俺の映画日記

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山崎豊子の原作ものの映像化では、故山本薩夫監督の『不毛地帯』『華麗なる一族』
『白い巨塔』など傑作が多い。

ともかく、僕自身、反権力志向なので、山本監督のこれらの作品は、政治家・官僚などが隠れた悪として
描かれていて・・、ともかく好感を持てる・・。
それも、役者がいてこそ・・である。
仲代、小沢、三国、田宮、佐分利・・・、往年の俳優の存在感に負う所も大である・・。

で、今回の『沈まぬ太陽』である。
僕は、原作を読んでいないので、原作との比較は出来ない・・。
が、映像を見た時に、ある種のショックを覚えた・・。
それは、マイナス方向の、ショックである・・。
大作に関わらず・・、こんな駄作しか出来ないのか・・という意味でのショックである・・。

まず、過去のものと比べてみて、役者の層の薄さを嘆かざるを得ない・・。
誰とは言わないが、会社の上層部でこの人はないでしょ・・・という人が何人もいるし、
政治家でこの人はないんじゃないの・・・というのも目白押し・・。
じゃ、キャスティングミスかといえば・・、他にいないかも知れないな・・とも思うのだ・・。
ただ、キャスティングを担当する人の勉強不足もあるのではないか?
ただ単に顔の売れている人を使えばいいというものではない。
顔が売れていなくとも、例えば新劇系でいくらでもいい人がいるではないか・・と思うのだ。
今のこの国の役者の層の薄さに唖然とはしたが、作り手たちの認識不足というものを感じざるを
得なかった・・・。



と、共に、僕にはこの3時間以上もの大作に、作り手の思いというものを全く感じなかったのだ。
主人公の恩地の心情の詳しいところが理解できなかったのだ。
「何故、彼は度重なる不遇、左遷、その他に対して我慢できるのか?耐えられるのか?」
「彼の行動原理の根本は、何処にあるのか?」
渡辺謙が、単なるスーパーマンにしか見えないのだ・・・。

作り手は一体この作を通じて、何を描きたかったのか?
たとえ、原作があったとしても、映像化を通じた換骨奪胎作業を通じて、
作り手たちのメッセージなり、こだわり所というものがあるはずなのだ。
それが全くないのではなかろうか・・と感じた。

ただ、原作を忠実に描くならば、その芯さえ外さなければ、原作のメッセージは伝える事は可能だろう。
ただ、この映画に関しては、それさえ感じなかった・・。
これは、作り手に相当問題があったのではなかろうか・・とさえ思った・・。


で、悔しくて
(そりゃ悔しいよ。これだけの金がかかった大作ならば、せめてまともな物を作って
 欲しいじゃないか・・)
脚本を読んでみた・・。
つまり、何処に問題があったのか、自分なりに腑に落ちたかったのだ・・。

脚本は、西岡琢也氏。
シナリオ12月号に載っていたので読んでみた。

すると、脚本を読むと、恩地の根本がよく判ったのだ。
ラストの「沈まぬ太陽」にかける彼の気分がよく判ったのだ・・。
物語上の意味がよく判ったのだ・・・。

脚本上、重要な所が(少なくとも僕はそう思う。ただ、製作者達はそうは思わなかったのかも
知れないが)
何がしかの理由で、本編になった時になくなっているのである。

(以下、シナリオ誌。桂千穂さんの話によると)

恩地の母親の葬式の帰りに、恩地と行天の会話があり、
恩地は「お前、小さい時何になりたかった?俺は特攻機乗りだ。
    ・・聞いた話だが、離陸と同時に車輪を置いていく特攻機があったそうだ。
    片道切符・・・・離陸したらもう着陸はない。
    今考えると理不尽だが、当時誰もそう思わなかった・・」
行天「気付いてる奴は大勢いたさ」
恩地「なら、どうして声を挙げん。おかしいと口に出さん?」
行天「・・・・」
恩地「そんなばかげた事が行なわれてると知らず、俺は特攻機乗りにあこがれていた。
   でも、戦争が終わってその話を聞いてから・・・これからは理不尽には小さくとも
   きっと声を挙げよう、必ず刃向かおうと決めた・・・」

・・・という会話があったらしい。

又、後半の息子との中華料理店(?)での会話では
恩地「14歳の時、夕陽を見たんだ。あの日・・・8月15日の夕陽は、毒々しい血の色をしてた。
   あの時これからはもう、正しい、間違ってないと言われた事を鵜呑みにするまい、
   キレイ事や正論をぶつ奴は信じまいと決めたんだ」
・・・・と、息子を前に言う台詞があったらしい・・。

見た人は、当然知っているが、この二つの会話は、出来上がった本編にはない。


これは、恩地の肝ではないのか?
又、この作品のテーマの肝ではないのか?

つまり、恩地の根本には「戦争」があるのである。
戦時、当時の雰囲気に流された日本人、またその空気感に対する
怨嗟とでもいうべきものがあるのだ・・。
戦時中の、自分に怨嗟し、日本人たるもの日本国に対して、絶望と懐疑を抱いた
恩地は、以後、つまり戦争後、決して自分は流されまい・・と思ったのである。

流されやすい、踊らされやすい日本国、人たちに対して、自分は決してそうはならない、
それが、せめて、戦時中、踊らされてしまった自分が、唯一取れる責任の取り方なのだ・・
と言わんばかりに・・・。


だからこそ、恩地は頑張るのである。
頑張らざるをえないのである・・。
それが、彼の活動の源泉である・・・。
彼にとってのアフリカは、横井庄一さんにとってのグァムなのである。

アフリカ左遷と言われても、決してひるまない・・というか、ひるんではいけないと
彼が思えるのは、8月15日の夕陽の美しさがあるからなのである。


恩地を企業人とも見れるが、実は、戦後日本人のある種の象徴というか、
戦後日本人が失ったもの、失いつつあるものの象徴が、恩地なのである。
恩地は、横井さんや小野田さんと、何処かで繋がっているのである・・。
だから、彼にとってのカラチは、横井さん達のグァムなのである・・・。


そして、三浦友和の行天は、戦後、「戦争」を忘れ高度経済成長へ走り、「戦争」や「戦争」の時の
自分達の責任などは無意識に封印し、ずる賢く生きてきた、ある種の人達の象徴なのである。
いや、ずる賢くというより・・、もしかしたら、普通に生きてきた大部分の人の象徴なのである。


という対置があって・・、
これは恩地と行天の、「戦争」またそれに連なるものに対しての価値観の違いを巡る
ドラマなのである。

「戦争」に対する価値観、責任感、スタンスの違い・・それが実は「御巣鷹山」とも繋がっている
というか、重なっているというか・・
「御巣鷹山」が人災の部分もあるとすれば、
戦争に対して無責任な態度をとったが為の、人災というか、
戦争から「御巣鷹山」に至るまで、ずっと続いていた、日本人の責任・欺瞞に対する、
ある種の警告のドラマだとも言えるのである・・。

つまり、恩地の「8月15日の夕陽」「特攻への憧れ」とそれに対する自戒が、
「御巣鷹山」にまで繋がる・・という、戦後日本の軌跡を描いたドラマなのである・・。
それを、恩地の肉体を通じて描いているのである・・。


これは、原作のテーマなのか、西岡脚本の功績なのか、僕には判らないが、
極めて今日にも続く重いテーマなのである・・。
つまり、渡辺謙が演じる恩地は、そんな戦後の日本人・日本の無責任論に対する
反逆を一人試みている・・というか、それを引き受けているというか、そんな存在なのである。


脚本と原作までは、それがあったのだ・・。
が・・、
作り手たちは、そんな深遠なテーマを意識したのか、
伝わらないと思ったのか・・
何なのか?
全く、ハートのない、肝のないドラマにしてしまったような気がして仕方がない。


今回、脚本と映像を見比べてみて、映像化における問題点が何処にあるのか
初めて判ったような気がする・・。

今回に関しては、完全に、脚本までにあった哲学を
映像にする時に監督を中心とする現場スタッフが駄目にした・・といわざるをえないのでは
なかろうか・・。
何故そうなったのか、是非知りたい・・。

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3時間20分と言う時間にも関わらず眠気も起こさせずに見せ切った点を私はかっています。久々の見ごたえある日本映画でした。但し、ここまでストーリーを展開しながら追い詰めきれずに獲物を逃してしまったとも感じました。もったいないと思うばかりです。
ご指摘の条の数々同感です。とりわけラストシーンのご指摘はその通り。モデルとなった小倉さんの講演記録を見ても彼の戦後の機軸が“やましい沈黙”を繰り返さないと言う点にあったことがわかります。
もうひとつ。行天の描き方ですが、単なる裏切り者、あるいはあくどい男という浅さが作品の説得力を半減しているように思います。彼は彼なりの論理を持っていたと思うのです。それがあってはじめて、恩地のこだわり、生き方の説得力が増すのだと思います。役者のそうの薄さをお嘆きですが、私もそれを感じました。

大変興味深く読ませていただきました。ありがとうございました。

2009/11/19(木) 午後 4:48 [ シネマ・ディスト ]

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実は、行天も、シナリオを読むと、単なる悪役でなかったような気がしています。何か、描写を削ったような、それがなんだったかは忘れましたが・・。
「やましい沈黙」を繰り返さない・・いい言葉ですね・・。
それが、恩地の核だったのだな・・と思います。
ありがとうございます。
本当は、貶したくなっかtのですが、期待していたので少し残念だったのです。

2009/11/20(金) 午前 0:54 [ papiyon ]


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