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4月16日に発売された「1Q84 BOOK3 <10月-12月>」が話題になっている村上春樹さんですが、前々作の長編は「海辺のカフカ」でした。この小説も大変話題になりましたね。時の経つのは早いものです。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E8%BE%BA%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%AB

村上春樹さんの小説にはいろいろな音楽が登場しますが、特に「海辺のカフカ」は多かったと思います。中でも印象に残ったのは、ベートーヴェンの「大公」でした。

この長編小説が発表された当時、CDショップには「海辺のカフカ・コーナー」が設けられ、百万ドル・トリオによる「大公」が圧倒的な存在感を示していたのを覚えています。

以下、新潮社の村上春樹「海辺のカフカ・下」(2002年9月10日・初版)より引用。(どうしても引用したくなってしまう。)


 彼は眼を閉じ、静かに息をしながら、弦とピアノの歴史的な絡み合いに耳を澄ませた。クラシック音楽を聴いたことはほとんどなかったが、その音楽は何故か心を落ちつかせてくれた。内省的にした、と言ってもいいかもしれない。

「音楽はお耳ざわりではありませんか?」
「音楽?」と星野さんは言った。「ああ、とてもいいお音楽だ。耳ざわりなんかじゃないよ。ぜんぜん。誰が演奏しているの?」
「ルービンシュタイン = ハイフェッツ = フォイアマンのトリオです。当時は、『百万ドル・トリオ』と呼ばれました。まさに名人芸です。1941年という古い録音ですが、輝きが褪せません」
「そういう感じはするよ。良いものは古びない」

「よう、おじさん」と彼は店を出るときに店主に声をかけた。「これなんていう音楽だっけね? さっき聞いたけど忘れちまったよ」
「ベートーヴェンの『大公トリオ』です」

「なかなかいい曲だね」
「素晴らしい曲です。聴き飽きるということがありません。ベートーヴェンの書いたピアノ・トリオの中ではもっとも偉大な、気品のある作品です」

どうです? 聴きたくなったでしょう。そうでもない? この後、「大公」が気に入った星野さんは自分でCD(百万ドル・トリオとスーク・トリオ?)を買って物語の終盤まで聴き続けるんじゃなかったでしたっけ。

-*-*-*-

最近「大公」って人気がないなぁと思って取り上げてみました。
そう言う私も最初は聴き比べる気になれなかったのですけれど、他の曲は聴いているうちに嫌になってくるのに対し、この曲はすっと心に入ってくるので、ボンヤリしているときなどついつい聴いてしまうのですよね。この曲は嫌な音がしないんです。春って感じがしてこの季節にぴったり。

シューベルトのほうが好きだなぁと思うこともありますが、あらゆるピアノ・トリオの中で「もっとも偉大な、気品のある作品」だと思います。私も。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 作品97 「大公」
 第1楽章 Allegro moderato 変ロ長調 4分の4拍子
 第2楽章 Allegro 変ロ長調 4分の3拍子
 第3楽章 Andante cantabile ニ長調 4分の3拍子
 第4楽章 Allegro moderato-Presto 変ロ長調 4分の2拍子

Beethoven Piano Trio "Archduke" (I) - Allegro moderato
http://www.youtube.com/watch?v=iwXljRJNN74

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イメージ 1アルフレッド・コルトー(p)
ジャック・ティボー(vn)
パブロ・カザルス(vc)
(画像はEMI CLASSICSのもの 1928年の録音)
カザルス・トリオによる演奏です。録音が古いので一般にはお薦めしませんが、この年代にしてはヴァイオリンもチェロもピアノも意外に美しく収録されていて驚きです。古めかしいスタイルではありますが、まさに「良いものは古びない」ですね。ティボーの歌、雄弁なカザルス、チャーミングなコルトー、実に素晴らしいです。実は私、このCDを紛失してしまっています。いくら探しても見つかりません(笑) いつかNAXOS盤あたりで買い直そうと思います。


イメージ 2アルトゥール・ルービンシュタイン(p)
ヤッシャ・ハイフェッツ(vn)
エマニュエル・フォイアマン(vc)
(RCA 1941年の録音)
百万ドル・トリオによる演奏です。「海辺のカフカ」で登場したCDなので、結構売れ(て中古屋に売られ)たのではないでしょうか。全体に早めのテンポであっさり目。個人的にはあまり好きな演奏ではありません。もっと悠然・泰然自若とした趣が欲しいと思いました。この曲にはもっと豊かな歌を望みたいのです。なお、当然のことながら録音はモノラルで、カザルス・トリオ盤よりも歪みっぽく、あまり聴き映えがしません。初めてこの曲を購入される方は避けた方が無難かと思います。


イメージ 3レフ・オボーリン(p)
ダヴィッド・オイストラフ(vn)
スヴャトスラフ・クヌシェヴィツキー(vc)
(EMI CLASSICS 1958年の録音)
オイストラフ・トリオによる演奏です。今回取り上げた中では「大公」という(偉そうな)タイトルに最もふさわしい演奏で、何度も繰り返し聴いてしまいました。この演奏の成功の一因は、オボーリンにあると思います。オボーリンは、ここぞというときにガツーンと鳴らしてくれるので、ベートーヴェンらしい重厚な響きが確保されています。クヌシェヴィツキーのややくすんだ音色がオイストラフのヴァイオリンにマッチしていて3者がうまく調和しており、大変聴き応えがある演奏だと思いました。今回最も感銘を受けた一枚です。


イメージ 4ルドルフ・ケンプ(p)
ヘンリク・シェリング(vn)
ピエール・フルニエ(vc)
(Deutsche Grammophon 1970年の録音)
名づけてDG・トリオ(仮称)による演奏。「大公」のお薦めを尋ねられたら、真っ先にこの盤を挙げると思います。実際、我が家の「大公」は、長年この盤しかありませんでした。この顔ぶれですから、あらゆる「大公」の録音の中でも「もっとも気品のある」演奏に仕上がっています。何度聴いても飽きません(笑)。美しく艶やかで歌に溢れたシェリングのヴァイオリンがとても素晴らしいです。いずれ劣らぬ名手なのですが、お互いを引き立て合ってバランスが取れているのもポイントが高いです。欠点は押しがやや弱いところかな?


イメージ 5ヤン・パネンカ(p)
ヨゼフ・スーク(vn)
ヨゼフ・フッフロ(vc)
(DENON 1975年の録音)
スーク・トリオによる演奏。全体に若々しい感じがします。チェコを代表する3人の独奏者による演奏なので、悪かろうはずがありません。一聴してまずパネンカのピアノがとても美しいと感じました。また、スークやフッフロもピアノに負けないくらい立派です。総じて、美しくフレッシュな演奏だと思うのですが、各楽器の音が鮮明過ぎ、ピアノと弦という異質の楽器が自己主張し合って、うるさく感じられます。ただ、第4楽章はこのCDが一番良いと思いました。なお、ピアノがハーラに変わってからの再録音もありますが、そちらは未聴です。

-*-*-*-

土曜日から旅行に出かけますので、今週は新規投稿をお休みしようかとも思いましたが、ここ数日は訪問者様がとても多く、こんなブログでも楽しみにして下さる方がいらっしゃるのだなぁと思って、ちょっと無理して書いてみました。

荷造りが全然できないっ!(焦る!)

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久々の晴れです

村上春樹の「海辺のカフカ」は僕もかなり期待して読みましたが…僕の中では、やはり「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」といくつかの小品で、春樹ワールドは完結しましたクラシック音楽が惜し気もなく流れるのが彼の小説のいいとこですよね

ベートーヴェンの「大公」、僕はティボー、カザルス、コルトー盤しかありませんでしたあまり熱心な聴き手ではなく、そういえば最近新しい録音もないですね。ベートーヴェンの「トリオ」なら、僕は第番が好きですよもちろん、アルゲリッチのお転婆娘のような演奏があってのことですがアルゲリッチも番と弾いてるので、番もそのうち弾くかも、ですね

「ピアノ・トリオ」の名曲と言えば、僕は真っ先にメンデルスゾーンの「番」、ブラームスの「番」を挙げますなぁ
ところで、ベートーヴェンって何曲書いてるんですか

旅行いいですね僕も週末は再び遠出ですけど晴れの天気のようなので、ありがたいですこれを我々は「アルゲリッチ・パワー」と呼んでますお気をつけて、お越し下さい

2010/4/24(土) 午前 8:49 ふじジョン 返信する

お待たせしました(誰も待っていませんね 笑)
良いご旅行になりますように♪

カザルストリオを好んで聴いています。
フルニエのもお気に入りです。
やっぱりチェロが要になりますよね。

前回ご紹介の弦楽四重奏に比べると気軽に聴ける曲ですよね☆

2010/4/24(土) 午後 9:00 [ テレーゼ ] 返信する

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ふじジョン様
お返事が遅くなりました。4時には家にたどり着きましたよ♪

「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」といくつかの短篇小説に尽きると言いたいところですが、新作が出ると飛びついてしまいます。小説の中に登場するお薦め演奏(と選曲)にはちょいと疑問がありますが、ベストセラー小説にクラシック音楽が取り上げられるのは良いことですね。

それにしても、ピアノ・トリオ。ジャズだと人気のジャンルなのに、クラシックでは敬遠されているような? 「大公」は、ベートーヴェンの最後のピアノ三重奏曲です。「海辺のカフカ」でも店主がそのように説明していました(笑) ピアノ三重奏曲の名曲と言えば、あと、忘れてはならないのがショスタコーヴィチです。

旅行中は毎日良いお天気でした。アルゲリッチは晴れ女なのでしょうか。我が国の気象さえも左右してしまうなんて、本当にすごい人ですね。

次回の記事は旅行の話にしたいと思います。隠し撮りしていたので、写真に意外な人物が写りこんでいるかもしれません……。

2010/4/26(月) 午後 9:10 ハルコウ 返信する

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テレーゼ様
こちらこそお待たせいたしました(汗)
携帯でコメントを打つのが苦手なので、家に帰ってからパソコンでお返事をかいています。
ノートPCを持って行こうかなぁとも思ったのですが、まぁ2泊3日程度ですからね。

皆さん(と言っても約2名様)「大公」はカザルス・トリオなんですね。あらえびす氏が「世界最高の芸術団体は(略)このカザルス・トリオである」と激賞していましたね(いつの話だ!)。
ついでに「大公」も「古今のピアノ三重奏曲中この曲より美しく、この曲より気高く、この曲より深味のある曲はなかったであろう」とも……。

2010/4/26(月) 午後 9:10 ハルコウ 返信する

おはようございます

昨日の夜は大雨だったのに、今朝は晴天
室内樂、やはり人気ないんですかね…宮崎の音楽祭でもフィラデルフィア管弦楽団は完売だったのに、その他の室内樂の公演はまだチケットが残ってる状態です…

確かにオケは派手だし音もでかいから迫力も楽しめますが、密度の高い音楽はまさに室内樂にあると思っています

「ピアノ三重奏」は、僕は断トツにメンデルスゾーン、それからブラームスの1番ですが、先日シューマンの1番も聴いて、あっこれも名曲となりました。ショスタコーヴィチ(アルゲリッチの名演が素晴らしい)、と来ればやはりチャイコフスキーもアルゲリッチの名演でお楽しみいただけます

2010/4/29(木) 午前 9:43 ふじジョン 返信する

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ふじジョン様
こんばんは
今日は午後からよく晴れましたが、風が強くて洗濯物が飛ばされました

以前、ブラームスを特集しようと考え、弦楽重奏、弦楽重奏、弦楽重奏、ピアノ重奏、ピアノ重奏、ピアノ重奏と続き、最後にヴァイオリン・ソナタで終えようと思ったのですが、企画の地味さに断念しました

室内楽、特に弦楽重奏の類は同族楽器だけなので響きが地味ですね。ハーモニーは純粋なのですけれど、多彩さに欠けることは認めます。ピアノが入ってもピアノ重奏だと響きが寂しいのか、やっぱり人気がありませんね。

アルゲリッチ、クレーメル、マイスキーによるショスタコーヴィチとチャイコフスキーのピアノ・トリオは持ってますよ

2010/4/29(木) 午後 6:58 ハルコウ 返信する

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こんにちは。
シューベルトのソナタ記事経由でここにきました。
大公は上記のCDは全部聴いていて、僕はスーク盤が一番好きです。
オイストラフ盤は昨夜友人にプレゼントしちゃいました。
ところでソナタ17番は面白い音楽だと思っています。
村上春樹さんの「意味がなければスイングはない」で書かれていたと思い出し読み直してみました。
「ソフトな混沌の今日性」というサヴタイトルが付いていました。(村上さんらしい言葉です。)
カーゾンのCDを持っているのですが、確実に最も聴いていないCDの一つです。
しかし所有しつづける宝だったりするのですから、シューベルトは凄い存在です。仮にポリーニだったら手放すことに躊躇しないです。
なんだろうこの感覚、自分でも解りません。

2012/1/29(日) 午後 3:53 [ JH ] 返信する

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堀内淳さま
こんな立派なコメントをいただけるのであれば、あちらのコメント欄を開放しておけばよかったです。そう言えば、某料理店で紳士が女性にオイストラフ・トリオの「大公」をプレゼントするシーンを昨夜目撃したような記憶があります。

第17番D850ですが、シューベルトであれば、もっと親しみやすい、愛らしい曲を書くことも可能でしょう。実際、そのようなソナタもありますし。しかし、あの曲はどうなんでしょう。多くのCDが現在廃盤になっているのも頷けるとっつき難さがあります。

その分かり辛さを作品のせいにすることも可能ですが、さすがシューベルトだけあって「この曲が理解できないのは自分が拙いからだ」と思わせるものがあります。このような音楽を楽しむことができるようになれば、それは一生の宝物になると信じ、今週も聴き続けたいと思います(笑)

村上春樹の本は全て初版で持っていると豪語している私ですが、「意味がなければスイングはない」は持っていないです……。なんだかくやしい。

2012/1/29(日) 午後 7:42 ハルコウ 返信する

おはようございます
シューベルトのソナタの記事経由でここに辿り着きました
ぼくも「大公」は実家にあったカザルス・トリオの復刻LPで育ちました。
あと、年代のギレリス&コーガン&ロストロポーヴィチというソ連期待の若手トリオのメロディア盤も持っています。これは大学年のときにロストロのサインをもらう機会があって、ロストロのCDを枚も持っていなかったので慌てて買ったCDです
「大公」以外のピアノ・トリオは、チャイコの「偉大な芸術家」と、つい先日の飲み会で鹿児島のFさんからいただいたハイドンのト長調しか知りません(持ってるだけの曲は別として)
Loree家では、ピアノ・トリオと言えばテディ・ウィルソン・トリオです

2012/1/31(火) 午前 8:14 [ Loree ] 返信する

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たびたび失礼します。
Loreeさんのギレリス&コーガン&ロストロポーヴィチのメロディア盤良いでしょうね。しかもサイン入りとはお宝じゃないですか。

個人体験は、それなりに貴重な温かい記憶となって、僕の心の中に残っている。あなたの心の中にも、それに類したものは少なからずあるはずだ。僕らは結局のところ、血肉ある個人的記憶を燃料として、世界に生きている。もし記憶のぬくもりというものがなかったとしたら、太陽系第三惑星上における我々の人生はおそらく、耐え難いまでに寒々しいものになっているはずだ。だからこそおそらく僕らは恋をするのだし、ときとして、まるで恋をするように音楽を聴くのだ。
村上春樹「意味がなければスイングはない」シューベルト17番二長調D850・77頁より。

2012/1/31(火) 午後 1:41 [ JH ] 返信する

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Loreeさま
仕事が忙しくて記事どころかコメントを書いている余裕さえありません(泣)

ギレリス&コーガン&ロストロポーヴィチのトリオと言えば、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲イ短調作品50「偉大な芸術家の思い出に」のCDを私は長年探し続けています、
と記事に書いたところ、早速親切な方(仮称Pさん)がCD-Rに焼いて送ってくださいました。
ここまで書けば聡明なLoreeさんはご理解されたと思います。なお、ハイドンのトリオは不要です。

私はカラヤンのサインを所有していましたが、額に入れて飾っておいたところ、退色してサインが消えてしまいました。それ以来、貴重なサインは押入れにしまっているのですが、先日確認したところカビが生えていました。やれやれ。

2012/2/2(木) 午後 3:18 ハルコウ 返信する

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堀内淳さま
仕事がとっても忙しいのに、今日明日とコンサートに行きます。疲労がたまります!

あれから毎日シューベルトのピアノ・ソナタ第17番 二長調 D850を聴いています。体(頭)に曲が馴染んで来てストレスなく聴けるようになりました。いや、むしろ良い曲だと思えるようになっています。あともうちょっとです。飽きずに聴き続けていますが、でも、そろそろケンプ以外の演奏を聴きたいと思うようになりました。ここまで書けば聡明な(以下略)……。冗談です。

最初は堀内さん自身のコメントかと思い、驚きましたが、村上春樹の文章だったのですね。「記憶のぬくもり」とは素敵な表現だと思います。「恋をするように音楽を聴く」……。好きでなかった人を一生懸命好きになるよう努力し、恋するまでになったらD850を理解できたということなのかな?

2012/2/2(木) 午後 3:21 ハルコウ 返信する

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