ぴっころの二次創作

ここに書いたものは、推敲等してからHPの各コーナーに移動させる予定です。

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深読み阿高日記・3

「いい逃れようとするな。おまえは確かにチキサニだ」
ニイモレは、殺意と憎悪のこもったまなざしで阿高を見た。
「わたしが見たかったのはその目だ。おまえのその目、わたしが塵ほどもあがめていないことを見せつけて、驚くその目を見たかった」
ニイモレはそう言って、阿高の首をしめあげた。
 
阿高はぎょっとした。
蝦夷に行くと決めたときに、母親の巫女姫の身代わりとして扱われるだろうということは覚悟していた。
オンタロたちに巫女姫として扱われることに、居心地の悪さも感じていた。
だが、まさかチキサニの代わりに殺意を向けられるとは思っていなかったのだ。
 
手をゆるめたニイモレの高い鼻にかみついてやって少しは鬱憤を晴らしたものの、チキサニとして扱われるのはもうまっぴらだという気持ちにはなっていた。
ただ、ニイモレの激情は、何か自分の身にも覚えがある気はした。
ニイモレはかつてはチキサニを女神とあがめ、アテルイとともに戦っていた。だからこそ、そのチキサニに裏切られたと知った時に、一族を飛び出し、朝廷側につく道を選んだのだろう。
(おれもそうなのかもしれないな・・・)
阿高は心の中でつぶやいた。
阿高も、藤太を誰よりも信頼していた。
だからこそ、藤太の隠し事や千種のことが許せなかったし、その勢いで竹芝を飛び出して今はこんなところに来てしまっている。
阿高は目をとじ、ため息をついた。
これからどうすればいいのか、皆目見当がつかなかった。
 
  *
 
阿高が目を覚ますと、そこは蝦夷の村だった。
阿高は、自分が高熱を出して意識を失っていたことを知った。
 「おお、チキサニ。わしだ。無事会えてよかった」
というアテルイの声をどこか遠くで聞いたような気もするが、それも夢の中の出来事のようにあやふやだった。
 
見知らぬ土地で、見知らぬ人に囲まれた中で病気になることは、たいそう気がめいることだった。
阿高は少し気弱にもなったが、リサトたちの看病のおかげで順調に回復した。
片言ではあるが、リサトに教えてもらって蝦夷の言葉も覚えた。
 
散歩の途中で出会ったちびクロを阿高が抱き上げていると、リサトは目をみはった。
ちびクロの母犬は、この村では有名なオオカミ犬らしかった。
「あの犬はコンルといいます。けっしてよそ者には馴れません。ましてや、子犬をさわらせたりしたことのない犬です」
「動物にはわりと好かれるんだ」
「チキサニがそうだったと、死んだ母がよく語っていました」
そう言って、リサトは目をうるませた。
「あなたはやっぱりチキサニ。本当にもどってきたのですね」
 
あれほどチキサニ扱いされることにうんざりしていた阿高だったが、リサトに言われると不思議と嫌な感じがしなかった。
阿高は、素直に言った。
「・・・もどってきてはいけなかったのだろうか」
そして、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「母はあなたたちを裏切ったという。本当にそうなのだろうか」
 
本当のことが知りたかった。
母のことをしれば、自分はチキサニでなく、阿高なのだということに確信が持てるのではないかという淡い期待もあった。
だが、リサトにアベウチフチと会えと言われた途端、胸がすっと冷たくなった。
自分の中にいるというチキサニが、警鐘を鳴らしているような気がした。
 
アベウチフチに会うことは、儀式。
儀式が終われば、蝦夷になるかもしれない。
 
考えてもみなかったことに、阿高は混乱した。
自分が蝦夷になる日が来るなど、考えたことがなかったのだ。
確かに母は蝦夷の巫女姫だった。
けれど・・・。
 
「おれ、蝦夷になると思いますか」
阿高は薬師の老婆に尋ねた。
「それは他人に尋ねることではない。だが、人はだれでも一番必要とされるものになるものだ」
老婆は静かに言った。
(・・・そうなのかもしれない。でも・・・)
阿高は眉をしかめた。
必要とするものになるというのは確かにそうだが、必ずしもそれが正しいとはいえないと思った。
本当に必要とされているのか、まやかしなのか。
そして何より、自分自身がそうすることを本当に望んでいるのか。
それを見誤ってしまえば、とんでもないものになってしまいそうな気がした。
 
(チキサニはどう考えていたんだろう)
多くの人々にあがめられていた巫女姫であるチキサニが、一族を裏切ってまで父勝総を選んだ理由が知りたかった。
 
父親のことを考えると、総武や藤太のことも思い出された。
竹芝は、そして藤太の側は、いつも温かかった。
竹芝で、阿高は幸せだった。
それが藤太と同化していたゆえのものであったにしても、本当に幸せだったのだ。
(でも、もう戻れない・・・)
 
阿高は、これから登っていくという山道に目をやった。
あの向こうにアベウチフチがいるのだという。
なんだか寒々しいような気がして、阿高は衣をかき合わせた。
 
阿高はリサトに着せられた真新しい着物のふところに、ちびクロを入れた。
小さな子犬の温もりだけが、いまの阿高には心の支えだった。
 
 
(続く)
 
 
<コメント>
 
いっきに蝦夷編終えようとしたんですが、長すぎて無理でした・・・。
まあ、考えてみたら当たり前ですね。
それだけの内容が蝦夷編にはある・・・・!
(でも、早く苑上書きたいです。苑上苑上苑上〜)
 
蝦夷編、若い頃よりおもしろいです。
 
ニイモレが阿高の顔を手ぬぐいでごしごしするあたり(文庫上巻P.139)のシーンが、昔はなんとも思わなかったのに、今はなんだか好きです。
 
そして、この深読み日記、推敲ゼロで思いつくままに書いております。
最終、本にするときまでにはいろいろちゃんとしたいと思いますが、今はとりあえず、心のままに打つべし打つべし打つべし・・・というノリで書かせていただいています。
 
名作を駄文で深読みしてすみません。
 
お読みくださって、ありがとうございました。
 
2012.3.22 ぴっころ
 
 
 
 
 

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