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正確な製品原価の算定の観点から製造間接費の配賦計算について
原価計算を巡る論点として、正確な製品原価を算定するために、製造間接費と、特に製造間接費のうち大きな割合を占める製造固定費をどのように配賦するかという点が大きな問題であったと思われる。本来、企業の成果と努力とを可能な限り対応させるべきとする費用収益対応の考え方からは、総ての原価を製品原価に配賦すべきである。しかし、特に製品との直接的な対応関係がない製造間接費が巨額となった場合、製造間接費の製品原価への配賦計算を巡って問題が生ずることになる。今日の新しい製造環境下においても、工場支援、サービス関連の人件費や物流費、管理関連の人件費などの製造間接費が増加しつつあり、製造間接費の配賦計算を巡る問題は古くて新しい問題の一つであると言える。
この問題に対処するために、製造間接費の配賦計算についてこれをできる限り精密に行うか、もしくは配賦計算の恣意性を排除し、製品原価の計算から全く無視してしまうかの二つの方法が発展してきたと考えられる。
まず、製造間接費の配賦計算を改善するために、製品原価の計算から製造固定費の配賦計算を全くしない方法として、直接原価計算が挙げられる。直接原価計算においては、製品原価に変動製造原価のみが集計される。そして、固定費はすべて期間原価として処理され、製造間接費のうちの固定費部分について製造間接費配賦の必要性がなくなるため、製品原価は変動費のみとなり、製造原価は原則として売上との比例関係を有することになる。但し、製品原価との関係で言えば、変動製造間接費部分については依然として製品原価との直接的対応は図れないという問題は残る。
この直接原価計算を理論的に支持するものとして、資産の本質観としてのマープルの未来原価回避説とソーター=ホーングレンの関連原価説がある。即ち、変動製造原価は未来原価を回避させる能力をもっているのに対し、固定製造原価は未来原価回避能力をもたない。したがって、未来原価を節約する能力のある変動製造原価は、製品が販売されるまでは棚卸資産として繰り延べるべきであるのに対し、固定製造原価は製品原価性をもたせるべきではない。これがマープルが主張する資産の本質観である。また、資産を認識することは将来の企業活動に対して影響力をもつ原価でなければならないのであるから、期待される未来原価または未来収益に良好な経済的影響力をもつ限り、またその場合においてのみ原価は資産として繰延べられるべきとの立場がある。これがソーター=ホーングレンが主張する資産の本質観である。
未来原価回避説と関連原価説の関連を考察すると、変動製造原価は、これをある期間に発生させようとする意思決定がなされると、それだけ将来の原価の発生を回避させる効果をもたらすから関連原価であり、資産性が認められ次期に繰延べられる。これに対して、固定製造原価はある期間に発生しても次期において再び発生し、将来の原価を回避させる能力をもたない。それゆえ、固定製造原価は無関連原価であると同時に資産性がない。したがって、両説ともに変動製造原価だけが棚卸資産価額を構成するのに対して、固定製造原価には一般に用役潜在力がないから資産能力がないと考えられるのである。
しかしながら、未来原価回避説と関連原価説には次の問題点が指摘される。まず、繰り延べられるべき原価は直接原価のみであるとする主張に対しては、伝統的な会計理論から資産とは経済的便益であると考えることができ、固定費も同じく経済的便益であることから製造間接費に含めるべきであると言える。また外部利害関係者へ原価情報を提供するには検証可能性が確保されるべきであるが、そのためには変動費と固定費の固変分解に検証可能性が確保されなければならず、この観点からも直接原価のみが製品原価を構成するという考え方には問題があると考えられる。また、棚卸資産を全部原価に修正するため固定費の再配賦計算に十分に検証可能性が確保されたとしても、依然売上原価は変動費のみで構成されており、正確な製品原価を算定という観点から考えてみた場合、正確な製品原価を算定する趣旨は、本来企業の成果と努力とを可能な限り対応させるべきとする費用収益対応の考え方からは、できうる限り合理的な関係を見出して全ての原価要素を製品原価に収容すべきであって、最初から製品原価の一部を期間原価と考えるべきではないと思われる。
次に、製造間接費の配賦計算はこれをできる限り精密に行う方法が考えられる。この方法として以下のものが考えられる。
第一に、製造間接費の製品系列別直課が挙げられる。これは、全部原価計算の枠組みのなかで配賦に伴う恣意性を解決しようという方法の1つである。製品系列別の直課によれば、配賦そのものが減少するため、配賦に伴う恣意性を相当程度まで排除することができる。それゆえ、製品が多品種化したといっても、同種系列で製品間の差があまりないような会社では効果的である。
第二に、マン・レート法からマシン・レート法への変更である。これも全部原価計算の枠組みのなかで配賦に伴う恣意性を解決しようという方法である。例えば、わが国企業における工場自動化の進展は、マシン・レートが配賦基準として妥当であることを意味する。なぜならば、配賦基準の要件は製造間接費と比例関係にあり、経済的かつ容易に求められ、理解しやすいことであり、マシン・レートはこの要件を満たすからである。
第三に、ABCの採用である。ABCは次の5つからなる計算システムである。第一ステップは製造間接費の発生原因であるアクティビティ別に製造間接費を認識し、第二ステップでは各アクティビティ別に製造間接費を計算し、コスト・プールに集計する。第三ステップでは、アクティビティを計量的に示すコスト・ドライバーを選択し、第四ステップでは、コスト・ドライバーの比率ないしコスト・ドライバー別のチャージレートを計算する。第五ステップではコスト・ドライバーの比率ないしコスト・ドライバー別のチャージレートを用いてコスト・プールの製造間接費を各製品に配分するステップである(注1)(但し、米国におけるABCは、大きく分けて二つのステップをもって実施される傾向にある。すなわち、第一ステップは、コスト・プールに製造間接費を集計するステップである。第二ステップは、各コスト・プール別にコスト・ドライバーを認識し、コスト・プールに集計した製造間接費をコスト計算対象に配分する)。ABCの基本は、直接費を各製品に直接配分し、製造間接費はコスト・ドライバーを用いて配分することによって正確な製造原価を計算するコスト計算システムである。ABCによれば、製造間接費の配賦計算における精度を高めることが可能になると言える。
以上を俯瞰してみると、正確な製品原価の算定という観点で考えてみたとき、製品原価は変動費のみであるとし、製造間接費において大きな内訳をしめる固定製造間接費について配賦計算を全く排除してしまうという直接原価計算を利用する方法は一つのやり方であるように思われる。しかし、その思考を支えるマープルらの原価概念を考察してみたとき、製品原価は変動費のみであるという点に疑問を感じざるを得ない。基本的に売上は販売により生ずるとしても、製品の製造には設備の稼働があるはずであり、これら設備投資に係る減価償却費など固定費の貢献を無視してしまうのは問題があるように思われる。また、基本的には、企業の成果と努力とを可能な限り対応させるべきとする費用収益対応の考え方からは、総ての原価をできる限り合理的に製品原価に配賦すべきであり、容易に製品原価の一部を期間原価として処理すべきではないのではないかと考える。これらを考えたとき、製造間接費の配賦計算は、これをできる限り精密に行う方法が適切であると言え、その意味でもABCによる配賦計算はこれらの問題を解消する一つの方法であると考える。但し、正確な製品原価計算という観点で考えれば、製造間接費のみならず、直接費についてもABCによる配賦計算を行うことが可能であれば、より正確な製品原価計算ができるものであると考えられる。
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