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「宗次郎のおもいで(4)」
「いつのまにかことしの夏も過ぎようとしていますね。」
「・・・・」
「ほんとうにひさしぶりね」
「・・・・」
「ずうっと 連絡がなかったので どこかお身体でもわるいのかと
心配していたのよ。・・・でもそうでもなそそうね。・・・」
「・・・・すこし遠いところに行っていたんだ。・・・・」
「えっ・・・・どこへ・・・・どうしてたの・・・・」
「・・・・う〜ん・・・・ちょっと、あなたに心配かけてわるかったけど・・
しばらく だれにも会いたくなかったのでね。・・・・」
「えっ・・・・いったい何があったの・・・・」
「う〜ん・・・・それは個人的な内面的なことととしか・・・・」
「えっ・・・・」
「・・・・いつか あなたに話せる日がくるとおもうので・・・・
もうしばらく 待っていてくださいね。・・・・」
「・・・・また どこか遠くへ行くのね、?・・・・」
「・・・・もう 待てないかもしれない。・・・・」
「・・・・」
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『 宗次郎のおもいで(3)』
またことしも南からの風が吹きはじめる初夏を迎えましたね
あの日も少し風はあったのですがとても暑い日でしたね
あの日は二人して旧の街並みを長いこと歩きましたね
あなたは半袖のオレンジ色の花柄のブラウス姿で
うす黄色の日傘をかざしながらクルクルまわしたりして
ときどきクスクス笑いながら話したりして・・・・
何故だか二人とも話が途切れないようにしながら
二人の共通の話題である幼少時の頃のおもいでや
旧い街の移り変わりを話したりして・・・・
でも 二人は決してこれからのことを話すことはしませんでしたね
あの頃 あなたには両親から勧められたお見合いの話が
すすんでいて あなたはわたしに
「どうすればいい・・・」と、相談されていた
でも その頃のわたしは まだ勤めはじめたばかりだし
結婚とか、家庭をもつことなどとても考えられなかった・・・
それで その話題になると いつも
「それは あなたが思っているようにあゆめばいいのでは・・・」
などと 話をそらしていたような・・・・
あなたはしまいにおこってしまって
「もう あなたとはこの話しはしないわ!・・・」
と、小声でひとりごとのように話されて
それからは二人であうことも少しずつ減っていった・・・
そうそう それからしばらくして あなたから呼び出されて
「わたし 来年の春に結婚することになったの・・・・
もう あなたと逢うことはできなくなるわ・・・・」
と、ポツリと話されましたね・・・・
わたしはそのとき何と言ったかハッキリとは
覚えてませんが たしか
「そう おめでとう・・・おしあわせに・・・・」
と、話したようにおもいます そしたらあなたは
「・・・ううん ちっともおめでたくなんかないわ・・・」
とか言って そのまま後ろ向きになって
「・・・・それじゃ サヨウナラ・・・・」
といって 少し早足で 駅の方に歩いていかれた・・・
たしか あの日があなたの結婚前の最後の日だった・・・・
それからまもなくしてあなたは結婚間近になって
「いまからでも 結婚を止めたい気持ち・・・」
との手紙をくださった・・・・
でも わたしはいろいろかんがえたけど
結局あなたの望むような返事をしなかった・・・
もう あの日からだいぶ経ってしまって
二人ともお互いにべつべつの家庭をもって
それなりに 落ちついた歳になったけれど
でも たまたま久しぶりのクラス会などで遭遇すると
お互いに 一寸気まずいような それでいて
かえりぎわに二人きりになると
とても貴重なひとときを 大事にしたい気持ちになって
遠回りしながら あれこれとたわいもない
話しをしていますね・・・・
そして 二人ともちょっと心残りをひきずりながら
「それじゃ・・・・またね・・・・」 と、
「フフフフ それじゃ またいつか・・・・」
それが 二人だけのサヨナラの合い言葉
ああ ほんとうにそれでよかったのかな・・・・・・・・
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『 宗次郎のおもいで(2) 』
長いながい夢をみた。
彼女は後ろで結んでも腰近くにまである
長い髪がよく似合っていた。
彼女はすぐ近くの港町のいちばん大きな舟主の娘であり、
彼女の母親は50歳を過ぎても現役の海女であった。
彼女も海に潜るのは得意で、海のなかで長い髪を
ゆらゆらしながら泳ぐのが好きであった。
その日も彼女は長い髪をゆらしながらやってきた。
きっと結んだ口元からは 強い決意が伝わってきた。
「やっぱり この港町から出て行くことはできないわ・・・
あなたは この港町にいれないのでしょうね。・・・・」
彼女は それだけ話すと
あとは何を話しかけても無言であった。
あの艶のある長い髪がまぶしかった。
もう その艶のある長い髪に
わたしは決して触れることはできない。
わたしは それだけがとてもかなしかった。・・・・
その夜 長いながい夢をみた。
彼女の長い髪が わたしの首に巻き付いて
とても息苦しくなって
汗びっしょりになりながら
とてもおもたい気分で目覚めた。・・・・
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『 宗次郎のおもいで(1) 』
「ひさしぶりね、元気だった?」
「うん・・・といいたいけど・・・いろいろあってね。・・・」
「そうね。・・・もうあれから 10年近く経ったものね。・・・」
「・・・もう家庭をもったのでしょう。??・・・」
「あぁ・・・2年ほど前にね。・・・君は子どもも大きいのだろう?」
「えぇ、・・・上の子はもう小学生よ・・・早いものね。・・・」
「そうだね。・・・」
「それじゃ・・・あなたもお元気でね。・・・」
「あぁ・・・君もからだに気をつけてね。・・・」
「えぇ・・・ありがとう。・・・」
「・・・・・・・」
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『 オトコの身勝手 』 宝永京子
「あなたはいつも自分のことだけを考えて身勝手なのよ」
「・・・・」
「いつまでたっても 大切なことは後回しにして わたしの言って
ることを すぐにはぐらかしてばっかり・・・」
「・・・・」
「そりゃぁ あなたにステキなオンナ友達が何人かいることは
最初から知ってたけど・・・だからといって、わたしが大切な
話しがあると言ったその日にも 用事があると言って出て行
って・・・後でわかったのだけど 他のひとと会っていたでしょう
・・・・ いったい何の用事だったのと聞いたら 困っていること
があるから相談にのってほしいといわれたって・・・」
「・・・・」
「・・・もういいわ、あなたはわたしがいなくなってもこまらない
でしょうから・・・今日でお別れしましょうね。・・・・今夜わたし
は友達の家に泊まるから あなたは明日の昼までにあなた
の荷物をもって出て行ってくださいね。・・・カギは郵便受け
に入れておいてね。・・・・じゃあ オシアワセに・・・・。」
「・・・・あぁ・・・・わかった。・・・・いままでいろいろとありがとう。
君もオシアワセニ!・・・・」
「・・・・・・・」
宝永京子の作品集より
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