|
「大きくなったら何になりたい ? 」
彼女に聞かれ、少し戸惑ったことがあった。
「美奈子ね、ビアノを弾くお仕事がしたい」
「うんと・・・僕はね・・・」
今ならちゃんと言えるのに。
「僕はお医者さんになる。そんで美奈ちゃんを助けてあげる」って
写真屋の裏手には空き地があった。
何かの角材や、あき缶、パチンコ玉、いろんな物が落ちていた。
その空き地から白い煙が上がっている。
「おじさん、何してるの ?」
「いらない物を燃やしてるのさ。もうこの商売も終わりだ。
おじさんは店を畳んで田舎に帰ることにしたよ」
たき火の中で、くすんだ木の看板が燃えている。
僕はしゃがんで、ただその火を見ていた。
風が吹き、白い煙が顔にかかり、僕はかたく目を閉じた。
細く目を開けると、煙の切れ間から何かが見えた。
燃えている看板の下、折り重なった数枚の写真の中・・
「あっ !」 僕は叫ぶと同時に、火の中に飛び込んでいた。
「危ない !」おじさんが叫ぶ。
僕は看板を払いのけ、その下から一枚の写真を取り出した。
左端はすでに燃えてしまっている。
右腕が熱い・・
僕はその写真を抱えたまま倒れこむ。
いつもガラス越しに見ていた、あの彼女の写真がそこにあった。
彼女が入院してから二週間くらい経った、ある日の夕方。
彼女の家の前で、何人かの男の人が忙しそうに動いていた。
玄関の戸は広く開け放たれ、
家の前の道には、何台かの車が停まっている。
彼女の母親の姿が見える。
車からは、沢山の花篭が下ろされている。
僕は小走りに彼女の母親に駆け寄った。
白いハンカチで目頭を押さえていたその人の手には、
黒いリボンの掛けられた、美奈ちゃんの写真があった。
僕はそれから何も憶えていない・・・
|