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『 宗次郎のおもいで(3)』
またことしも南からの風が吹きはじめる初夏を迎えましたね
あの日も少し風はあったのですがとても暑い日でしたね
あの日は二人して旧の街並みを長いこと歩きましたね
あなたは半袖のオレンジ色の花柄のブラウス姿で
うす黄色の日傘をかざしながらクルクルまわしたりして
ときどきクスクス笑いながら話したりして・・・・
何故だか二人とも話が途切れないようにしながら
二人の共通の話題である幼少時の頃のおもいでや
旧い街の移り変わりを話したりして・・・・
でも 二人は決してこれからのことを話すことはしませんでしたね
あの頃 あなたには両親から勧められたお見合いの話が
すすんでいて あなたはわたしに
「どうすればいい・・・」と、相談されていた
でも その頃のわたしは まだ勤めはじめたばかりだし
結婚とか、家庭をもつことなどとても考えられなかった・・・
それで その話題になると いつも
「それは あなたが思っているようにあゆめばいいのでは・・・」
などと 話をそらしていたような・・・・
あなたはしまいにおこってしまって
「もう あなたとはこの話しはしないわ!・・・」
と、小声でひとりごとのように話されて
それからは二人であうことも少しずつ減っていった・・・
そうそう それからしばらくして あなたから呼び出されて
「わたし 来年の春に結婚することになったの・・・・
もう あなたと逢うことはできなくなるわ・・・・」
と、ポツリと話されましたね・・・・
わたしはそのとき何と言ったかハッキリとは
覚えてませんが たしか
「そう おめでとう・・・おしあわせに・・・・」
と、話したようにおもいます そしたらあなたは
「・・・ううん ちっともおめでたくなんかないわ・・・」
とか言って そのまま後ろ向きになって
「・・・・それじゃ サヨウナラ・・・・」
といって 少し早足で 駅の方に歩いていかれた・・・
たしか あの日があなたの結婚前の最後の日だった・・・・
それからまもなくしてあなたは結婚間近になって
「いまからでも 結婚を止めたい気持ち・・・」
との手紙をくださった・・・・
でも わたしはいろいろかんがえたけど
結局あなたの望むような返事をしなかった・・・
もう あの日からだいぶ経ってしまって
二人ともお互いにべつべつの家庭をもって
それなりに 落ちついた歳になったけれど
でも たまたま久しぶりのクラス会などで遭遇すると
お互いに 一寸気まずいような それでいて
かえりぎわに二人きりになると
とても貴重なひとときを 大事にしたい気持ちになって
遠回りしながら あれこれとたわいもない
話しをしていますね・・・・
そして 二人ともちょっと心残りをひきずりながら
「それじゃ・・・・またね・・・・」 と、
「フフフフ それじゃ またいつか・・・・」
それが 二人だけのサヨナラの合い言葉
ああ ほんとうにそれでよかったのかな・・・・・・・・
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