連載小説 「ねこ物語」

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「ねこ物語」〈第1話〉後半
僕はイト婆ちゃんに気づいてもらいたくて
「にゃーご、にゃーご」と甘えた声を出してみせた。
二階で毛糸に集中していたイトさんは棒針の動きを止めて、
「おや?」っとつぶやきなながら、
「よっこらしょ」っと、
ゆっくり腰を上げて窓の隙間から外を覗いてみた。
「ほうっ、三毛ちゃん!」、そう言いながら窓を全開にした。
「外は寒いから早く入っておいで!」

僕は部屋の赤い絨毯に狙いを定めて軽くジャンプをした。
イトさんの部屋には毎週のように招かれていたから、
毛足の長い絨毯に舞い降りるのはお手の物さ。
自慢の肉球と、仲間たちに羨ましがられている脚力で
もしもオリンピックならば、10.00の着地をしてみせた。

着地と同時に僕はイトさんの毛糸のズボンに半身を預けながら、
自慢の毛並みをこすりつけるようにして、
素早く行ったり来たりするのさ。
イトさんは僕の頭や身体を撫でようとするのだけれど、
僕の動きが速すぎて手がついてこられない。そのうちに、
上体をひねった格好をしたまま転がってしまったんだ……でも。
身軽で小柄なイトさんは、
まるで起き上がり小法師のように反動で上半身を起こし、
膝を曲げてお尻をついたまま両手を後ろにやって身体を支えている。

イトさんは笑っている。
そのうちに、笑いに腹筋が耐えられなくなったのか、
支えている両手をお腹に持って来たから、
再び上向きに寝転がってしまった。
それでも笑っている、お腹を抱えてずっと笑っている。

僕は何がそんなに面白いのか理解できなかったけれども、
撫でてもらいたくて、両手が押さえているお腹に跳び乗ったのさ。
同時にイトさんは僕を撫でるために
両手を僕の身体にもってきたのだけど、
それからが大変だった。
笑っている。
声を出さないで、小刻みに腹筋を震わして笑っている。
涙を流して!笑っている、笑っている!

さすがにイトさんが涙を流して笑いを堪えているのに気がついた僕は、
慌てて編み物をしているときに使っていた座布団にジャンプをした。
「ふぅ、ふぅー、 あっはは、 ふぅ、ふぅー、あっはは …」
しばらくイトさんは息が苦しくて話せない状態が続いたのだけれど、
とっても生き生きとして嬉しそうだったから、
僕もしっぽを垂直に上げて、ご機嫌のポーズをとって見せたら、
「かわいいね、ほんとにかわいいね」と喜んでくれたんだ。   
                         続く

                第1話<後半>おわり



   「ねこ物語」〈第1話〉前半 ↓


 ※「ねこ物語」実に丸一年振りの更新になりました。
  1年前に、<第1話>前半を書いてから1ヶ月後に父が入院し、
  更に1ヶ月後には緩和ケア病棟のある病院に転院。
  いろいろな想い出が交錯していますが、昨日、新盆をむかえました。
  今後、亡き父や母が喜んでくれるような小説「ねこ物語」にするつもりです。
  
  



イメージ 1

  ↑マヌル猫の赤ちゃん。 上野動物園に展示されている写真より。
「ねこ物語」〈第1話〉前半

僕は勝手気ままに三日程ぶらりんと外出をして、
森野家のお屋敷を留守にしていたんだ。
最初はぐんと伸びたススキに視界を邪魔されて、
それで道を間違えたのかと思い、
僕が前に残しておいた目印とか匂いをたよりにして、
何度も別の道をたどって探してみたんだけれど、
初秋の紅葉も鮮やかな森野博士の広大なお屋敷は、
跡形もなくすっかり消えてしまっていてね、
そこには見渡す限りの枯れススキの群生があるだけだった。

僕は仲間の中ではかなり賢いやつといわれているけど、
それでもこの数日間に起きた出来事を想像するのは難しいよね。
あれ程に大きなお屋敷とお庭がね、突然になくなるなんてさ、
たとえ取り壊すにしたって、数週間はかかるはずだしね。
なんとか取り壊して撤去できたとしても、
屋敷の土台の後や、匂いくらいは残っているはずだよ。
待てよ、気のせいかな。
僅かにネロリの香りがするような気も…。

わずか数日の探検とは言え、僕が食べたものといったら、
草原のバッタやら蝉、それにレモングラスくらいだったから、
僕は腹ぺこ状態のまま「これからどうしようか」
「お腹空いたよ〜」と途方に暮れていたんだ。

腹が減ったら散歩もできぬ、ん?
だから僕の足は何度か訪れたことのある近所の家、そう。
優しいおばあさんのいる三階建てのお洒落な住宅に向かっていた。
その柔和な表情のおばあさん《名前はイトさんという》は、
僕の姿を見つけるとね、そのシワクチャな顔を、
尚更にシワクチャクチャにしてさぁ、
「かわいいね、ほんとにかわいいね」と喜んでくれるんだ。
さてと。今日は何をご馳走してくれるのかな。

そのイトさんが赤い半纏をまとって、
いつも日向ぼっこをしている広い縁側の扉は閉まっていた。
そんな時、僕は庭に植えてある大きな梅の木に上ってさ、
スルスルと二階のイトさんの部屋まで行くことにしている。
その日は少し肌寒かったけれど、
好天だったから窓はすこし開いていて、差し込む日光の下、
イトさんは毛糸を使っての編み物に集中しているところだった。
                       後半へとつづく

イメージ 1
 ↑お盆に掃除をしていたら出てきた絵はがきより。「日本捨猫防止会」03-472-8XXXとある。

 
  はじめに。
 「ねこ物語」は三毛ねこの物語です。
 森野家の屋敷が突然消えてしまったあと、
 屋敷で飼われていた三毛ねこが、
 野良猫として爽やかに健やかに生きていく物語です。

 〈第1話・前半〉に出てくる森野家の屋敷とは、
 私が2013年に文芸社から出版したファンタジー小説「アロマ物語」
 の舞台となったアロマ屋敷のことですので、
 アロマ物語の読者の方には、想い出していただけるかも知れません。
 森野博士や森野香織・山川健も、後半では登場させるつもりです。

 いずれにせよ、主人公はねこです。
 アロマ物語とは関係なく楽しんでいただけるように
 話を進めていきますので、想像力を掻き立てて楽しんでください。
                           湖池健彦
 付記
 九十歳になった父親の健康状態が良くないので、
 連載は度々中断したり、かなり不定期にもなりますが、
 書くことが自分の気持ちを立て直す切っ掛けにもなってます。
 文章を書くことは、自分を反映させること、見直すことでもあります。
 先ずは第100話は必ずに、
 100話以降もずっと書いていくつもりでいます。


  ※参考
    湖池健彦「アロマ&ハーブ 」Blog はこちらです↓


 
 



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