俺の映画日記

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最も尊敬する映画人といってもいいイーストウッドの新作、迷わず公開初日に見に行った。
基本的に、イーストウッドの映画にはずれはないのだが、僕にとっては『ミリオンダラーズベイビー』
や『硫黄島』シリーズよりも、この作品の方が素晴らしいと思えた・・。
というか、『許されざる者』以来の感涙であった・・といってもいい。

基本的には、イーストウッド映画に対する点数は甘いのだが、それにしても、今回は、画面の背後にいる
巨匠の風格すら感じた。
そうだ、今回は、画面の背後に司令官として余裕たっぷりに座っているであろう、
イーストウッドの風格・余裕、といったものを感じた・・・。
何故なんだろう??


映画が始まってすぐに、イーストウッド本人による音楽(トランペットとピアノの旋律)が響いてくる。
なんとなく『硫黄島』のテーマに似ていない事もないのだが、
まずこの響きにクラッと目眩すら覚えた自分がいる。
そして、母親のアンジェリーナ・ジョリーと子供の日常が何気なく描写されるのだが、
そこで、さりげなく母親が息子にたゆまなく愛情を注いでいるのが判る・・。

まず、ここまでが見事。本当に何気ない描写で、しかも、母親と息子の表情を例えばUPだとかで
抜いている訳でもないのだが、トランペットの哀調を帯びる音楽共々、何故か母親の愛情が
自然に伝わるのだ・・・。まず、ここまででやられる・・。
そうなのだ、極めて自然にしかもさりげなく描かれているのである・・。
それは撮り方にあるのか?
エピソードの選び方によるのか?

ただ言える事は、ジョリーが息子を抱きかかえていく後姿だとか、息子を学校に送った後、
バスの中から見ている顔だとか、日常のちょっとした所なのだが、
「あ・・、そういうの判るよな・・」という顔、動作を積み重ねている・・という気はした。
とにかく、さりげなく上手いのである・・・。

映画は前半は、予告編にもあった通り、やがて息子の姿が見えなくなり→警察に捜査をお願いし
→5ヵ月後に帰ってきた息子は別人で・・→母親は「この子ではない」と警察に訴え出て・・
→警察からは「気がふれた」と思われ精神病院に送られるのだ・・・。

ここまでは想定通りというか、ストーリーが判っていたので、さてここからどうなるか??である。

(以下、観ていない人はネタばれなので、見ない方がいいと思います)

しかし、ここからのストーリーが予想外である。
この前に観た『7つの贈り物』があまりにも予想通りだったのに比べ、ストーリーは二転三転していく。
しかも、ここからは事実・エピソードを積み重ね、ぐいぐいと見せていくのだ。
もちろん、その描き方には、観客に「情」による感動が起きないように、寸止めとでもいうべく
感傷はまったく排されている・・。

前半は、割と同じテーマの音楽を多用し、ややストーリーを描こうと、又やや情緒的に描こうと
していたのかも知れないが、ジョリーが精神病院に入れられてからは、エピソードの力のみで
ストーリーを進めていくのだ・・。


そして、物語は、警察組織の腐敗の構造を暴いていくのだ。
「そうか、イーストウッドは『ダーティー・ハリー』をやろうとしているのか・・」
と思った。
舞台も20年代のロス、ハリーが勿論ロス市警だった事を考えると、ジョリーを使って、同じような
テーマに持ち込もうとしているのか・・と思ったのだが・・・、
ところが、それにしては、描き方は、その部分を強調するような演出ではないのだ・・。

もちろん、イーストウッドの頭の中には、権力の腐敗に対する、強烈な反骨精神はあるのだろう。
そこに関しては、もう既に約40年前の映画ともいえる『ダーティー・ハリー』以来、全くぶれていない。
中盤になって、そのブレのなさに涙する自分がいる・・・。
しかし、どうやら、そのテーマに関しては必要最小限のエピソード、と長さでしか描いていないような
気がしてくる・・・。

中盤から後半にかけて、イーストウッドのこの映画に対するテーマは何なのだろう??と
やきもきする自分がいた・・・。
そこには、「何か、まだ他に仕掛けがあるに違いない・・・」と信じたい自分がいる。
そして、この映画は、そんなこっちの期待を裏切らないのだ・・。

僕は、中盤から後半にかけて、ジョリーが病院で知り合った反骨の女性の口真似で
病院長に向かって「FACK YOU」と言う所で涙が出てきたし、
又、ジョリーらの努力によって、精神病院から女性たちが解放される所で、ふっとジョリーと
この反骨の女性が目線を交わす所でも自然と涙が出てきた・・・。
このふっとした瞬間の描き方が実に上手い・・・。
思わず、『父親たちの星条旗』で、後半、インディアン出身の青年が、死んだ戦友の両親を
訪ねるエピソードの何気なさを思い出す・・・。


しかし、何度もいうが、実にさりげなくこのあたりが描かれている・・・。
観客が、感情移入するのを、あたかも拒否するかのようでもある・・。

そして、物語は、ある男の誘拐殺人事件とジョリーの息子の失踪が結びつき・・、
ジョリーの息子が殺されたのかそうでないのかは・・判らないまま進む・・・。

そして最後、同じく囚われていた他の子供が突如発見され、この子供はジョリーの息子と
途中まで一緒に逃げた・・と言うのだ・・。
そして、ラスト、ジョリーは一人腐敗組織で真実を追究してきた刑事に向かって言うのだ・・。
「HOPEが見つかった・・」と。

ここにきて、僕は初めてイーストウッドの今回のテーマが判る・・。
そう今回のテーマは、「HOPE」だったのだと・・。
希望・・・、この誘拐事件、取替えばや事件、権力の腐敗構造、母親の強い愛・・・などを
描きながら、最後に密かにテーマとしていたのは、このテーゼだったのだ・・・と判る。

権力の絶え間ない腐敗、そして、何時戻ってくるか判らない息子の行方・・・、暗黒の時代、
なお暗黒とも言えるジョリーの人生・・・、そんな中で、イーストウッドは彼女に「希望」を託すのだ。
彼女の境遇に、描き手として「希望」をなお託すのは、過酷といえば過酷である・・。
しかし、過酷ならばこそ、なお、描き手として希望を託すのである・・・。

そこには、過酷な人生のあり方が判るからこそ・・、あえて託すのだという、作者の覚悟が
透けて見えるのだ・・。

そして、ラストの字幕・・・、
警察上層部の人たちに重い処分が下った・・というニュアンスが続き、
最後に「コリンズは、一生息子の行方を捜し続けた・・」という字幕が出る・・・。

見つからなかったのか??しかし、死んでいたのかどうかは判らない・・・。
たぶん、事実、そうだったのだろう・・。
しかし、この多分に宙ぶらりんな感じが、何故か、心に染みるのだ・・。


思うに、いつもの事だが、題材に対するイーストウッドの絶妙の距離感がなんとも気持ちいい。
「情」で訴えることは一切なく、突き放しているが、しかしさりげなく対象に対して
ある眼差しがある・・・、それは、彼が今まで演じてきた人物像とも共通するのかも知れないが・・、
描き手としても徹頭徹尾、そのスタイルが貫かれている・・。
ここが変わらぬ、イーストウッドの目線である。
この距離感の確かさに、いつも胸打たれる自分がいる・・。


それにしても、アンジェリーナ・ジョリーは、あまり好きではなかったが、この映画に関しては、
いつも鼻を赤くして目を晴らしていて、しかし、あの大きな眼は息子の生を信じている・・
というあり方が素晴らしい・・と思った。
特に、芝居をしているとも思わない・・。というか、かなり芝居を抑えられているという気がした。
抑えたから、逆にあの目の強さ、表情が生きた・・。
なるほど、そういうキャスティングの意図だったのか・・と非常に合点がいく・・。


しかし、ふと見終わった所で、僕は北朝鮮の拉致被害者家族の方々を思い出した。
特に、横田さん夫妻を思い出した・・・。
構図は同じである・・・。
そして、たぶん、横田さん夫妻が見ても、ある種何処かで納得できる映画だと思う。
最近、当事者の人たちが見たら怒るのではなかろうか・・と思われる映画があまりに多い。
(例えば『誰も守ってくれない』だとか・・・)
そういうものに比べると、当然といえば当然なのだが、イーストウッドの距離感には、
何処か、人物や事象に対する慎ましさがある。だからこそ、当事者たちもある種納得させられる
作りになるのだろう・・・。

しかし、何故、この作品がアカデミーにノミネートされなかったのだろう??
イーストウッドは取りすぎだという、ある種の遠慮が働いたのだろうか?
疑問だ。

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実話ということで、驚きと同時に・・・憤り、苛立ち、腹立ちさを感じました。
理不尽で酷い目に遭いながらも屈服することなく信念を貫き通す母の姿が印象的。
時代感も色彩センスも音楽も素晴らしい。さすがイーストウッド監督作品だと。

2009/2/22(日) 午後 3:33 くるみ

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お・・くるみさん、流石に、もう観られたのですね。
母親役のアンジェリーナが非常に印象的でしたね・・。
僕にとっては『許されざる者』以来のイーストウッド傑作作品だと
思います。

2009/2/22(日) 午後 3:38 [ papiyon ]

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はじめまして。クリントイーストウッド作品好きです。チェンジリングも惹きつけられました。

2009/2/22(日) 午後 6:19 mossan

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もっさん・・・4月のグラントリノも楽しみですね・・。
お互い、又、初日に見に行きますか・・・・。

2009/2/23(月) 午後 8:45 [ papiyon ]

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こんにちは。
「チェンジリング」は少し重いけど、見ごたえのある作品でした。

2009/2/24(火) 午後 6:42 [ kemukemu ]

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さすがにイーストウッドファンでらっしゃるだけあって、素晴らしいレビューですね。じっくりと読ませていただきました。
私もイーストウッド作品は好きですが、本当にセンスのある人ですよね。
なるほど「希望」がポイントというのわかります。そこに救いが見えるからたとえ宙ぶらりんでも後味が悪くはないんですね。
こちらからもTBさせていただきますね。

2009/2/24(火) 午後 10:25 choro

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kemukemuさん・・、重いのは重いけど、2時間全くノンストップで
進みますよね・・。

2009/2/24(火) 午後 11:58 [ papiyon ]

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Choroさん、そうですね、確かに宙ぶらりんの感じが凄くあるのに
後味が悪くないんですよね・・。
成る程、救いがあるからなんですよね・・。
TBありがとうございます。

2009/2/25(水) 午前 0:00 [ papiyon ]

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イーストウッドは、またすごい作品を撮りました
A・ジョリーはまさに迫真の演技でしたね

2009/3/14(土) 午後 11:00 [ きらきらくん ]

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これが実話だといのに衝撃を覚えました。
こんな怖い事件にこんな愚かな警察の対応があったというのが信じられないくらいのインパクトでした。
TBさせてください!

2009/4/1(水) 午前 10:08 かず

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