どうぶつ病院診療日記

動物病院の診察風景や、獣医師が日頃思っていることなど

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動物病院に初診でやって来た場合、
まずすることは、その患者用にカルテを作ることです。

住所や名前、電話番号などの連絡先を書いてもらうのはもちろんですが、
それと同時に、患者の情報として、動物の種類や誕生日、
これまでのヒストリーなどの動物の種類も一緒に聞いておきます。

通常、カルテ作成の業務はAHTさんにしてもらっています。
動物の情報については、飼い主さんに尋ねながら、
AHTさんに書いてもらっているのですが、
この時にひとつ言っているのは、
「聞くまでもない内容は、そのまま聞いたりせず、
 確認させてもらいますという感じで聞くように」
ということです。

要するに、ぱっと見ればわかる事を、
わざわざ聞くと、飼い主さんも
「見りゃわかるでしょ」
と思われてしまう可能性がありますよという事です。

マルチーズかウェスティかなどの見た目が微妙な場合ならともかく、
誰が見てもミニチュア・ダックスにしか見えないような犬を抱っこしている場合に、
「犬種は?」
と尋ねるのは野暮というものです。

まして、白・茶・黒色でどう見ても三毛猫の猫に、
「この子の種類は?」
なんてことを聞いたりするなという事です。

必要な次項を尋ねる事は大切ですが、
尋ねる際に一応頭を回しながら尋ねるようにしないといけません。

人間でも男性か女性か、ぱっと見わかりにくい人もいたりもしますが、
長い髪でスカートをはいた人に、
「性別は?」
と聞いたとしたら、聞かれた人は、
「はい?」
と思ってしまうと思います(というか怒るでしょうけれども)。

「この子は、、ダックスフンドですね」
と尋ねれば、"わかってるんだけど、一応確認させてもらいますので"、
という意味合いですので、
それほど失礼でもないし、「何言ってんの?」と思われる事もないかと思います。

言葉というものは、使い方ひとつで相手を怒らせたり、
不快にさせたりする事もありますので、
細かいところほど気をつけないといけないのだと思います。

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歯はどこへ行った

動物病院では、手術や処置をした後、
動物をお迎えにきた飼い主さんに処置の内容を説明するときに、
写真を見せて、手術の時にとれたものを見せながら、
行った処置の説明をします。

手術や処置の時にとれたものは、
飼い主さんへ説明するときに必要となりますので、
飼い主さんにお見せするまで大事にとっておかなければいけません。

大きな腫瘍などであれば明らかに目につきますし、
膿盆の中に取っておきますのでまず捨てられる事はないのですが、
小さな組織であったり、ゴミと間違えそうなものなどは、
間違えて捨てられてしまいそうになる事がたまにあります。

中でも捨てられそうになる事が多いのは、
歯石取りの時に、ぽろっと取れてしまった「歯」です。

歯石とまぎれていたりすると見分けが難しい事もあり、
大切な歯と分かりづらかったりする事もあるので、
間違えて捨てられてしまう可能性があります。

一応、膿盆にガーゼにくるんで隅っこにおいておくようにしているのですが、
掃除をきっちりしている間に、
間違って捨てられてしまう事がたまにあったりします。

さあ、飼い主さんにお迎えにきてもらってお迎えだ、
と思いながら歯を探してもないので、
「ここらへんに置いてあった歯、知らない?」
と尋ねると、
「あ、捨てました。」
なんて言われたりすると、
「なんちゅうことするの!」
と、大慌てでゴミ箱を探す事になってしまいます。

AHTも経験を積むと、大切なものと分かって来ますので、
まずそんな事もなくなって来るのですが、
働き始めたばかりでまだ勝手が分かっていないAHTさんだったりすると、
間違って捨ててしまって大慌て、ということもあったりします。

したがって、歯石取りをして歯が取れたりした場合は、
処置が終わった後に、捨てられたり、捨ててしまったりしないように、
しっかりと分かる場所に歯を隔離しておく事が大切です。

さあ見せよう、と思った時にどこにもなかったりしたら、
あせってしまいますので、
思わぬ事態が起こらぬように、終わった時こそ注意が必要ですね。

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診察番号のそら覚え

飼い主さんの中には、一年に一度しかやってこない人もいれば、
けっこうな頻度でやって来る人もいます。

よく病院に来る人というのは、
看護婦さんももう覚えてしまい、
診察券を出さなくても、顔パスに近い状態になっている人もいます。

僕の病院では、パソコンでカルテを管理していて、
カルテを出す時には、電話番号や飼い主さんの名前、動物の名前などで診察券の番号を出す事ができます。

診察券を持って来ていれば、そこにカルテの番号が書いてありますので、
それを見てカルテを出せば良いのですが、
診察券がない時には、電話番号を聞いて出す事が多いです。

ただ、飼い主さんの名前や動物の名前が分かる時には、
診察券がなくとも、そこから検索してカルテを出す事ができます。

そして、もっと印象深い人の場合は、
看護婦さんが診察券の番号をそら覚えしまっており、
飼い主さんが車から降りて来た時点で、
ぱっとカルテを出し、検索すらしない場合もあったりします。

僕は診察券の番号までは暗記していないのですが、
僕の嫁さんや看護婦さんは、けっこう覚えたりしているようで、
僕もしばしば驚かされたりします。

そら覚えでカルテ番号を覚えたりするというのは、
大したものですね。
僕はあまり覚えていないのですが。

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あの頃君は若かった

僕の嫁さんは、獣医師ではありません。
普通のいち飼い主だったのですが、何の縁か、
僕と結婚して一緒に動物病院をするようになってしまいました。

動物の事がとても好きな女性だったのですが、
動物医療に関しては特に詳しいと言うわけではありませんでした。
そのため、開業してしばらくは、僕と意識のずれがある事もしばしばでした。

忘れる事のできないのは、開業して間もなくの頃、
交通事故で横たわった状態になった動物が病院に緊急で連れてこられた時の事です。

急いでみせてもらったところ、
もう瞳孔は開いていて、心臓もほぼ心停止の状態でした。

急いで気管チューブを入れ、血管を確保しつつも、
「これはちょっと無理だな・・」
と感じていました。

そして心臓マッサージや人工呼吸などの処置をし、現在の状況を説明しつつ、
もう心臓もほとんど動いておらず、
見通しはちょっと無理そう・・、ということを伝えて行きました。

僕は代診先でも交通事故に会い、
もうなくなった状態で連れてこられたという動物を何度も目にしていましたので、
この状況は過去に経験済みで、かなり冷静だったのですが、
僕の横から嫁さんが声をかけて来て、その様子を見てぎょっとしました。

目を真っ赤に腫らし、犬をさすりながら、
僕に、
「ねぇ、何とかならないの・・。」
と訴えて来ます。

「何とか助けてあげてよ」
と言って来ても、もちろん助けられるものであれば僕も助けてあげたいのですが、
僕にも、もうどうしようもない範囲と言うのもあります。

「まだ心臓動いているじゃない・・」

「いや、あれはね、心臓自体は止まっているんだけど、
 心臓の筋肉が局所的にぴくぴく動いているから、
 それが出ているだけなんだよ」

「助けられないの?」

気がつくと、飼い主さんよりも嫁さんの方が
強く助けてくれと訴えていて、僕も嫁さんに向かって説明しています。

「もう、ちょっと難しいんだよ」

と言うと、嫁さんは、

「なんで助けてあげられないの・・」

などと言い始めました。
いや、思っていても、それは飼い主さんの前で言っちゃダメでしょう・・。

その後、緊急処置の甲斐もなく、
動物はなくなり、飼い主さんは病院から帰って行ったのですが、
嫁さんはしばらくシクシクと泣いていました。

飼い主さんの前で取るべき対応と態度について注意しようかと思ったのですが、
ちょっとそんな雰囲気でもなかったのでその日は止めておきました。

考えれば、病気の動物が運ばれて来て目の前でなくなるという経験なんて今まで無かったわけで、
本人にすれば、かなりの衝撃であったのだと思います。

次の日になり、少し様子が落ち着いていましたので、
助けられる命がある一方で、助けられない命もあると言う事、
動物病院というのは、動物の生と死に向き合わないといけない職場なんだと言う事を話しておきました。

最初は、患者さんと動物に感情移入する事が多く、
時に僕につっかかってくることもあったりして、
先行き大丈夫かなと心配になった事もあったのですが、
今ではもう動物病院という職場にもなれ、
僕の認識ともあまりずれがなくなったようで、
かなり阿吽の呼吸で手伝いをしてくれるようになりました
(今は病院にはいませんが)。

今でも何かあった時には涙ぐんだりしている事もあったりしますが、
その気持ちは嫁さんも僕も、お互いになくさないようにして行きたいと思っています。

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労働力か人材か

4月になり、病院に新しいスタッフがやって来ました。
3月末から来てもらっているので、
少しずつ慣れて来たかどうかというあたりですが、
しっかり勉強しながら成長して行ってもらって、
病院にとってかけがえのない人間となって行って欲しいと願う所です。

動物病院のみならず、すべての職場に共通する話として、
働いている人が、労働力で終わってしまうのか、
それとも人材にまでなってくれるのかということは、
職場にとっても、本人にとっても、とても大切な事だと思います。

僕が思うに、労働力と言うのは、誰でもできる事を、
誰でもできる通りにして終わっている段階の事だと思います。

誰でもできる事をできない、というのは、
労働力としても問題ではありますが、
働く以上、誰でもできる通りに働いて終わりとなっているのであれば、
突き詰めて言えば、
「その人でなくても良い」
ということになってしまいます。

そうではなく、誰でもできる事をする段階で終わらず、
”その人でなければできない”ことをしてくれるようになり、
かけがえのない存在になった状態が、
その人が「人材」となった状態です。

かけがえの無い存在になるには、何も、限られた学校に行ったり、
特殊な試験を受けていなければいけない、というわけではありません
(もちろん、獣医師のように、
 特殊な免許を持っていないとできない仕事もありますが)。

その人ができることを精一杯し、自分なりのサービス、
自分なりの仕事への信念を持ち、
その人でなくてはならない何かを積み上げて、
「あなたがいてくれて助かる」
「あなたがいなくなってしまうと困る」
という状態になれば、それはその人が、単なる労働力ではなく、
人材の状態まで昇華している、ということです。

人材とまでなっている人と言うのは、もはや、
「その人でなければならない」
と言っても良いと思います。

雇っている側のこちらの方が、
「ぜひ、あなたにずっといて欲しい」
と、お願いせざるを得ない様な、貴重な存在になって行ってくれるよう、
願いを込めて教育して行きたいと思っている所です。

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