俺の映画日記

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ケン・ローチ、僕が最も尊敬する映画作家である。
今、自分の中では、イーストウッドと双璧、新作が出れば必ず見る・・。
 
ただ、今回の「エリックを探して」に関しては、自分の中ではどう評価していいのか、少し戸惑ったのは事実だ。
 
同じ日に、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』を見たのだが、
これが、予想に反して、凄く良かったのだ・・。
これとの比較で、少し考察してみたいと思う・・・。
 
 
『海炭市・・』に関しては、冒頭のCUTから、匂いを感じた・・・。
曇りガラスに子供が手をやり、曇りをふくと、
鈍色の街並みがあらわる。
 
そして、子供たちの授業風景が描かれる・・・。
そこに、ドックの火事の報があり、小学生の兄と妹の二人が手を
携えて、廊下を後ろ姿で去っていく…姿がある・・・。
 
その何年か後に成長した二人の姿・・・。
この二人、谷村美月と竹原ピストルの挿話が非常にいい。
この二人の挿話だけでも、この物語を見た価値がある・・といっても
過言ではない。
 
僕は、この鈍色の街で、解雇された兄とそれを思いやるが言葉少なに
見守る妹の姿に涙した。
しかも、二人を包み込む街並みのルックが非常にいい・・。
(他の挿話に占める、画面のルックと違うように見えたのは気のせい
 だろうか・・・??)
 
大晦日の晩、市電が走る奥を後姿で行く二人の後姿、それに続く
函館山で初日の出を見る谷村美月の顔と、それに気づいてるのか
どうなのか・・、兄の眼差しに、感じるものがあった・・・。
 
この挿話の後の、おばあさんの挿話もいい。
(中里あき、さんという函館の素人のおばあちゃんと思われる)
 
ただ、その後の小林薫の挿話、加瀬亮の挿話になると、
なぜか少し
魅力が半減していくような気はした・・・。
 
ただ、全体的に言えば、函館という地方都市の空気感と、
そこにいるであろう、人々のリァリティーを非常に
醸し出していたような気はした。
 
それは、最初の兄妹の挿話もそうだし、
おばあちゃんの話ももちろん、
小林薫の挿話も如何にも、地方都市にいそうな夫婦のあり方、と
男の我慢の仕方、水商売をする女房のあり方にリァリティーを感じたし
加瀬亮の挿話には、如何にもありそうな地方の男社長のイラつき方、夫婦のあり方に、鈍色の街のリァリティーと共に、感じ入った・・。
 
ただ、2時間を超す映画のリァリティーのあり方に非常の好感を
持ったのだが、ラスト一つに不満があった・・・。
 
たぶん、作家的には、ラストで、自分の家の周囲は取り壊されようと、
猫を抱いて不遜に生き続ける、おばあちゃんの姿に、
鈍色の都市に生きる、そしてこれからも生き続ける人たちの逞しさと、希望と、又未来へのなにがしかの感情を託したのは間違いない。
 
 
僕的には、一種の逞しさと希望を感じたのは確かだ・・・。
 
ただ、感じたとはしても、見た後の不満は、
もっと希望を、又、逞しさを感じさせて
くれてもよかったのではないか・・・というものだ・・。
 
ここが、一番表現の難しい所である事は十分承知だ・・。
 
この物語は、地方に生きる人たちの息遣いをテーマにしている。
物語を描く事よりは、むしろ、登場人物の存在そのものに焦点を
あてている・・といってもいい。
その為(もちろん、製作条件的なものもあったのだろうが・・)
函館に住む素人に、役を演じさせてもいる。
 
 
その結果、フィクションではあるのだが、いわば、ノンフィクションの
境界にきわめて近い領域にまで踏み込んでいる・・。
そこの所は、きわめてデリケートに描いており、
成功を収めているといってもいいと思う。
 
僕は、凄く好きなティストの映画だった・・・。
 
 
なので、当然ラストはあのような形で幕引くのもありなのだが、
少なくともラストで、おばあちゃんだけではなく、他のキャスト達の
「現在」を描いてもよかったと思うのだ・・。
 
その上で、ラストだけは、もう少し描き手の「願望」なり「希望」を
前面に押し出してもよかったのではなかろうかと思ったのだ。
それは、本当にほんの少しだとは思うのだが、
それまでリァリティーの積み重ねで描いてきたのだから、
もう少し描き手の視点というか、希望というか、
この物語を通して描きたかったこと、訴えかけたかった事を、
もう少しではあるが、
前面に出して表現してもよかったのではないか、と思うのだ。
 
 
そうすれば、今、3割にしか伝わらなかったテーマが7割に届くように
なった・・というか、「伝える」だけではなく「仄かな希望」を
より多くの人に感じさせる、優れてよい映画になったのではなかろうか
と思うのだ。
 
 
そこの所が少しだけ、残念なのだ。
 
 
そこで、ケン・ローチである。
正直、今回の「エリック・・」に関しては、戸惑いを覚えたのは事実だ。
あまりに、今までの作風と違うからだ。
 
ただ、見終わった後、これに関しては、ほんのりとではなく、
「希望」と「勇気」を貰えたのは事実だ。
今までのケンの映画でいうと、、例えば「重苦しさ」であったり、
「社会の矛盾」であったり、「怒り」であったり、を感じて、映画館を
出るのが常であった・・・。
 
が、今回は、非常に明確な感じで前向きな感情を貰えたのは
確かである・・・。
 
 
そこの所が、熊切の「海炭市・・」と「エリック・・」の違いである。
 
そして、作り手として、観客にどちらの感情を持って帰ってもらいたいか・・というと、題材次第で何とも言えないとはいえ、
それは明らかに、「エリック・・」を見終わった後の感情を
観客に与えたい・・と思うのは、自明の理である。
 
 
「エリック・・」を見終わった後、如何に失敗しようと前向きに生きなくてはいけないとは思ったし、子供には正面切って向かい合わないと
いけないな・・と思ったし、何よりも「前向きな」気分を持てた。
 
絵空事の映画では、ここまで味わえないのではなかろうか・・。
それは、たぶん、映画としてのリァリティーがきっちりとしているが
ゆえに、観客は余計な所でひっかかる事がなく物語に入れるから
こそ、感じる事の出来る感情なのだろうと思うのだ・・・。
 
 
それは、今までケン・ローチが積み上げてきたリァリティー、
ノンフィクションとフィクションの狭間で物語を描いてきた実力が
あるからこそ、このような「リアルファンタジー」をものの見事に
描けるのだろうと思うのだ・・・。
 
 
そう、である。
今回の「エリック・・・」は、言ってみれば、「リアルファンタジー」である。
リアルファンタジーを描くに、一番大切なのは、
リアルを如何に保持するか、である。
リァリティーの担保があって、初めて「ファンタジー」を観客に
感じさせる事が出来うるのである。
 
そういう意味では、ケンにとっては「リアル」をきっちりと描くことは、
得意技であったはずだ。
そんな彼が「ファンタジー」を感じさせる事が出来たのは、
いわば、必然だったのかも知れない。
 
特に、僕は、冒頭10分の入り方の上手さに驚嘆すらした。
 
車のハンドルを所在無げに握る男の斜め後姿・・。
不安定に走る車・・・。やがて、車は衝突事故を起こし・・・、
そして主人公の現状が説明される・・・。
 
冒頭の男の斜め後姿一つで、男が置かれている所在無げな
感じをものの見事に描ききっている・・と感じた。
 
又、ラストにしても、大仰に描く訳ではなく、エリックが元女房の
身体をそっと所在無げにしかし自信をもって抱く・・その行為一つで、
これからの主人公・エリックの未来、行く末を暗示している・・
見事である。
 
カントナーの登場にしても、ある程度のリアルは保証しながら、
ファンタジー的要素も失しないように細心の注意を施しており・・、
何の疑問をさしはさむ・・余地がない。
 
ケンの職人芸といえばそれまでだが、過不足なく説明的でもなく、
物語が進行していくが故に、ファンタジーの感情が、直線的に
入り込んでくるのは事実だ・・・。
 
 
と、ここまで考えてきて、では「海炭市・・」で、どういう風にすれば
良かったのか、と考える。
「エリック・・」は、カントナーという飛び道具があったからこそ、
愉快なものになったが、「海炭市・・」はあくまで鈍色の街が
舞台である・・・。
 
何が出来たのだろうか??
そこの所は、何とも言えない。
ただ、極めてリアルな人間像、街並みを表現出来たからこそ、
照れずにもう少しだけ、作り手の感情を出しても良かったとは思う。
 
又、少しだけ、作り手の感情を表に出したからといって、作風を
破壊するようなことにはならなかったとは思う・・・。
 
日英の優れた映画を同じ日に見て、考えたのは、
ラストにおける、作り手の感情の出し方、だった・・・。
 
もちろん、そこに「リアルさ」という壁がなければ、
単純に作り手の感情のみを押し出した、品の悪いものになる。
 
「海炭市・・」を見て感じたのは、2時間以上、抑制した表現の中で
ものの見事に事象を描き切っただけに、
描き切った者の特権としての、表現を、もう少し前面に出しても
良かったのではなかろうか・・という事だ。
 
それは、とどのつまり、最近の邦画では珍しくも
「海炭市叙景」は、特権を有する映画である・・という褒め言葉を
述べている事でもある。
 
「ノン子36歳」といい、熊切監督の今後は、目が離せない・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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