自然のなかをゆったり散歩と詩と本のはなし

そしてまた季節は移ろい さまざまな想い出だけが通りすぎて行く ・・・

詩と思い出(4)

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 『 遅い 』   新藤涼子

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       あの帽子は
       わたしがころんだすきに
       波にのまれてしまったのです

       ひろってください
       帽子は波にのってただよっています
       ほら
       すぐ手のとどくところに
       あなたが一生懸命
       手をのばしたのはわかっています

       今日は 海の水がおこっている日
       あなたをさえ 波がのみこもうとしている
       けど おそれずに
       あの帽子をひろってください

       わたしが願ったのは
       帽子をとりもどすこと
       ではなかったけれども

                              新藤涼子の詩集より

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 『 みずすまし 』   吉野弘

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      一滴の水銀のような みずすまし
      やや重く 水の面を凹ませて
      浮いている 泳いでいる
      そして時折 水にもぐる

      あれは 暗示的なこと
      浮くだけでなく もぐること

      わたしたちは
      日常という名の水の面に生きている
      浮いている だが もぐらない
      もぐれない −−日常は分厚い

      水にもぐった みずすまし
      その深さは わずかでも
      水の阻みに出逢う筈
      身体を締めつけ 押し返す
      水の力に出会う筈

      生きる力を きりげなく
      水の中から持ち帰る  
      つぶらな可憐な みずすまし
      水の面にしたためる
      不思議な文字は 何と読むのか?

      みずすまし−−
      あなたが死ぬと
      水はその力をゆるめ
      骸を黙って抱きとってれる

      それは 水のやさしさ
      みずすましには知らせない
      水の やさしさ

                             吉野弘の詩集より

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 『 その時 』  茨木のり子

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        セクスには
        死の匂いがある

        新婚の夜のけだるさのなか
        わたしは思わず呟いた

        どちらが先に逝くのかしら
        わたしとあなたと

        そんなことは考えないでおこう
        医師らしくもなかったあなたの答え

        なるべく考えないで二十五年
        銀婚の日もすぎて 遂に来てしまった

        その時が
        生木を裂くように

                            茨木のり子の詩集より

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 『 奈々子に 』    吉野弘

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       赤い林檎の頬をして
       眠っている奈々子

       お前のお母さんの頬の赤さは
       そっくり
       ひところのお母さんの
       つややかな頬は少し青ざめた
       お父さんにも ちょっと
       酸っぱい思いがふえた

       唐突だが
       奈々子
       お父さんは お前に
       多くを期待しないだろう

       ひとが
       ほかからの期待に応えようとして
       どんなに
       自分を駄目にしてしまうか
       お父さんは はっきり
       知ってしまったから

       お父さんが
       お前にあげたいものは
       健康と
       自分を愛する心だ

       ひとが
       ひとでなくなるのは
       自分を愛することをやめるときだ

       自分を愛することをやめるとき
       ひとは
       他人を愛することをやめ
       世界を見失ってしまう

       自分があるとき
       他人があり
       世界がある

       お父さんにも
       お母さんにも
       酸っぱい苦労がふえた

       苦労は
       今は
       お前にあげられない

       お前にあげたいものは
       香りのよい健康と
       かちとるに むづかしく
       はぐくむに むづかしい
       自分を愛する心だ

                             吉野弘の詩集より

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 『 初 冬 』   日塔貞子

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       ある夜
       落ち葉の風が吹いていた
       渡り鳥の忘れていった真っ青な卵の話をきいた
       神秘さにうたれて幾夜も幾夜も眠れなかった

       遠い北地の灌木原をさまよったなら
       冬に脅えてあわてて去った鳥の巣のどれかに
       華奢な体温をかすかに残し
       うすい殻のなかで
       混沌とした夢がはてしない眠りに安らぐような
       孵(かえ)る日のない宿命を宿した青い卵が
       たった一粒一置いてあるかも知れないと思った

       もう山々に雪が来ている
       絶えまなくさらさらと落葉しつづける灌木原のむこうに
       小さな村の灯はメルヘンめいた眼ばたきをして
       旅人には孤愁と夕ぐれが来るだろう

       ああ 旅がしたい
       真っ青な卵よ
       寂かな風景に早い冬のめぐりがまた還ってきた
       冷たい霧に吹かれた真っ青な卵は
       ほのかな温かみをたちまちに失ってしまうだろう

       私のあこがれも
       重たく霧にぬれたまま
       ついにはある夜
       凍る星々のあいだに紛れ去るだろう ......

                              日塔貞子の詩集より

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