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撤退障壁
参入障壁とは全く逆の概念で撤退障壁というものもあります。企業はある事業から撤退したいと思っても、なかなかやめられない状況に直面することがあります。たとえば近年、子会社がある事業を営んでおり、その子会社が何年にもわたって赤字を出している、連結経営を考慮した場合、赤字子会社は整理対象であり、その事業からは撤退するべきだという主張が声高に聞かれます。しかし多くの企業の意思決定や行動を見ていると、「赤字だから撤退」というほど単純ではないようです。これは撤退という企業行動を妨げる要因=撤退障壁があると考えられるでしょう。
たとえば、これまでに多額の投資を行っており、その設備の償却がまだできていない場合には巨額の特別損失を計上することになり、当期の企業業績を大幅に悪化させることになります。撤退に伴って従業員を解雇しなければならない状況では割増退職金などを支払う必要性が出てきます。その退職金が既存の引当金で充当できない場合には、その分だけ企業業績が悪くなります。また従業員の解雇については労働組合からの反発もあるかもしれません。
ましてや「地元の人達の一大雇用現場となっている」とか、「地元の補助金を使って進出した」などの理由がある場合には、赤字だからといってすぐに撤退するということは現実的にはできない意思決定です。日産自動車が座間工場を閉鎖すると発表したとき、座間市では大きな問題となりました。というのは座間工場に部品を収めている地元の零細部品メーカーも影響を受け、地元の経済に大きな痛手が発生すると予想されたからです。事業が地元経済と密接に関連している場合には、政治的な介入のために自由に撤退できなくなる可能性は非常に高くなります。地方自治体の補助金などで進出のコストが安くなることと裏腹に、潜在的な撤退コストは非常に高くなっているのです。
また撤退するという行為に対して経営者は自分の自尊心から決定できないことも多いでしょう。撤退の対象となっている事業がその企業のもともとも事業であった場合には、経済合理性だけでは説明できない人間の意識の問題が発生します。また半導体事業は巨額の赤字を出しながらも事業が継続されています。これは半導体事業が他のハイテク製品の競争力を決定付けることを考えると、その半導体を自社で行わず他社に依存する形になった場合、生産する製品全体の競争力を自社でコントロールできなくなることを恐れているからです。
このように撤退障壁は様々な理由で形成されます。そしてそれらの理由は何か政治的な理由もふくまれており、経済合理性だけでは説明できない状況です。しかし撤退障壁の存在は企業の収益性を低くしてしまうので、企業経営にとっては非常に大きな問題であることには間違いありません。
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