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手塚治虫の描いた「ブッダ」という漫画をご存じでしょうか?
仏教を広めた仏陀の生涯を描いた、手塚治虫の長編意欲作です。
この手塚の「ブッダ」は、単なるお釈迦様の説話を漫画化したものではなく、
手塚によるフィクションもふんだんに盛り込まれた、
一人の苦悩する青年が、人生と命の意味を死ぬまで追求する非常に劇的な
歴史大河ドラマに仕上がっています。
10代のころ、ちょうど高校を辞めた頃に全巻を読破したのですが、
このなかで今でも心に残っているエピソードがあります。
「ヤタラの物語」と呼ばれる章で、ブッダが悟りを開く重要なエピソードです。
ヤタラというのは、登場人物の名前です。
かいつまんで説明すると、このヤタラという男は
赤ん坊の頃に両親を戦争で殺された奴隷の大男です。
敵の国に兵隊として雇われていましたが、そこである女性に出会います。
女性はその国の王子の母親なのですが、身分が奴隷な為、実の子である王子によって
牢に入れられていたのです。
ヤタラはその女を不憫に思い、実の母親のように慕います。
しかしあるとき、牢に疫病がはやり、王子は牢を奴隷もろとも焼いてしまえと命令します。
ヤタラは命令に背き、その女を連れて逃げますが、
すでに疫病に冒された女はヤタラの手の中で死んでしまいます。
実の母親も、もうひとりの母親も失ったヤタラは、絶望にうちひしがれて森を彷徨います。
そのとき森の中で、修行僧シッダルタ(後のブッダ)と出会い、問いかけます。
以下はその問答です。
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(※樹の下で禅定をするシッダルタ)
シッダルタ
「おまえはだれだ?………」
「悪魔か神か?………神なら返事をしてほしい 悪魔ならいくがいい」
ヤタラ
「おれ 神でも悪魔でもない……人間だ!!」
「この世でいちばんふしあわせな人間だ!!」
「おまえ坊主だな!?」
「坊主 答えろ なぜ世の中ふしあわせな人間としあわせな人間いるのか
なぜそうなのか さあ答えろ!!」「答えろ!! 答えない 殺すぞ」
シッダルタ
「わけを話すがいい………」
ヤタラ
「おれ おっかさんふたりいた ひとり疫病で死んだ ひとりゾウにふみつぶされた!!」
シッダルタ
「おまえは自分がいちばん不幸な人間だといったが」
「そのふたりのおかあさんのほうがもっと不幸な人なのではないか?」
ヤタラ
「ウッ…」
「じゃ じゃあおっかさん こ 殺した王子だ!! それなのに王子罰うけない!!」「なぜだ!!」
シッダルタ
「おまえの話では、その王子はほんとうはじつの息子なのだな。その女奴隷の?」
「それが本当なら、その王子は奴隷の母親から生まれていままで育つ間にどんなに苦しんだろう」
「そして、奴隷として母親をわざと追放し焼き殺す命令を出したとき、
心の中はどんなに苦しかったろう」
「それを顔にも態度にも出さずに、王子としてがまんしなければならない立場だったのだろう」
「その母親を憎む気持ちと慕う心とがぶつかりあったとき、その王子はどんなにもだえ苦しんだろう」
「その王子こそ不幸な人間だ…そう思わないか?」
「そして苦しんでいる王子を見るにつけ、まちがって女奴隷と結婚して王子を生んだ父親の王は
もっと苦しんだろう。もっと不幸な人間ではないのか?」
「おまえに見守られて死んだおかあさんはまだしも、何も知らずに焼き殺された女奴隷たちは
もっと不幸ではないのか?」
「ずっとたどっていくがよい。だれもかれもひとり残らず、みんな不幸なのだ」
「この世に幸福な人間なぞ、ありはしない!」
(※ヤタラはしばし号泣した後、問いを発する。)
ヤタラ
「みんな不幸 そんならなんで人間はこの世にあるんだ………」
シッダルタ
「木や草や山や川がそこにあるように」
「人間もこの自然の中にあるからには、ちゃんと意味があって生きてるのだ」
「あらゆるものとつながりを持って……」
「そのつながりの中で、おまえは大事な役目をしているのだよ」
ヤタラ
「この お、おれがか………」「このオレに役目があるって? この役にも立たんオレが?」
シッダルタ
「そうだ。もしおまえがこの世にいないならば、何かが狂ってしまうだろう」
ヤタラ
「おまえ ふしぎなこという…」「おれ……そんなふうに思ってもみなかった……」
「じゃあ…おれ これからどうやって生きていけばいい?」
シッダルタ
「その川を見なさい」
「川は偉大だ。自然の流れのままにまかせて、何万年もずっと流れてる」
「流れを早めようという欲もなければ、流れを変える力も出さない。すべて自然のままなのだ!」
「しかも大きく美しい……よろこばれ、そしてめぐみをあたえている…」
「おまえも巨人だ。おまえの生きかたしだいで川のように偉大にもなれるだろうよ」
(※シッダルタの弟子になる決意をし、生きる望みを教えてくれた礼を述べて立ち去るヤタラ)
シッダルタ
「なんということだ…………」「私がひとにものを教えるなんて………」
「あの男は私をたたえてくれた」
「あの男は……」
「もしかしたら 私をためす神だったのかも…」
「そうかもしれない」
「なぜ なぜ私は……」
「なぜさっきあんなことをいったのだろう? 思わず口から出てしまった!
考えもしなかったことばが!」
「『木や草や山や川がそこにあるように、
人間もこの自然の中にあるからにはちゃんと意味があって生きている』」
「『あらゆるものと…」「つながりを持って!』」
「『もし、おまえがいないならば何かが狂うだろう。おまえは大事な役目をしているのだ』」
「私があの男にしゃべったことばは」「私が自分自身に教えたんだ!」
「おお………私の心のとびらが いま 開いたぞ!!」
「光よ」
「光よ」
「光よ!私の前を照らしてください」
「私は命のかぎり果たします この宇宙の中の私の役目を!」
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僕はこのブッダが悟りを開くエピソードを10代当時読んで、涙が止まらなかったのを今でも憶えている。
「なぜ世の中ふしあわせな人間としあわせな人間いるのか」という意味について、
これほど明解な答は一度も聞いた事はなかった。
「何の役にも立たない」と思っていた当時の僕に、
「おまえがこの世にいないならば、何かが狂ってしまうだろう」の台詞は、深く胸に突き刺さった。
今思うと、僕は、これを読んでいたから自殺しなかったのだと思う。
最後の所で、人生を投げようとしなかったのだと思う。
ここ何か月かテレビで報道されるニュースを見るにつけ、
「こういうものを読んでいたりすれば、
ナイフを向けたり、ホームから突き落としたりしなかったのではないか」と
僕はどうしても考えてしまう。
別に手塚の「ブッダ」が万人に同じように影響するものとは思わないが、
今の漫画・アニメ・ゲームといったものに
ここまで骨太なメッセージが込められたものが、どれだけあるだろう?
孤独な時に触れるコンテンツには、時に自殺を止める程の力を持っていることが確かにある。
それは文章でも漫画でも何でも構わない。
問題は、どんな真摯なメッセージが込められた作品かということだ。
コンテンツの作り手側は、事件のたびにやり玉に挙げられることに反発するよりも、
どれだけ人の心に訴えるものを作れるか、猛省するべきだと思う。
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そのつながりの中で、おまえは大事な役目をしているのだよ」
これと、同じようなことを、江原啓之氏も言っていた気がします
生まれたことに意味があると
いいお話しをありがとうございました
2008/4/21(月) 午前 5:15 [ サンリッチ ]
いいお話ですね。手塚治は東大医学部卒でドクタ-の免許を持っていたのにマンガ家になったんですね。東大に進学したのは徴兵を逃れる為だったらしいですが、反戦思想をつらぬき大事なメッセ-ジをマンガに綴って世に残したので、医者にならずマンガの世界で頑張って才能を発揮し、偉大な業績を残してくださって本当に良かったですね〜
2008/4/21(月) 午後 6:57 [ hiper45 ]
poriさん。こんばんは。ぜひこの「ブッダ」を購入して読ませることにします!ありがとう。こういう漫画は人生に何が必要か教えてくれると思うし、いいです。わたしも読んでみます。
2008/4/21(月) 午後 9:36
pori さん、いつも、訪問してくれて、
メッセージもきちんと残してくれて、
本当にありがとうございます。
どうなんだろう?
私も手塚さんの漫画は好きです。
考えさせられるところ満載です。
でも、こういうものを読んだ人すべての心に、
内容が届くとは限らない気もするのです。
ちょっと違う話になりますが。
ある人が、「私も、子どもの頃、ひどいいじめにあった。
でも、あのときの体験があるからこそ、
私は優しくなれたんだと思う」と言いました。
そういうふうに、何でも良いように前向きに解釈することは
とてもいいことだと思うし、だからこそ、
私も、いつもそういうふうに生きてきました。
でも、そのときは、思わず、言葉を返していました。
「それ、違うよ。○○さんは、その前から優しかったんだと思う。
優しかったから、いじめられたんだよ」
でも、もちろん、真摯なものに触れることによって、
人が変わる可能性は大いにあるのですから、
素適なものを生み出して発信することは大切ですよね。
2008/4/23(水) 午前 11:29 [ m5y** ]
PORIさん、本や人との出会いから、自分の命を失わずに救われたということ。。。私にもあります。私の人生の大きな転換期がある本をある人から勧められて読んで、それから私は 今までの人生にピリオドをつけ、新しい道を歩み始め。。。現在に至ってます。こうした本や人との出会いは出会うべくして出会ったんだと言えますね。必然的な出会いなんですよね、きっと。でもPORIさんがこの本と出会えて本当に良かった!だから、今こうして話せるんだもの。生きててくれてありがとうございます。尊いかけがえのない自分の命をこれからもお互い、大切にしていきましょうね!この記事を書いてくれて感謝です!
2008/4/24(木) 午前 0:24 [ 洋子ママ ]
poriさん、ブログ訪問ありがとうございます。
私は40代の時出会った病院の先生に10ヶ月間、話を聴いてもらって少しづつ自分のことを好きになって、友達もできました。
生きることに疲れてしまったあの時、あの先生に出会ってなかったら、2人の子どもを育てることも、フリースペースを続けることも出来なかったと思います。
私は人との出会いに恵まれてる、と、思います。
2008/4/25(金) 午後 11:00
感動しました。私も川のように生きてみたいものです。ありがとうございます。
2008/4/26(土) 午前 8:31
あたしも悩んだり迷ったりした時に、本に書いてある一言に助けられることがよくあります。
人と人との出会いも。。。
本との出会いも。。。
とっても大切なものですね。
2008/4/26(土) 午後 2:50
お久しぶりのコメです。
私は、仏教に興味があるので、この日記を読んで考えさせられました。私もあゆも生きている意味があるんです・・・それは私の両親のためです。両親は、一人っ子の私やその孫達しか今は生きがいを感じていないと思ってます。死にたいことは何度も考えたけど、親を看取るまでは、生きる意味があると思って焦らずに生きていきます。
ありがとう。いいお話でした。
2008/4/26(土) 午後 11:24
こんにちわ^^
私も子供の頃に読みました。もちろん「希望の友」ですよね!
でも・・私は恐さを感じたように思います。
リア王もその一つでした。
生きる事の難しさを実感します。
2008/4/30(水) 午後 3:55
早速息子に買ってこよう。
ブラックジャックが大好きなので。
まず母が読みたいです。
Apple社とPixar社のCEOであるスティーブ・ジョブスが行った伝説のスピーチを思い出しました。
http://jimaku.in/w/D1R-jKKp3NA/GIRCQmkIyXM
2008/5/1(木) 午後 10:35 [ u-たん ]
生きることの意味・・・深いですね。乗り越えて命で悟れれば・・。
深き縁で、めぐり合った家族・両親をを守って行きたいと思います。
訪問ありがとうございました。
2008/5/2(金) 午後 8:28 [ himawari ]
川の流れのように生きて
そして 一人がいなくなることでも 世界が狂う
深いけど わかりやすいですね。
子供たちに 道徳が無理なら こういうアニメとか 漫画でも 読ませてあげたいですね。
ポリさんも お忙しそうですね。
体に気をつけて頑張ってくださいね。
また 更新お待ちしてます。
2008/5/9(金) 午前 4:06
今日は。僕も何十年か前、読みました。自分を支えてくれた本、人、言葉、誰にもあるんでしょうね。僕の場合は、賢治です。そして、仏陀です。僕が勉強して調べた仏陀の実像(と思うもの)と、手塚治虫の仏陀は相当違います。しかし、あなたの言うとおり、子供に夢や生きる勇気を与えたいと願い、作品を子供達に送り続けた手塚治虫のメッセージが創造した仏陀も、子供達には仏陀の実像なんですね。大切にしたい。
2008/5/10(土) 午後 0:10 [ ABAPO-OTTANTUNO ]
みなさんへ:コメントお返事が一括ですみません(><)このお話は今思い出してもとても感慨深い物語です。読んで下さり大変ありがとうございました(^^)
2008/5/18(日) 午前 0:23 [ pori313 ]
私も悩んでいる時に、[ブッダ]に出会いました。 真理をついているもの、というものは、それが何であれ、人の気付きを促すのだ と思います。。
2008/5/21(水) 午前 7:49
私も読んだ事があります。
ジーザスのような生き方ではなかったにしろ
彼は子としては非道を行いながらも
天寿を全うします。
人は生きるために色々な手法を身に付けざるを得ません
時にはその事が生きている自分を責め苛む事があります。
王国を捨て、父を捨てた仏陀
かれこそ「苦悩の人」なのかもしれません。
それでも生きる事を肯定し続け
恥を晒しながら天寿を全うした仏陀に
人の生きる道はこうだよと体現していただいた気がします。
自らの死をもって人類を救済したいという
キリスト
自らの生をもって人類を救済したいとする
仏陀
わたしは仏陀の生き方こそが今の世の中を救えると思います。
2008/6/9(月) 午後 6:29
僕も10〜15歳のころに手塚先生の「ブラックジャック」「ブッダ」「アドルフに告ぐに」出会えたことは人生に影響を与えたと思っています。もともとは藤子不二雄A「まんが道」を読んで漫画の神様手塚治虫ってどういう人??ってなところから始まったのですが。この4作は図書館に置くべくと思います。
2014/8/10(日) 午後 5:09 [ - ]