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可愛らしい仕草で人気のある猫の一つとなっているのが、 「スコティッシュ・フォールド」です。 ずいぶん前に、記事にしたことがありますが、 僕個人の考えとしては、この猫は「品種」ではなく、 「遺伝子疾患」である、と思っています。 耳が折れている原因は、軟骨の形成不全を引き起こす遺伝子を持っているからです。 耳折れ遺伝子F(耳折れでない正常遺伝子はf)を持っている猫は、 もう片方の親の品種が何であれ、「スコティッシュ・フォールド」となってしまいます。 Fが二つ揃ったFF遺伝子を持っている猫は、重度の骨や関節の異常を起こし、 心臓病や腎臓病となって長生きできない可能性が高くなります。 そのため、Fが一つだけのFf遺伝子の持ち主が、 通常販売されている「スコティッシュ・フォールド」です(FFを売っていたら極悪です)。 F遺伝子は優性遺伝子なので、Fが一つでも入っていれば、症状として発現します ("耳の立っていないスコティッシュ"は、おそらくF遺伝子を持っていないffの個体です)。 F遺伝子を持っていれば、軟骨の形成異常という症状が起こりますので、 耳が垂れ、関節や骨の異常が、程度の差こそあれ、必ず生じます。 「可愛い」と言われる外貌というのは、病気によって軟骨形成異常となったことによるものです。 「スコティッシュ・フォールド」というのは、結局のところ遺伝子疾患の一つです。 実際、イギリスでは品種とは認められていません(1970年代にリストから削除されました)。 「スコティッシュ・フォールド」は、F遺伝子が入れば起こる遺伝病なので、 もう片親が何であれ、F遺伝子を持っている個体が交配を行えば、 その子はスコティッシュとなる可能性があります (Ff×ffの交配で、Ff50%、ff50%です)。 獣医師としてとても心配なことの一つは、スコティッシュの個体が捨てられたり、 未去勢の個体が外に自由に行って交尾したりすると、 野外にF遺伝子が広まる可能性がある、ということです。 劣性遺伝子であれば、持っていても特に症状を起こさないということになるかもしれないですが、 F遺伝子は優性ですので、持っていれば発症してしまいます。 一旦遺伝子が野外に出て行ってしまうと、取り返しがつかないものとなります (耳が折れているのでわかりやすいかもしれないですが)。 Ffの個体が野外で交尾を行えば、半分の可能性でその子はFfとなり、 その子も交尾を行えば、また半数がFfとなり、と繰り返されていきますので、 環境中に、F遺伝子が拡散していくことになります。 半年ごとにメスが4頭出産するとして、その半分がF遺伝子を受け取るとすれば、 半年ごとに個体数が倍々になっていく計算になります。 一旦広まってしまったF遺伝子をクリアにしようと思ったら、 耳の折れている個体を全て捕まえて排除(もしくは避妊・去勢)するしかありません。 最初は交尾相手もff遺伝子の持ち主ばかりなので、子供はFfかffだけだと思いますが、 そのうちFf個体が増えれば、いずれ必ずFFの遺伝子を持った個体も生まれます。 その個体は、重度の発育異常を起こして、まともには生きていくことはできません (Ff×Ffの交配で、25%がFFとなります)。 スコティッシュがみんな避妊・去勢をしているか、室内だけで飼育をしているのであれば、 野外にF遺伝子が出ていくことはありませんが、 未去勢・未避妊のスコティッシュが捨てられたり、外に自由に出て行って交尾をするようなことが起これば、 野外の猫にF遺伝子が入り込んで行きます。 特にオスの場合は、あちこちで交尾をしてきたりすると、 あちこちにF遺伝子を広めてしまうということになります。 相手の猫が雑種であろうと何の猫であろうと、F遺伝子を持って生まれてくる子は、 「スコティッシュ」となります。 それが、この猫を品種と考えることが決定的にできないところです。 品種であれば、相手が違う品種であれば、その子は「雑種」となるのですが、 スコティッシュにおいてはそうではありません。 しかも、雑種になれば通常は不利な遺伝子というのは雑種強勢によって見えなくなることがほとんどですが、F遺伝子は優性遺伝子なので、 F遺伝子を持っていれば、それは症状として現れます。 F遺伝子が野外に広まってしまうと、あちこちにスコティッシュの猫がいる状態となっていきます。 しかもFFの持ち主が一定の確率で現れますので、重度の発育異常となったかわいそうな猫が出てくることとなります。 これを「遺伝子汚染」と言わずして何なのか、というのが、 いち獣医師としての危惧です。 今は個体数が少ないので、まだ報告もされておらず、トピックスにもなっていませんが、 スコティッシュが捨てられたり、外で交尾を行ったりすることによって、 F遺伝子が野外に広まっていけば、 将来的には十分起こり得る事態であると思います。 もしかしたら、もう現時点でも、野良猫で耳の折れている猫をよく見かける、 という地域はもうあるかもしれません。 スコティッシュ・フォールドを飼っている人は、未去勢・未避妊の個体を絶対に ・外に捨てない ・外に出さない として欲しいと思います。 販売する側も、そのことを伝えておかないといけないと思います。 できれば、避妊・去勢を行ってから販売される方がベターだと思います。 そして、飼っている飼い主さん自体が、この猫はそういう遺伝子を持っている猫なのだ、 ということを知っておかないといけないと思います。 ただの、「耳が折れている可愛い猫」ではないのですから。 ※転載、リンクはご自由にどうぞ
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品種いろいろ
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品種と病気などの話です
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最近人気が高くなって来ている猫のひとつが、 「スコティッシュ・フォールド」です。 スコティッシュ・フォールドというのは、 スコットランドでブリティッシュ・ショートヘアの猫の中から偶然生まれた、 突然変異の耳の折れている猫の形質を固定化した猫の事です。 その後アメリカンショートヘアと交配させたりしながら現在に至っているということです。 耳折れの形質というのは、遺伝子の働きによるものですが、 この遺伝子が変わっているのは、「優性遺伝」するということです。 耳折れ遺伝子が「F」、立ち耳遺伝子が「f」だとすると、 FF、Ffは耳が折れた個体となり、ffのみが耳の立った個体となります (子は両親から、Fもしくはfを一個ずつもらいます)。 ところでF遺伝子には、忘れてならない重大な事柄があります。 それは、 「Fを両親から受け継いだFF個体は、重度の奇形を起こしてしまう」 ということです。 F遺伝子を持っている個体は、多かれ少なかれ軟骨形成不全の形質を持っているのですが、 (それが垂れ耳の正体です)、Fがふたつ重なってしまうと、 重度の発育障害や骨瘤、骨や関節の形成異常などの症状を起こします。 Ffの耳折れ個体をFfの耳折れ個体と掛け合わせると、 理論上はFFが25%、Ffが50%、ffが25%の確率で誕生します。 そのため、折れ耳のスコティッシュを折れ耳の個体と掛け合わせるのは、 やってはいけない禁忌のブリードです。 僕もずいぶん昔一回だけ見たことがありますが、 FF個体は体つきも異常で、心臓病や腎臓病を持っていることもありますので、 本当に悲惨なものとなってしまうようです。 従って、スコティッシュのブリードには、 「折れ耳のFfを立ち耳ffと掛け合わせなければいけない」 という鉄則があるそうです。 重度奇形のFFを生み出さないようにするためには、 立ち耳ff個体から、「f」の遺伝子を必ず導入しなければいけないからです。 したがって、ブリードにおいては、 「スコティッシュ・フォールドではない猫」 の血を必ず導入しなければいけないので(血統書的にはブリティッシュもしくはアメショー)、 それが品種認定の妨げになっていた、ということです。 よく聞かれる話は、 「スコティッシュと言われて買ったけれども、耳が立たない」 というものです。 後から垂れてくる個体もいるとか言う話ではありますが、 立たない理由はただひとつ、 「立ち耳遺伝子を持っていない」 ということです。 Ff×ffの掛け合わせの場合、50%の可能性でffの立ち耳個体が生まれます。 ff遺伝子の個体は、時間が経っても、垂れ耳遺伝子を持っていないのでそのままです。 問題は、 「スコティッシュの子どものff個体をスコティッシュと呼べるのか」 ということです。 ff個体は親がいくら垂れ耳だったとしても、 いつまでも耳の垂れない、普通の猫です。 僕としてはスコティッシュ・フォールドというのは、品種ではなく、 「F遺伝子保有個体」のことを指す名称なのだと思っています。 F遺伝子さえ持っていれば、 アメショーだろうが、バーミーズだろうが、三毛猫だろうが(見たことありませんが)、 その子は耳が垂れている「スコティッシュ・フォールド」になるからです。 逆に、耳が垂れていなければ、その個体はただの猫(もしくはアメショー)です。 さて、ではどういうブリードが良い(問題のない)ブリードで、
悪い(問題のある)ブリードなのか、ということになってきますが、 それは次の記事で書いてみたいと思います。 |
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うちの病院では、外科手術のときは、 基本的に全頭気管チューブを入れて行っています。 気管チューブと言うのは、気管に細長い管を入れておいて、 気道を確保しておくものです(よくドラマでも出て来ているあれです)。 麻酔が覚めて来ると気管チューブを抜かないといけないのですが、 いつ気管チューブを抜くかと言うのは、 なかなかタイミングが難しいところです。 あまり早すぎるとまた呼吸が止まってしまった時にまた入れ直さなければいけませんし、 麻酔が覚めて来ると首を振り始めたりしてチューブを抜くのが大変になってしまうこともあります。 一般には、「けほっ」と言い始めたら抜くことが多いですが、 中には抜くタイミングを特別に気をつけなければいけないシチュエーションもあったりします。 その代表は短頭種の場合です。 短頭種と言うのは、パグやブルドッグなど、鼻の短い犬種のことですが、 短頭種は鼻が短くなった分、喉の奥の肉が垂れ下がって、 「軟口蓋過長症」と言う、気管の入り口のところを塞ぐ状態になりやすくなっています。 軟口蓋過長症のときは、普段の生活のときからやっとこさ呼吸をしているということがありますので、 麻酔をかけるときには、一番要注意の犬種です。 麻酔の導入のときと覚醒の時には、 呼吸停止やチアノーゼの状態にもなりやすいので、 他の犬種と比べて、特別に気をつけなければいけません。 中でも覚醒の時には、チューブを抜いたものの、 フガガガと音を立てていたと思ったら呼吸が止まり、 舌の色が悪くなって行って、慌ててチューブを再挿管、 ということもありえます。 したがって、短頭種の抜管は、極限まで遅らせる、 というのが鉄則です。 ちょっと首を振り始めたくらいでは、まだ抜くのは早いので、 いよいよ目もしっかりして来た、ということになってから、 最後の最後で抜く、ということに気をつけています。 今のところは、短頭種で事故が起こった、 ということはないのですが、 ひやりとしたことは獣医師となってから何度かありますので、 起こりえることを予想しながら、気をつけて麻酔に望みたいものです。 ※動物と飼い主さんの設定と描写には、修正を加えています。
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注射と一口に言っても、その方法にはいくつかあるのですが、 一番良く用いられるのは、皮下注射と筋肉注射、静脈注射などです。 このうち、皮下注射と言うのは、読んで字のごとくで、 皮膚の下の皮下織というところに注射液を入れる、 ワクチンや皮下輸液などでもおなじみの注射方法です。 うった後に痛がるのが嫌な筋肉注射や、 静脈を駆血する必要があり、漏らさないように注意が必要な静脈注射に比べると、 とても簡易な方法であり、もっとも多用される注射方法です。 ところで、簡単なはずの皮下注射ですが、 中にはなにげに難易度が高くなってしまうシチュエーションというのもあったりします。 そのひとつは、背中のところが毛がもこもこになっているプードルなどの場合です。 皮下注射の場合には、背中の皮膚を左手(右利きの場合)でつまみ、 皮膚を持ち上げて根元をさし、刺さった事を確認して注射する、 というのがセオリーです。 針を刺した時、通常であれば刺さった事は目で見て確認できるのですが、 もこもこトイプードルの場合は、背中がもこもこしていて、 皮膚がまったく見えませんので、針がはたしてどこまで進んでいるのかということが、 さっぱり分からないからです。 皮膚が分厚ければ、刺した瞬間に刺した感触が手に伝わるのですが、 皮膚が薄い小型犬で細い針を使った場合、 けっこうすっと皮膚に入りますので、感触も通常よりも分かりにくいです。 分からないからと言って、 皮下注射のために毛を刈るというわけにもいきませんので、 もこもこトイプードルのときは、 五感を研ぎ澄ませて注射を行うしかありません。 だいたいの子は背中の皮膚くらい見えるものですが、 もこもこのトイプードルの場合は、見事な毛並みです。 お尻が短くカットされていると、 ついお尻にうちたくなるくらいではありますけれども。 ※動物と飼い主さんの設定と描写には、修正を加えています。
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動物病院で初診の患者さんが来たときは、 まず最初の受付の時点でカルテを作らせていただきますので、 まずいくつか問診をして患者の情報をお聞きします。 名前と住所などの患者さんの情報以外に、 動物の種類と性別、過去の病気や手術、 ワクチンやフィラリア、ゴハンや飼育情報などを聞きます。 基本的には看護婦さんが聞いてくれますので、 僕は手が空いている時には、処置室の方から、 会話の内容を聞きながら、何で来ているのかなどということに耳を立てています。 ところで、時折は聞いていてつっこみたくなる会話もあったりするのが、 それはもう聞かなくても、聞く前から答えが分かっているだろ、 という質問だったりします。 例えば、品種が三毛猫ですと言われている状態で、 「性別はオスですか?メスですか?」 と尋ねたりするような質問です。 他にも、以前子宮蓄膿症だったとか、 前立腺肥大があったとか言われたら、それを言われた時点で、 聞く必要がない項目が出て来ますので、 そこらへんは臨機応変に質問をして行かなければいけません。 そう思いながら、この間も応対を聞いていると、 飼い主さんが三毛猫ですと言っているのに、 看護婦さんが「性別は?」と聞いていました。 あとでまた注意しておかなきゃなと思いながらカルテを受け取り、 診察室に入って猫を見てみると、なんと真っ黒な猫でした。 黒い猫にしか見えないので、 「この子は、三毛・・ですか・・?」 と、真っ黒な猫をぐるりぐるりと眺めながら尋ねてみると、 「以前別の獣医さんに、この子は三毛猫だと言われた」ということでした。 どう見ても黒い猫にしか見えないので、 「三毛猫というのは、白と黒と茶色が入っている猫なので、 あまり三毛猫っぽくはないんですけども・・。」 と、やんわり(?)言っておきました。 診察が終わってから、看護婦さんと話をしていたら、 「あの子って、三毛ではないですよね。」 ということで、三毛猫と性別の事を知らずに聞いていたわけではないようでした。 ちなみに、知っている人も多いとは思いますが、 三毛猫はほとんどメスです。 というのも、染色体がXのほうに乗っている劣性遺伝で、 劣勢のXが二つそろうXXでないと、三毛に発現しないからです。 まれにXXYという、珍しい染色体になるとオスの三毛猫になると言われていますが、 その確率は3万頭に1頭とも言われているくらい、珍しいものです。 したがって、「三毛です」と言われたら、 「ではメスですね」というのが、恥ずかしくない答えです。 もっとも、この間のように、 三毛ですと言われて、全然三毛ではなかったら、 それはオスかメスか分かりませんけれども。 ※動物と飼い主さんの設定と描写には、修正を加えています。
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