20年前の思い出(再スタート)
友釣りをやりたかった。
友釣りの道具が高価なのを知っていた。
幼少の頃、父親に連れてってもらった記憶が離れなかった。
就職して給料を稼ぐようになったら鮎釣りをはじめようと思っていた。
4月に入社、3ヶ月の社員研修を終え7月に配属。思い立ったのが9月だった。
会社で誰かに教わろうと、友釣り名人について情報収集した。
師匠は、すぐ近くに居た。「えぇ〜?!あの方が友釣り名人ですかっ?!」
隣の職場「製造2課」の I 係長(課長に成られたが当時まだ技術係長)だった。
こんな事を書いたら叱られるかもしれないが、その人=Iさん(我が師匠)は、
「マンガ釣キチ三平」に出てくる「一平じいちゃん」のような人だ。
まだ50過ぎだったけど貫禄があった。今の50歳代の方よりずっと老けて見えた。
外見はキリッと厳しく、話してみると優しい人柄。
しかし現場の叩き上げで仕事は厳しく、現場では、かなり怖い存在だったらしい。
職場(課)が異なる新人、当時の私は[社会知らず]で[怖いもの知らず]だった。
全く面識が無い訳でもなかったので、早速、軽い気持ちでアプローチしてみた。
「 I さん、今度友釣りを教えてくれませんか?」
「ぅヘゎぇ〜っ!かっ!あんたぁ、もう少し早く言われまぁ〜!」
「もう友釣りシーズン終わりやっぜっ!」
「ぅん〜でも、今度で竿をしまおと思っとっから、都合よかったら来られっか?!」
うわぁ〜ヤッタァ〜!(心が弾んだ)
「いっいっ行きます。ハイっ!何処へ行けばいいですかっ?」
「高山線の鉄橋知っとるか?あそこの上流の中州よ!左岸に車とめて来られ!」
「左岸っちゃ判るか?海に向かって左手の岸よ!車何台か停まっとっちゃ」
「ゆっくり出てこられよ、囮あげっから!」
「よろしくお願いします!」
といった具合で会話のやり取りがあった...
今から20年以上前のことだが、あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
9月(秋分の日) 快晴
高山線の鉄橋の下の砂利道に車を止めて、川を見渡した。
上流の中洲に3人、その上流に2人の釣人がいた。
当時、この時期になれば釣人も殆ど居なかった。
I さんが竿を置き中州を渡って、車に近づいてきた。
「あんたぁタビもってないのか?道具は?」
やる気はあるが、何もかも素人だった。
友釣りを始めたいといいながら道具も何も判らなかった。
Tシャツにジーンズにスニーカーの井出達には呆れられたかもしれない。
そんな私を、笑みを浮かべながら何から何まで、提供してくれた。
「あんたぁサイズいくつよ!タビがなかったら絶対に川歩けんから、これ履かれ!」
自分の予備を貸してくれた。
恐らくその日は、私のために準備してくれていたのだと思う。
I さんの足サイズは、25cm。
私の足サイズは、27cmなので、ちと痛かったと思うが、
友釣りができるという思いが勝っていた。
タビを履いて川原に行くと、I さんの釣り仲間が出迎えてくれた。
話をすると会社の現場の人だった。
竿と仕掛けをセットすると囮をつけて放してくれた。今思うと大名釣りだ。
新入社員に、いや自分達の子供を可愛がるように、手取り足取り教えてくれた。
上流に2人、下流に I さんと釣り仲間の3人、トロ瀬のベタ竿で竿を引いた。
「少〜しづつ引き上げて、強いと鮎が浮くから、静かぁ〜に泳がせろ!」
と基本動作を教えてくれた。
友釣りの原理は判っていた。
釣りは心得ていた。釣りキチ三平がバイブルだった。
ヘラブナ、岩魚、にヤマメ、鯉にバス、ウグイにタナゴ、キスにカレイ、黒鯛からハゼまで一通りこなした。
友釣りだけが未経験だった。高価で複雑な釣り、今まで遠い存在で高嶺の花だった。
この日を待ち望んでいた!
釣キチ三平の「鮎編」を何度も読み返して川底のイメージだけは持っていた。
しかしイメージと現実はかなり異なる。
ゴツン、ゴツン、ブルブル...っと (アタリ??)
流れに押されて囮が動くと竿を持ち上げる。 (アレッ??)
釣れた??と勘違いするのだ。生きた囮がついているのだから反応してしまう。
それを見ていて、「そりゃ違う違う、囮が弱っぞぉっ!」 と I さんが笑う。
「じぃ〜っとしとったら、ガツンとくるから!直ぐにわかっちゃぁ!」
I さんは、その言葉を残して下流の自分の釣り場へ戻っていった。
忠告の通り、しばらく、じぃ〜っと、泳がせて見た。
ガッン、ゴン ゴン、ググッ〜! 急に目印が飛んだと思ったら、竿が手繰られた!
(間違いない!キタッ!掛かった!) ググッ〜!と竿が弓なりに絞られる!
「ウヒョ〜ッ!」 釣キチ三平の気分だった! (これかぁ〜!)
このときの光景は、今でもハッキリ覚えている!
すごい引きだった。幼いときに味わった引きを超えていた。
獲物はグングン下っていく!(これかぁ〜!これかぁ〜!)心が躍った。
夢中で引き寄せた、バシャバシャと水面を跳ねらせて、ヨタヨタになりながら。
タモに納まったときにはスイカの香りをプゥ〜ンと放った。
川の水音も、蝉の声も、その場の空気が、興奮で掻き消された。
心臓の鼓動だけがドキンッドキンッと鳴っっていた。
(これが鮎だ!あの時捕れなかった鮎だ!)...記憶が甦った
嬉しかった。 記念すべき第一号、生紀の一瞬である。
ジーンズを膝まで濡らしながら、タモを高々と持ち上げ、Iさんの方へ駆け出した。
大袈裟に見えたかもしれない。
硬いジーンズが歩きづらく脚を高く上げた。
川原を大声を上げて、「ヤッタァ〜!ヤッタァッ!」と恥じらいも無くはしゃいだ!
その場に釣り合わせた人、みんなで喜びを分かち合った!初1尾の喜びが伝わった。
I さんのそばへ寄り第一号を見せて感謝のお礼を言った。
「あそこは、まだだ釣れっから!囮を代えて、静かにそぉ〜と!」
「今度は一人でやってみられ!」
朝から、私のためにポイントを残してくれていたみたいだ。
生まれて初めて友釣りをした。釣果は5尾。
その日、その年のシーズンが終わったが、来シーズンに向け期待が膨らんだ。
この日、私にとって鮎釣りの人生(ドラマ)が再スタートした。
|