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香りと映画と父親と

香りと映画と父親と…
香りは記憶を呼び覚まし、走馬灯のように、短くはあるが、愛にあふれた父との時間に私を連れ戻してくれたのである。
数えきれないほどの人をそれぞれのストーリーに誘ったであろうその深紅のフカフカ感たっぷりのシート。だけれどもクッションのシートのバネはきしむ音を出していた。
何故だかわからないのだが、そのシートの凸凹した座面に指を滑らせて感触を確かめる…それは私にとって唯一の「父に守られている感じ」のする場所だったのかもしれない。
去年の夏、足を運んだすこしさびれた映画館の劇場に入った途端に私はフラッシュバックした感覚になった。錆びた鉄の匂い。たくさんの思い出を見つめてきたであろう劇場の長いカーテンの匂い…
父は公務員で、その仕事は大変であったであろうことは当時の子供の私でも想像がついていた。深夜の呼び出し、長期の出張など、常に多忙を極めていた。しかし、そんな中でもいつも父は私との時間を大切にしてくれていた。一緒にどこかに行ったとしても、いつも途中で、「すこし電話してくる。お前はここで遊んどけ。すぐ戻ってくるから。」というのが常であり、私もなんの抵抗もなかった。
夏の暑い日、久々の休暇をとれた父は私を連れて、今はもう無いとある映画館に連れて行ってくれた。一緒に劇場に入り、ポップコーンとジュースを買い、真っ暗な部屋に入る。犬が探偵役の映画はストーリーを進めていく。とあるシーンで、実際には見たことのないような野菜とハムとたっぷりのチーズを挟んだサンドイッチをその犬がほおばるシーンがあった。その美味しそうなことと言ったら、いまだに脳裏に焼き付いている。
すると、いつもの様に父が「お前はここでじっとしてろよ」というセリフと共に劇場から出て行った。しかし、いつもみたいに電話を終えて帰ってくる様子はなく、少し不安に駆られた私は、安心感を求めたのだろうか、そのシートの凸凹に指を滑らせ、ソワソワしていた。映画のエンドロール部で、こそこそと父は身を屈め、帰ってきた。
今、思うと、それは日本史にも残るような事故が発生した日だった。その対応に父は追われていたのである。
何かを携えてきた父はにっこりと笑い、 
「ごめんな遅くなって。映画面白かったか?よくじっとしてたな。」といい、私の太ももにそれを置いた。それは、当時有名だった某店のサンドイッチのお持ち帰りの箱だった。
「なぁ、輝(私の名)。ここから歩いて帰ろうか」
「うん」
一緒にそれをほおばり、5キロの家路を歩いた。そのせいだろうか。私は今も、映画を観終わえた後、夜風に吹かれながら帰るのである。そして映画館は未だに私にとっては、そんな全てを包み込んでくれる大きな母のような存在の愛なのである。

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初めまして。
先日、この映画を見て、感動し、その帰り道に、パンフレットを観ながら帰り、このエッセイを読みました。それでまた感動し泪が出ました。
このエッセイを書いた人ですか。。
なんか、また感動です。。
どうもありがとうございました。

2015/11/10(火) 午前 1:16 [ ロマンチッカーnao ]

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> ロマンチッカーnaoさん
コメントありがとうございます!また、エッセイも読んでいただきありがとうございます!映画館というものは、当時の(今も)人たちの生活の中の止まり木だったような気がします。そしてその止まり木はなんだか私たちを優しく見守ってくれていたような気がします。だから、僕は映画館というものの中の、五感で感じたもの全てがいまだに記憶に強烈にに残っており、語りかけてくれるような気がします。
パンフレットに載っていましたか? 僕は実は買ってないんです・・・忘れただけですが・・・ コメントありがとうございます!

2015/11/16(月) 午後 5:27 [ にゃんまげギター ]


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