どうぶつ病院診療日記

動物病院の診察風景や、獣医師が日頃思っていることなど

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

学会では、いろんな興味深い発表がありましたが、
最近の流行のひとつとして、縫合糸起因性の肉芽腫の発表がありました。

絹糸の話は、以前もこのブログでさせていただきましたが、
やはり、獣医師業界全体が、絹糸の問題に、
かなり気を使うようになって来ているようです
(人医が聞けば、ずいぶん低レベルで、
 時代遅れの話に聞こえると思いますが)。

絹糸は、安いという利点がありますが(もっとも、それだけですが)、
欠点として、生体への刺激が強く、
肉芽腫を作ったり、感染を起こすとずっと膿を排出し続けるという点があります。

人では、おそらく、絹糸を体内に残すということはしないと思うのですが、
獣医師業界では、いまだに、結紮に絹糸を用いる人がいるようです。

発表では、絹糸を使ったために、体内で肉芽腫を起こし、
摘出のために再度お腹をあけた例や、
体内で大きな癒着を起こしていたために、
腎臓や腸管、腹膜などを摘出した例などが紹介されていました。

卵巣の根元を縛った場合は、体の一番奥に糸が行きますので、
摘出も大変ですし、周りに大切な臓器がたくさんありますので、
癒着を起こすと、とても大変なことになります。

縫合糸というのは、基本的に異物ですので、
多かれ少なかれ炎症反応を引き起こすのですが、
中でも、絹糸の使用によって起こる肉芽腫の報告はずば抜けて多くなっています。

絹糸自体が強い炎症反応を引き起こすのですが、
縫合糸が無菌的でなかった場合は特に肉芽腫を作りやすいようです。
その他、犬種的には、ミニチュアダックスがなぜか一番起こりやすいと言われています。

絹糸起因性の肉芽腫を避けるには、

「絹糸を体内に残さない」

ということしかありません。

僕自身は、絹糸を体内に残したことは、開院以来一度もありません。
僕が体内に残す糸は、PDSとナイロン糸だけです。

絹糸を体内に残していいことなど、何一つありません。
絹糸を使う先生は、
「ぐっと縛った時に、きっちりしまる様な感触がする」
と言うようですが、それは錯覚のようです。

血管・組織に対する結紮力自体は、
絹糸では実は低いそうです。
きっちりしまっている様な気がしているのは、あくまで、
"気がしている"だけのようです。

絹糸を体に残された場合、肉芽腫が出来て、
それを後から摘出しなければいけなくなることもありますし、
絹糸が体の免疫を刺激することによって、
体の別の場所に、アレルギー性の皮膚炎を引き起こすこともあります。

実際、僕の病院で、他の病院で手術をしてもらってから、
お腹の術部がじゅくじゅくして来て、
それと同時に、体中で皮膚炎が起きて来た、という子がいました。

その子は、自己免疫性の病気だからと言われて、
ずっとステロイドを飲んでいたようですが、
腹壁を縫っていた絹糸を摘出すると、
嘘のように、ぴたっと皮膚炎まで収まってしまいました。

PDSは、たしかに絹糸に比べると高いですが、
術後に、副作用を与えるリスクがあることを考えると、
その分コストがかかったとしても、
しっかりとした糸を使っておいた方が良いと思います。

手術代をケチって、安い糸を使ったとしても、
その後で再手術になったのでは、なんにもなりません。

これだけ、獣医雑誌や学会などで、

「絹糸は副作用が出る確率が高いので、使ってはいけません。」

と言われるようになると、絹糸を使うことを正当化することは、
難しくなって来ていると思います。

訴訟を起こされた場合、負けないかどうかには、
「平均的な獣医療のレベルを行っていたか」
ということがひとつの目安になりますが、
縫合に絹糸を使った、ということは、
それ自体がすでに、平均以下の獣医療と言われても
しょうがないことになって来ていると思います。

絹糸を使って副作用が出た場合、
それが原因で訴訟されると、負けてもしょうがないと思います。

僕自身は絹糸を体内に残すことはしていませんので、
絹糸を使い続ける先生の気持ちが分からないのですが、
もうそろそろ、絹糸の使用は止めるべきだと思います。

してはいけないことをし続けるということが罪だとするならば、
もうすでに、絹糸を使うことは、それ自体が罪だと思います。

※縫合部位に癒着を起こすために、
 わざと絹糸で縫合する、という場合はこの限りではありません。

※傑作、ランキングをクリックしていただけますと、うれしい限りです。
 この文章は、多くの人に読んでいただきたいですので、
 転載、リンクはフリーとさせていただきます。

この記事に

開く コメント(28)

全1ページ

[1]


.


みんなの更新記事