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久しぶりの「源氏」記事更新。 以前、 林真理子が源氏を!http://blogs.yahoo.co.jp/ponpon9jo/60142625.html で、取り上げた「誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ」で、 林真理子の対談相手になっていた山本淳子さんの代表作。 病院近くの本屋で偶然見つけて、購入してきました。 以前の記事で紹介したように、山本さんは源氏成立の時代の資料をかなり 読み込んでいて、さらに自分の中でそれを消化・吸収して、彼女なりの 一条天皇時代(清少納言と紫式部が活躍した時代)の世界を作り上げていて、 それは、対談集である「誰も教えてくれなかった〜」で垣間見えていました。 本書は、清少納言と彼女の主だった皇后定子、その夫一条天皇、 そしてもう一人の后である中宮彰子と彼女に遣えた紫式部の間に起こった 事件と彼女たちの心情について、当時の貴族たちの日記や「栄花物語」、 「枕草子」などから推察し、そこから一つのドラマを生み出していきます。 これが非常に面白かった!!本書は「朝日選書」という、いわゆる新書類の 棚にあったのですが、お勉強の本というより、後宮を舞台にした人間ドラマ という色合いが強かったです。「ものがたり」とサブタイトルにあるように、 小説的な面白さに溢れた一冊です。 中級貴族を母にもち、気どりなく、かつ教養と美貌にあふれ、明るい空気で 一条天皇に熱愛された后、定子。 もちろん、彼女を語る上で、清少納言は欠かせないし、むしろ、清少納言の方が、 現代では一般によく知られていますが、どんなに素晴らしい女性だったか、 希代の才女、清少納言が心底熱愛するに値する女性像が、描かれます。 定子の素晴らしさ、二人のエピソード自体は、田辺聖子の「むかし・あけぼの」 (角川文庫)で知っていたのですが、本書は、各エピソードの出所を細かく表示 しているので、定子の言動が、田辺さんのフィクションではなく、かなり史料から 起して書かれてたんだというのが改めて確認できました。 また、エピソードの出所からそれを書いた人の心境や見方まで推測していたりして 一種の歴史ミステリーみたいな色合いもありました。 そして、定子を生前も、死後も一途に愛し続ける一条天皇を、 静かに、しかし強く、誠実に愛するもうひとりの后、彰子。 こちらについてが、むしろ、本書の「キモ」かもしれません。 幼くして父の言うなりに、定子という后が既にいる後宮に入り、父のごり押しで、 本来、一人であるべき后の地位に強引に押し込められた彰子。 定子と違い、母親も名家のお姫さまで、自分も周囲も、教養よりもむしろ 身分の高さがウリだった… そして、夫になった一条は、政治的な事情から自分の入内を拒むことはできなかった けれど、あくまで愛しているのは定子一人。 そして、定子は、死によって永遠に美しいまま、一条天皇の心をとらえて逝ってしまった… 栄花物語からは、幼い彰子に対し、やさしく接する一条天皇の姿が残されています。 一条天皇という人は、人柄的にはバランスがとれた方で、定子を愛しながらも、 他の妃たちへの言動も温かいものだったようです。 さらに、重大事には、天皇としての決断も私情を挟まずに行える、 情と知性とを備えた、器の大きい人柄の天皇だったようで、女性として理想的な定子 とは好一対の夫婦だったようです。 兄の失脚で後ろ盾をなくして、宮中から追い出されざるを得ない状態になった定子を、 周囲の反対を押し切って愛し続ける情熱を持ちながら、それでいて、押しつけられた 妻である彰子に対し、冷たくあたるというわけでもなかったようです。 10歳近い年齢差があったとはいえ、この一条天皇の彰子への優しさ、また、人間的な 温かさを彰子は自然に愛するようになっていったようです。 ただ、高貴な姫として育てられた彰子は、一条天皇が求める「定子」にはなりえなかった… それでも、一条天皇が政治の理想像として学ぶ漢文を紫式部に頼んで数年間をかけて こっそりコツコツ勉強したり、定子の遺した子供を育て、守ろうとする。 地味なんだけど、妻として最大限夫を支えようとする…そんな姿が、描かれています。 私は御承知のように、定子ほどの若さではないのですが、(そしてそこまで素晴らしい 女性では、全く無いのですが)、小さい子供を遺し、まだ若い夫を遺して逝かなくては ならないという身上から、定子に対しては、かなりの思い入れがあります。 彼女が死を覚悟し、寝台にのこしていった辞世の歌、 よもすがら契りしことをわすれずは 恋ひん涙の色ぞゆかしき (夜通し誓った愛をお忘れにならないのなら、私を恋しく思い流すだろう涙、その色をみたい) 知る人もなき別れ路に今はとて 心細くも急ぎたつかな (知る人もいない死出の路。今、その路へ心細いけれども急ぎゆかなくてはいけません) 煙とも雲ともならぬ身なりとも 草葉の露をそれとながめよ (火葬でなく土へ還るゆえ、煙にならない我が身ですが、草葉の露を私と思って眺めてください) などは胸にぐっと迫ります。 政略結婚として、一条天皇妃になった定子だけど、その結婚生活は、愛と栄光に満ちた 陰りがない幸福な時代と、また、悲惨な逆境の中に生きねばならない時代と波乱に 満ちていました。 しかし、そんな中で、最初から最後まで一条天皇への愛を貫きました。 政治的な立場を超えた愛情を、山本さんは数々の資料からあぶりだしていきます。 しかし、本書を読むと、その後、妻を亡くして、しかし、自分は天皇としての責務を 全うしようと懸命に生きた一条天皇を理解し、愛そうとしたもう一人の妻、彰子の 人生もまた、素晴らしい生き方だったのでは、と思わせられます。 アマゾンの書評を見ると、彰子に対して美化しすぎてる、栄花物語を高く評価しすぎてる、 との批判もあるみたいですが、ドラマとして、ここまで人間をハッキリ描き、さらに、この 二人の后の愛から、源氏物語が生まれるという流れは「みごと!」というしかありません。 ある意味で、歴史的な考察を述べた本ではなく、どちらかというと小説的な性格も強い 本書ではあると思いますが、資料の引用も読みやすく、現代語訳を丁寧に掲載しており、 さらに、文章がすっきりしていて、この手の本の中ではやはり出色の名作だと思います。 最後に、物語のキーマン、一条天皇が亡くなるときに遺した辞世の歌ー 「あなたを残して逝けない」という歌を、側近、藤原行成は、 産褥死ゆえ、極楽往生できずこの世をさまよっている亡き定子への歌ととらえ、 その死の床で一条天皇の側にいた彰子は生き残る自分への歌だと思ったのではないか? という推測には膝を打ちました。 一条天皇の死後も、一条天皇が理想とした政治を実現すべく、政治の表舞台に立つように なる彰子の心には、一条天皇もまた自分を愛してくれたはずだという信念があったのでは? と山本さんは推測します。 しかし、一条天皇は死に際して、やはり、最愛の妻、定子を思ったように、当時の 側近が推測しているようだ。 一条天皇の、真意はいったいどちらだったのか… …これは永遠に答えの出ないミステリーですが、この心のすれ違い、 やはり源氏を産むべき土壌にふさわしいドラマであるように私は思います。 本書を読んで、改めて、京都に行きたくなりました。
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