は庭に植えてある大きな梅の木に上ってさ、
スルスルと二階のイトさんの部屋まで行くことにしている。
その日は少し肌寒かったけれど、
好天だったから窓はすこし開いていて、差し込む日光の下、
イトさんは毛糸を使っての編み物に集中しているところだった。
後半へとつづく
↑お盆に掃除をしていたら出てきた絵はがきより。「日本捨猫防止会」03-472-8XXXとある。
はじめに。
「ねこ物語」は三毛ねこの物語です。
森野家の屋敷が突然消えてしまったあと、
屋敷で飼われていた三毛ねこが、
野良猫として爽やかに健やかに生きていく物語です。
〈第1話・前半〉に出てくる森野家の屋敷とは、
私が2013年に文芸社から出版したファンタジー小説「アロマ物語」
の舞台となったアロマ屋敷のことですので、
アロマ物語の読者の方には、想い出していただけるかも知れません。
森野博士や森野香織・山川健も、後半では登場させるつもりです。
いずれにせよ、主人公はねこです。
アロマ物語とは関係なく楽しんでいただけるように
話を進めていきますので、想像力を掻き立てて楽しんでください。
湖池健彦
付記
九十歳になった父親の健康状態が良くないので、
連載は度々中断したり、かなり不定期にもなりますが、
書くことが自分の気持ちを立て直す切っ掛けにもなってます。
文章を書くことは、自分を反映させること、見直すことでもあります。
先ずは第100話は必ずに、
100話以降もずっと書いていくつもりでいます。
※参考
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2017年08月15日
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