|
「カラスの暮れがた」
木霊するほどの 広さも器もないのが 街だとしたら エコーのかかる声で カラスは何を唱えているのか 自分の言葉といえば 風に乗せても届かずに ぽつん ぽつんと 見えない林檎 身体は 吹き抜けのようになり 通り過ぎる 求めてはいけない時間 終わりの霧が 胸のあたりに押し寄せて 動けない 陸に上がった海月のようだ 電線の上からうかがう カラスの気配を振り払う 呪文をくれないか のびきるまでは 影でいられるような そうやって 生贄として慣れてゆくんだ やけに喉が いや 世界に渇く
*詩と思想2014年12月号入選作
|
全体表示
[ リスト | 詳細 ]
|
「隔離世界」
広すぎる空 遠すぎる空
圧倒的なものは昔から好きになれない 世界を切り取ることができる
ナイフはありますか 切り取った一片と
暮らすことはできますか ひとり分の空気なら
多分ちいさな木が数本あれば 遠近法の錯覚は
結ばない現実 平行の無機質
直線の不自然 みんな曖昧な点の集まりのはずなのに
それは 人の心さえ ガラスで隔てられた現実感
ガラスに抑えられた存在感 時間も空間も
いつも組みあがる途中に過ぎず 霞んで見えます
霞んでいますか 壊してしまったもの
壊れてしまったもの 彼方に目を向けると
いまだ広大な時間の雲があり その下で不可逆の降るのが見える
あちらこちらの無数の人の傘へ 正確に *詩と思想2014年11月号投稿欄入選作品
|
|
「ポストモダン暦」
立春や剥がされてゆくアスファルト 飲み干したグラスの底の雨水かな 目覚めれば世界の全て蜃気楼 衛星のふらここ蹴って彼方まで 踏み絵なき世界はあるか珈琲飲む 離別するヴィスコンティ忌のルージュかな 背中から男消えゆく竹落葉 風の中虚数の如く蛇の衣 夏の星東京駅の押し黙る 夜会服ただ一枚の夏の月 水の星飲み干すラムネ瓶の中 カルチェラタン鋏で刻み秋とする 賢治の忌交流電気仄光る 経済合理性的夜食かな 紅葉散るストロンチウムの土の声 裸木とただ語り合うタオイズム 毛糸玉ころがる宇宙のひも理論 セーターの形に人を脱ぎにけり 指先に寒の戻りし不協和音 冬星座ポストモダンの構造図 *第42回俳句人連盟賞佳作5位連作 *この賞に応募していない既発表作は可ということでしたので、 Twitterなどで投稿したり詠んだものが入っています。 |
|
「螺旋世界」
一日の仕事を終えて
渋谷のスクランブル交差点を
渡っていると
すれ違う人のかたちに
切り取られた
喜・怒・哀・楽
世界 という言葉で
描かれるすべてが
彼方の星の出来事に思える
忙しさの果て
今日もこの空間を横切りつつ
僕は ほんとうはどこに
向かっているのだろう
いずれ ひとりで
遊民
それとも難民に
砂の楼閣に重なる
フラジャイルの東京で
孤独が
遺伝子レベルで
転写されつづけ
日々は 螺旋階段に
そして
眩暈を覚えながら
階段を下り
自分が迷宮入りする前
一瞬のなかに
ひとりだけの永遠を
抱え込む
*詩と思想2014年7月号投稿欄佳作
|
|
「鏡の伝言」
一日に幾度も映った自分に
確かめたかったのは何だろう
たとえば朝は家の化粧台で
昼はショーウィンドウ
夜は路線バスの車窓で
自分の鏡像と
目が合った瞬間
忘れてしまった
鏡の向こうの自分も
言葉を失い
世界への扉も
自分への回路も
気がつけば
閉ざされていた
「次止まります」の赤いランプ
ですます調の
無機質なもてなし
バス停に止まるたび
吐き出されていく人々が
自分にも他人にも
関心がなさそうに見えるのは
はたして 思い過ごしか
生きている
という実感は
遍在ではなく
偏在していて
借り物の身体
遺伝子を受け入れた
?人形の自分に
いま一矢を
痛みは 始まり
*詩と思想2014年7月号投稿欄入選
|




