セントラルパークのイメージ
木漏れ陽の緑をくぐりながら、譲の手をつなぎセントラルパークを歩く。
今こうしてお前をようやく陽の光の元へ連れ出す事ができた。
手の中にある小さな幸せ、けして平坦な道程ではなかったが、これもすべて今に繋がっている試練だったのかもしれない。
大きなリスクがあったからこそ、この腕の中に納まる小さな幸福が、至福の瞬間を最大限に引き立てていた。
今ようやく十年の眠りから目覚めた俺の小さな小悪魔はこの先どう変化するかもわからなかったが、このかわいい小悪魔を俺はこの先も決して手放す事はないと誓って言えた。
「譲・・・?」
「ん・・・?」
「もうすぐニューヨークに猛暑がやってくるな・・・」
「そうなんだ、確かにここは急に真夏になる町だよね・・・。今までここに来ても外に出た事なかったから季節なんて気にしたこともなかったけど」
「俺は、この十年が多分生涯で1番忘れられない時間になると思う・・・譲のすべてを俺だけが独り占め出来た幸福の時だったかもしれない・・・」
「そんな風に言われると、まるでこの先は独り占め出来ないみたいに聞こえちゃうよ、僕は一生ヨシだけいればいい・・・」
譲はそう言って俺にコトンと頭をくっつけた。
「出たな、小悪魔発言!」
「何言ってんの、本心からそう思ってるのに!ヨシの馬鹿!」
ちょっとからかってみると、真っ赤になりながら、むきになって突っかかってくる。かわいい・・・
「分かってるよ、譲はどこにも行かない、行かせないよ。・・・だけど、いつまでもあの狭いアパートの中に閉じ込めておくつもりはないんだよ」
「ヨシ・・・」
「譲は高校も出た事にはなってないし、もちろん大学も。俺は学歴だけがすべてじゃないとは思ってる、だけど自分の選択肢を増やす為には必要な事もあるというのも否めない。譲が俺の為だけにこれからの人生を捧げてくれようとしているのは、うれしい・・・男として、好きな人を自分の鳥籠で飼い馴らす事は夢のような話だ・・・だけど、それが譲にとって1番幸福な人生なのかと言われると、正直俺は違う気がする」
「何が言いたいのかわかんない・・・」
「譲は、頭の回転のいい男だろ、多少のハンデを背負っていてもそんなのは跳ね返す力があると思ってる」
「そんなの・・・いまさら」
俯く譲の肩を握り締め正面を向かせる。
「未練あるだろ?」
「・・・ない」
「嘘をつくなよ・・・」
譲の瞳から涙が溢れてくる。
俺は譲を虐めているみたいだったが、譲には籠に閉じ込めておいたらダメになる、そんな危なげな何かを感じていた。
「通信でまず高卒の資格を取ったほうがいい、それが取れたら大学に行っおいで、譲が高卒資格を取る頃には、もう一人でも外を歩けるようになっているはずだよ?そうなれるように俺が毎日譲とこうして外を散歩してやるよ。別にいいんだよ、譲のペースで、けして急がせるつもりはない、だけど譲が何かしたいことが見つかったら俺はパートナーとして応援したいんだよ」
「義光・・・」
ポロポロと涙を流す譲の頬をそっと指で擦った。
「譲が独り立ち出来るようになるまでは、俺が支えになってやる、だから自由にやってごらん・・・それでも、俺だけの為に一日中あのアパートで待ちたいのなら、それはそれで構わない。それが譲のやりたいことで1番幸せだというのなら、その時は俺が他とは比べ物にならないくらい愛しぬいてやるよ。譲が欲しいだけ俺の愛情総てを注ぎ込んでやる。
・・・だけどさ、譲・・・あのお金はみんなが譲に幸福になって欲しいから出した金だ、それを使わないで取っておくだけなんて勿体ないと思うよ・・・自分の為に使いなよ、遠慮なく」
「・・・もう一度、人生やり直せるかな?」
「ああ、譲ならできる!」
「ありがとう、ヨシ・・・」
「俺こそ、譲が帰って来てくれて、本当にうれしいよ、ありがとう・・・譲」
俺は譲の前髪越しにキスをした。
「ほら、馬車に乗ってみようか?よく映画でこのシーン使われてるの、一度体験してみたかったんだよな・・・」
「ヨシは、昔からロマンチストだったよね」
「ああ、まっ、そのギャップがいいとは思わない?」
「ウフッ!自分で言う?」
「俺は小悪魔譲は好きだな。今度ちょっとだけエッチな事してもいい?」
「な、何するの?」
「椅子に身体を固定して、足を開いて閉じられないようにするだろ、そして手は優しく後ろ手に縛って、譲がどんな刺激が1番感じるか検査するとか。氷とか羽とか、蝋燭とか、スパンキングも、どんな反応するのか見たいな」
「ヨシって変態だったんだね。ちょっと驚いた」
「譲みたいにかわいい顔した小悪魔が乱れ泣くのは大好きだよ」
譲の顔が一瞬ギョッとして俺を見る。
俺はそんな譲の肩を抱き寄せた。
「譲、愛のある行為なら多少の痛みを伴うのは仕方ない事だよね。受け入れられる?」
「ヨシ・・・・・・あまり無茶しないでね。お願いだから」
「アハハ、・・・・もう、譲は本当に大丈夫だ!普通死にたがってる奴なら殺してって、あっさりと受け入れてただろうけど、譲は躊躇ったから。もう、正常だよ」
「ヨシ!引っ掛けたね!?」
譲は真っ赤になって怒ってた、好きな人のしたい事なら何であれ受け入れなきゃと瞬時にいろいろ葛藤して、俺の望みを選んだらしかった。
本当にかわいい奴だよ、譲は・・・
実は今のは本気で譲にやりたいことの一つだった。
受け入れてくれる事はわかったし、追い追い試してみよう。
俺は今、譲の心の中にある雨雲に勝てたという手応えを感じていた。
これから譲は急速に変わっていくだろう、だけど俺達の愛の形は二人でいくらでも作っていける。
俺達が互いに生涯を閉じる時、人生で一番楽しかった時として思い出すことができるよう。俺はこれからも、この傍らの天使、いやこのかわいい小悪魔を思い続けていく、それだけは変わらないと言えた。
譲・・・たとえお前が籠から出て、飛び立とうと、またいつでも帰ってこれるよう、俺は扉を開けて待ち続けるよ。
でも、その前に、俺無しじゃいられないようにしないとな。
俺は意味ありげに、譲を見つめていた。
さすがに視線を感じたんだろう、譲が涙がまだ滲んだ目を上げた。
「ゆずる、愛してるよ・・・」
「僕も・・・ヨシ・・・」
「くそ〜今すぐ、抱きたくなってきた・・・帰ったら、譲が泣いてやめてって言うまでしたいんだけど」
「じゃあ、すぐに泣いちゃおうかな・・・」
譲は笑いながらそう言った。
・・・The End・・・
≪あとがき≫この話は、「僕の家庭教師さま」第二部で出てきた敵役の三枝 義光とその幼馴染で、なぜ自殺未遂をしたのかがわからなかった吉沢 譲の過去と現在をつなぎ合わせたくてはじめたのですが、とにかくSSではきつい内容でした。
この治療法は色々な方法があるそうですが、義光は絵を描かせたり、トークセラピーなどいろいろ試してみたのですが、やはり譲の場合は身体と身体を繋ぎ合わせ自分の方に精神が向くようにと、治療の一環として譲を抱くこともありました。なかなか戻ってこない譲によく10年もつきあったな義光という話だったのですが。