キープ・レフト

命どぅ宝:転載はご自由にどうぞ:頂いたコメンへの返事は、ほとんど出来ませんのでご容赦

全体表示

[ リスト ]

 
イメージ 1
 
 
日清戦争とは何か。原因は朝鮮半島という
地理的存在にある。日本は朝鮮半島が他の大国の属領になることを恐れた。
                (NHKドラマ『坂の上の雲』のナレーション)
 
歴史的業績(史観)から見ればさしたることのない人物坂本龍馬だが、彼の自由奔放さにすっかり惚れこんでしまった作家・司馬遼太郎の筆にかかれば、幕末の混沌期をさっそうと生きて殺された一大風雲児ということになる。
 
『坂の上の雲』では愛媛松山生まれの三人の青年、秋山好古・真之兄弟と幼なじみの親友正岡子規の活躍を通して、明治という混沌たる近代の揺籃期を「明るく希望に満ちた時代」として描くのが、原作者司馬遼太郎の目的であった。
 
言う迄もなく司馬は大衆(俗)受けする「国民作家」であるが、そこらへんに掃いて捨てるほどいる自称「草の根市民」とは知識教養においてレベルが違うから、明治という時代の暗部も負の側面も充分承知していた。大衆が苦しい生活を送っていたのもわかっている。しかし彼はそういう視点から歴史や社会を描きたいとは全然思わなかった…なぜか?
 
彼自身のことば━━当時確かに庶民は重税にあえぎ、国権はあくまで重く民権はあくまで軽く、足尾の鉱毒事件があり、女工哀史があり、国中で小作争議がありで、そのような被害意識からみれば、これほど暗い時代はないであろう。(第一巻『あとがき』)━━「被害者意識」という言葉づかいが司馬の歴史認識を語っていて興味深い。つまりとてつもない「環境破壊」も、農村の娘たちが紡績工場で血を吐く「奴隷労働」も、近代から取り残されてあえぐ農民の「貧困問題」も、司馬からすれば単なる「被害者意識」なのだ。要するに“気持ちの問題”というわけである。
 
司馬にとっては明治こそが「若々しく生気にあふれた、極めて楽天的な少年のような時代」ということになる。ゴリゴリの官僚国家であった明治日本だが、「それでも江戸幕藩体制のような身分制度ではなく、ごく一部に限られているとはいえ、努力と才能に応じて立身も成功も可能になった」と言いたいのだ。それに近代国家をスタートさせたばかりだから、イナカの青年でも頭脳優秀ならば権力を与えられて、国家の命運を左右するような大仕事が任せられる…どうやら司馬はそういうタイプのヒーローが大好きらしい
 
だからNHKのドラマでも毎回冒頭に、戦艦上で凛々しい軍服姿の秋山真之の容姿にかぶせてこんなナレーションが流される…勝利することは不可能といわれたロシアのバルチック艦隊を滅ぼす作戦を立て実行した…と。一方兄の好古には…史上最強の騎兵といわれるコサック師団を破るという奇跡を成しとげた…と。視聴者は愛国心をくすぐられ、ヒロイックな気持ちに酔うことができる。足尾銅山の鉱毒を明治天皇に直訴した田中正造のことも、過労と結核で廃人となって死んだ『ああ 野麦峠』の政井みねのことも「関係ネェー!」なのだ。
 
近代(民族)国家「日本」が、明治天皇を権力の頂点として初めて外国と戦った日清戦争も、司馬の筆にかかるとその原因はこうなる━━日清戦争とは何か。原因は朝鮮半島という地理的存在にある。日本は朝鮮半島が他の大国の属領になってしまうことを恐れた。そうなれば玄界灘を隔てるだけで、日本は他の帝国主義勢力と隣接せざるをえなくなるからだ━━という認識だ。
 
つまり朝鮮支配をめぐって、日本・中国(清王朝)・ロシアが覇権を争ったのが日清・日露戦争なのだが、司馬には「日清戦争とは、天皇制日本の帝国主義による初めての植民地獲得競争である」などという、歴史学界の常識などは「自虐史観=被害者意識」としか見えないようだ。彼は『坂の上の雲』は事実100パーセントの小説と胸を張るが、彼の事実とは、どうやら戦闘場面の考証に限られるようだ。
 
司馬は他国に蹂躙された朝鮮の立場や民衆の抵抗(甲午農民戦争=東学党の乱)などについてはまったく触れず、「政権打倒、日帝駆逐」を揚げた農民に対し日本軍が弾圧(殺傷した)ことなど、知らんぷりだ。そ〜ゆ〜「暗い事実」は、「明るく元気一杯で楽天的な少年のような明治日本」のイメージに合わないということらしい。
 
司馬が書きたくなかった日清戦争のポイントは三点。
①明治政府(伊藤博文ら)は「朝鮮の自立権は尊重する」(その狙いは清国に朝鮮半島を占領させないため)と言いながら、武力で李王朝(閔氏政権)の王宮を囲み征圧した。
②英米仏の露骨な干渉や日本の攻撃(江華島事件)によって朝鮮は開国したのだが、「治外法権」など不平等な内容の条文を日本が押しつけたために、長い間反乱が続いていた。そしてついに甲午農民戦争(東学党の乱)が1894年に起きた。火縄銃しか持ってない農民大衆を日本軍は殺戮した。閔氏政権は宗主国の清に派兵を要請したが、清が反乱鎮圧のために兵を送ると日本も負けじと派兵したため、日清戦争が起こったのだ。
③朝鮮王妃の閔妃(ミンピ)がロシア寄りだとみなした日本陸軍参謀本部は、公使三浦梧楼を使ってこれを暗殺させた。
 
司馬の朝鮮を見る目は、どこか「脱亜入欧」を唱えた福沢諭吉に似ているように思える。西洋近代の文明をもって、アジアの後退性から脱却しなければならないのに、封建的な儒教思想や身分差別の両班性などから脱け出せないで、中国(清)の属国となっている朝鮮など、日本としては「もうつき合っていられないよ」という上から目線である。
 
だから司馬は「李氏朝鮮は老化しきっており、自分の意思と力で運命を切り拓いてはいけない状況であった。競争原理を持たない中国や朝鮮の国家体制は、いかに腐敗しても内部勢力によって倒されることがないから、外からの力で倒すしかない」と、『坂の上の雲』に書いている。まさに「脱亜入欧」のアジア蔑視・差別意識である。「朝鮮は無能な隣国だから、いつロシアなどの列強に奪い取られるかわからない、それなら日本が占領支配したって文句はあるまい。そういう地政学上に位置したのが朝鮮の宿命というものだ」と、いう理屈だ。
 
                                   −  つづく  −
 
 

この記事に

閉じる コメント(2)

顔アイコン

司馬遼太郎が歴史を明るく書きたいのは、自身が太平洋戦争時代に戦車隊に属していて、敵を前に(兵力が違いすぎるので)「兵力温存のため」撤退せざるを得なかったことや、無謀な作戦で同世代がたくさん死んだからなんです。出発点が「なんて国なんだ」ということですから、負け戦の昭和から見ると勝ち戦の明治がものすごく明るく見える、というよりも明るく見たいんです。

司馬作品は、もとから負けた人間には冷たい書き方するのですが、明るく見たいので、暗い部分は知ってても書かないんでしょう。日本が不当に西洋列強に不平等条約を結ばされていることに憤れるのならば、日本のやっていることは十分不当というのは連想できそうなんですが・・・

2010/12/30(木) 午後 6:12 [ モリタン ] 返信する

顔アイコン

モリタン+αさん

司馬も従軍経験があるなら、単に昭和の日本軍は
堕落してて、明治軍はモラルがあったなどと、
下らない過去賛美に走らず、軍隊の本質に目を
むけるべきなのですがねぇ、その辺がどうも…

2010/12/31(金) 午前 10:21 pen*tsu**shi 返信する

コメント投稿

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

名前パスワードブログ
絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
投稿

.


みんなの更新記事