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『 オトコの身勝手 』 宝永京子
「あなたはいつも自分のことだけを考えて身勝手なのよ」
「・・・・」
「いつまでたっても 大切なことは後回しにして わたしの言って
ることを すぐにはぐらかしてばっかり・・・」
「・・・・」
「そりゃぁ あなたにステキなオンナ友達が何人かいることは
最初から知ってたけど・・・だからといって、わたしが大切な
話しがあると言ったその日にも 用事があると言って出て行
って・・・後でわかったのだけど 他のひとと会っていたでしょう
・・・・ いったい何の用事だったのと聞いたら 困っていること
があるから相談にのってほしいといわれたって・・・」
「・・・・」
「・・・もういいわ、あなたはわたしがいなくなってもこまらない
でしょうから・・・今日でお別れしましょうね。・・・・今夜わたし
は友達の家に泊まるから あなたは明日の昼までにあなた
の荷物をもって出て行ってくださいね。・・・カギは郵便受け
に入れておいてね。・・・・じゃあ オシアワセに・・・・。」
「・・・・あぁ・・・・わかった。・・・・いままでいろいろとありがとう。
君もオシアワセニ!・・・・」
「・・・・・・・」
宝永京子の作品集より
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詩と思い出(8)
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『 似顔絵 』 山田隆昭
娘がぼくの似顔絵を画いている
何度も消しては画く
消されるたびに
ぼくはやりきれなくなる
画き直されるごとに
紙の上には鬼の牙や魚の眼や
幽霊の髪があらわれる
娘はぼくの過去を
ぼくでさえ知らない前世まで
画ききろうとしている
娘はぼくの顔を見ようとしない
己れの手で消せなかったものを
娘はいとも簡単に消している
二度と思い出したくないものを
娘は画きつづける
画きながら泣いている
とらえきれないものを
鉛筆の先に残したまま
夕陽のなかへ
ぷい と遊びに行ってしまう
投げ出された紙には
なにも画かれていない
山田隆昭の詩集より
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『 冬の夜 』 山田隆昭
村は影ばかりである
山間に点在する村なのに
ひとびとはみな
波の音に耳を傾けている
椿のつぼみが
黒ぐろとほどけてゆく
止まってしまった夢の中で
鳥は静止したまま
鷲の嘴の恐怖にふるえている
早く明けてしまわないか
夜よ
死に一番近い呼吸が闇に満ちて
となり村の気配が
ふとんのようにふくらみ
しぼんでいる
とぎれとぎれに目覚めて
怖い夢ばかり見ている
寒いよ 寒いよ
死んだ祖母が掻き口説きながら
追いかけてくる
穴の底に寝かされたぼくの
むくろに土がかけられる
冷たい土が
夜は闇ばかり
物の怪にも似た風が
ぼくの神経を研いでいる
山田隆昭の詩集より
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『 日 々 』 征矢泰子
たとえば エメラルド色のコーヒーカップ
たとえば クリスタルのシャンデリア
日々を朝から晩まで びっしりと隙間なく
確かで 従順で 美しいものたちで
埋めてしまうことはできないか
ひとかけらの言葉で傷ついたり
たったひとつのまなざしにうろたえたり
く いちがうやさしさにいらだったり
そんなことには もう真底
あきあきできないか
おまえはおまえをとじこめることはできないか
おろかしい動揺の巷に
もうけっして迷いでたりしないように
七宝焼きのかけ時計で
コブラン織りのカーテンで
炎の色をしたローソク立てで
おまえをふきすぎるどんな風にも
もう決してふり返らず
にべもなく 捨て去ることも
らちもなく 愛することも無意味な
ものたちだけでおまえの
くりかえし くりかえす日々を
埋めつくすことはできないか
征矢泰子の詩集より
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『 遅 い 』 新藤涼子
あの帽子は
わたしがころんだすきに
波にのまれてしまったのです
ひろってください
帽子は波にのってただよっています
ほら
すぐ手のとどくところに
あなたが一生懸命
手をのばしたのはわかっています
今日は 海の水がおこっている日
あなたをさえ 波がのみこもうとしている
けど おそれずに
あの帽子をひろってください
わたしが願ったのは
帽子をとりもどすこと
ではなかったけれども
新藤涼子の詩集より
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