|
先日記事にしたSFTSですが、現在獣医師の中でもどう対応したものか悩みの種です。
というのは、レプトスピラなど一部の病気を除けば、それほど危険な人畜共通感染症というのはこれまでなかったからです。
そのため、獣医師はマスクや手袋などもなしに診察したり、採血した場所の止血を(アル綿で消毒した)指で押さえたりという行為を平気でしたりしていました。
SFTSはマダニの刺傷もしくは動物を通じて人間に感染する新興感染症ですが、人間に感染した時の死亡率は約20%(中国では約30%)と報告されています。
犬に感染した時は不顕性感染〜軽度の症状が多く、ウイルス量も少ないのですが、より危険なのは猫に感染した場合です。
猫に感染すると重症化し、野良猫でも動けなくなります。
感染した猫の死亡率は50%以上と言われ、排出するウイルスが桁違いに多いのが特徴です。
室内飼いの猫は外に行かなければ感染するリスクはないのですが、外に行く猫、もしくは野良猫は、ウイルスに感染しているマダニに刺されると感染します。
飼育猫は外に出さない、もしくはマダニの駆除薬を使う(完全なウイルス感染予防ではないですがリスクは減らせます)ということで対処ができるのですが、一番の問題は野良猫です。
普段は人間に触られるのを許容しない野良猫でも、SFTSウイルスに感染するとぐったりして動けなくなるため、触れるようになります。
そうすると人間に保護されたり、動物病院に連れてこられる可能性が出てきます。
ウイルスは唾液、尿、便、血液などの体液全てに含まれており、体液に触れると人間にも容易に感染します。
感染した場合はほぼ発症するとされており、発症した場合の死亡率は約20%です。
保護した人は素手で触れば濃厚接触者となりますので、感染する可能性がかなり高くなり、実際に保護の際に噛まれ死亡した人や、保護した小学生が感染し発症した事例が報告されています。
まだSFTSに対しての知識、認識が低いため、見つけた人が何の疑いもなく素手で触って普通に保護したり、動物病院に連れて行くというのが大きな問題です。
動物病院でも、治療にあたる獣医師、動物看護士に容易に感染します。
うちでも、入院の必要が出た時にどう預かろうかとシミュレーションしてみたのですが、一般犬舎・猫舎と通路に置いたICUしかないため、どう考えても入院は不可能そうです。
一般犬舎・猫舎で健康な動物と隣り合わせに入れるなんてありえませんし、通路に置いてあるICUも、とても院内感染のリスクなしに預かれるものではありません。
他の入院患者に感染を移すことは絶対に許されませんし、スタッフや獣医師自身が感染するわけにもいきません。
実際、SFTSの発生が知られるようになってから、動物を通じて獣医師、動物看護士が感染したという事例が何件も報告されています。
相手が感染力の高いウイルスだと分かっていて、防御に努めていたのに、それでも感染しています。
動物を感染させない、ということが最重要なのですが、一番難しいのは「倒れている野良猫を見つけたらどうするか」ということです。
これまでの経緯の分からない猫がいきなり倒れていたと動物病院に連れて来られるシチュエーションというのは、時折あることだからです。
ただ、これはもうすでに公衆衛生的な問題であり、個々の動物病院でどうにかできるレベルの問題ではないと思います。
倒れている野良猫を見つけた時、考えられる選択肢としては、
「保護して動物病院に連れて行く」
「触らず、行政に連絡をする」
ということのどちらかしかないですが、保護して動物病院に連れて行った場合は、保護した人と獣医療関係者のリスクが大きすぎるというのが問題です。
もうすでに死者も出ている以上、今後は、ぐったりしている野生の猫には「触ってはいけない」ということが常識となるよう、国レベルで周知して行く必要があると思います。
すでに「(特に冬場の)倒れている鳥は、鳥インフルエンザウイルスを持っている可能性があるため触らない」というのは常識となっていると思いますが、野良猫のSFTSウイルスも、それと同じ扱いになって行くものと考えます。
行政も、鳥インフルエンザの連絡に準じた形で、倒れている野良猫の連絡があった時に対応できるよう、準備を整えておかないといけないと思います。
「倒れている野良猫」の治療は、町の個々の動物病院の手に負える問題ではないですし、感染、死亡のリスクを個人が負うべきものでもないと思います。
「その猫をどう助けるか」よりも、「そこから感染して死ぬ人を防ぐ」という公衆衛生の問題だと思うからです。
※転載、リンクはご自由にどうぞ
|