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自作の小説とイラストで・・・

ハーケンクロイツ

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ハーケンクロイツ<15>

高杉と水地を乗せた車は大峯山の山道を登ってゆく。

「よし、ここからは歩きだ」
高杉は車を降りた。
「え〜、どこに行こうっていうの ?」
「墓参り」
「誰の ?」
「沢木の両親のさ」
「こんな山奥にあるの ?」
「ああ、この林の向こうのはずだよ。グーグルで調べておいた」

山道はかなり険しかった。
「高杉さん、まだぁ ? 私もうヘトヘトなんですけどぉ」
「もうすぐだよ。ふだん運動してないからだ」
「だってぇ〜 聞いてないしぃ」

林を抜けた丘の傾斜に、その墓地は広がっていた。
百ばかりの墓石が並ぶ、それほど大きくもない墓地であった。

「まったく、こんな辺ぴなところのお墓、お参りに来るだけでも大変じゃない」
水地は額の汗を拭った。

「赤城という名の墓を捜すんだ」
「赤城ね。沢木さんの生まれた時の名前ね」

朝の天気とは裏腹に、暗い雲が陽を遮る。
あたりは薄暗く、竹林が怪しく揺れていた。

「あったわ、赤城家の墓。お花が添えてあるわ。
つい2、3日前に誰かが来た様子ね」
黒い御影石のその墓には、まだ枯れていない菊の花があった。

昭和五十一年建立、赤城豊、幸恵
墓石にはそう記されていた。

「間違いない、これだ。
おそらく、あの坊さんが建てたものだろう」
「ということは、このお花も、あのお坊さんが ?」
「たぶんな。子供を引き取るぐらいだ、
生前はかなり親しかったにちがいない」

「高杉さん、見て、これ」
水地はその横にある、小さな石碑を指差した。
「何か書いてあるわ」

そこには、こう記されてあった。

  魂よ、やすらかに眠れ
 
  我々はここに誓う
  死の光を下しき者に
  その報いを与えんことを

  シュミットの翼が
  モハーベの砂漠を越える
  その時に        

      卍

ハーケンクロイツ<14>

「ハーケンクロイツ ?」
水地は高杉の顔を見た。

「ああ、俺も詳しくは知らんが、ナチスは生きている」
「そんなバカな」
水地は呆れたように笑った。
「高杉さん、今、西暦何年か知ってる ?
戦争が終わって60年以上経ってるのよ。
一体、彼らがこの世界の何処にいるっていうのよ」

「ロシアだ。彼らは敗戦後、ユダヤに追われる身となった。
しかし、彼らの中にはヒトラーの見た夢を捨てきれずいる者が沢山いた。
彼らは敗戦後、友好国である南米に一時逃れた。
ドイツ人の頭脳は元々優秀だ。当然、その自意識も持ち合わせている。
彼らは地下組織となり、世界情勢の変化を待った。
そして世界は米ソの冷戦時代へと入ってゆく。
中南米の広大な土地には限りない資源が眠っている。
政情は常に不安定だ。
しかもアメリカの喉仏を狙える位置にある。
そんな未成熟な地に"戦争"という科学的にも、政治的にも切磋琢磨される状況を味わった優秀な頭脳たちが、おとなしくコーヒー豆を摘んでるとでも思うかい ?」

「それにしても、ちょっと信じられないわ」
「資源、位置環境、そして優秀なる頭脳と野望。
これだけの物が揃えば、必ず触手を伸ばす奴が現れる。
誰だと思う ?」

「ソ連 ?」
「当然だ。ソ連は南米にその社会主義思想を持ち込もうとした。
が、成功したのはキューバだけ。
やがては本国自体も、その思想ゆえ渇望を呈す」

ふいに冷たい風が吹く。
広島の夏空が急に暗転した。

水地の顔色が変わる。
「じゃあ何 ? ソ連の崩壊は仕組まれた物だというの ?
地下組織として成長を続けたその"ハーケンクロイツ"という組織が、
それを利用しようとしたソ連を逆に呑みこんでしまった。
まさかぁ・・・」

「南米もロシアも、欧米に比べ、決して豊かだとは言えない。
でも、それって本当だろうか。
日本はなぜアメリカに負けた ?資源力だ。
南米とロシアの広大な土地の富を、
彼らが既に手中に収めているとしたら・・」

「でも資源ばかりあったって、それを開発しマーケットにしなければ意味はないわ」
「その準備はすでにできているだろう。それにマーケットが全てではない。
経済というものは平和な状態が前提としてある。いざ戦争となれば、資源力がものをいう。食料供給力も含めてな。
しかし、やはり今はマネーの時代だ。
マーケットを支配した者が強い。
だからこそ、その前に現存するマーケットを荒らす必要がある」

「じゃあ、今の世界的な経済の混乱は彼らの仕業とでも言いたいの ?」

高杉はタバコに火を点けた。
「そこまでは判らん。
ただ、沢木が"ハーケンクロイツ"となんらかの繋がりがあったとしたら、
奴らは極東、いやアジアのマーケットの支配を視野に入れていることになる」

「愛と自由の名のもとに・・?」

「そう、"ラブ アンド フリー"だ」

ハーケンクロイツ<13>

東京に秋の気配が漂う頃、
世界経済は、大きな揺れを見せた。
"世界同時株安"が起きたのだ。
アメリカの大手証券会社の破綻をきっかけに、
雪崩のように株価が崩れていく。
ドルは売られ、アメリカの弱体化が露呈した。

**********

軽井沢の秋は早い。
浅間山が夕闇に染まる頃、
沢木は側近である赤城昇とその麓の山荘にいた。

テラスの外は、ひんやりとした風が吹く。
沢木はそこで赤々と燃えている薪をじっと見ていた。

「赤城、さっき"孔雀"から資金の調達を取り付けた。
余りのんびりもしてられない。仕掛けるぞ」
「予定より大分早いですね」
「ああ、5年は早い」
「"クロイツ"は何を急いでるですかね ?」
「急いでるのは"クロイツ"じゃない。"孔雀"だ」
「"孔雀"が・・なぜ ?」
「奴も歳だ。生きてる内に結果を見たいってとこだろ。
俺ものんびりやるのは性に合わない。
中国の土地を買い漁れ。一気に市場を拡げるんだ。
プラントの建設を急がせろ。
2年以内に稼動生産させろ。
その前に中国内のアメリカ資本を買い叩く。
設備投資なしで人材ごと戴けば、少なくとも流通市場はもっと早く動かせる筈だ」

焚き火はさらに燃え上がっていた。

「あの国の赤い旗に、緑の三つ葉を付ける。
そして次は"日の丸"の国をこの手に収める。
遠い昔、灼熱の中で死んでいった者たちの為にも」

真っ赤に焼けた薪が、激しい音と共に裂けた。

ハーケンクロイツ<12>

大した情報を得られず、
二人は寺を後にした。

近所への聞き込みも行ったが、
高校卒業後は、とんと姿を見かけなくなったという事で一致していた。

丘の上に広がる夏空に
白い雲が立ち上がっていく。

水地は車にもたれ、ふぅっとため息をついた。
「あーあ、結局何も分からずじまいか・・」

「いや、そうでもないよ」

「え・・?」

「俺の直感もまんざらでもなかったかもしれない」
「何か分かったの ?」

「仏像の横に鷲の絵のかけ軸があったろう。
その下に、随分と場違いな物が飾ってあった」
「何 ?」

「黒い皮表紙の本。"Das neues vertrag"
あれはドイツ語だ」

「あのお坊さん、ドイツ語が読めるのかしら」

「"Das neues vertras" 新しき契約。

沢木はやはり海外にいた可能性が高い。
LFの資金を、もしあの組織が調達したとすると、恐ろしい事になる。
ひょっとすると奴等は、とうの昔に事を起こし始めていたのかもしれない」

「あの組織って何 ?」

高杉はボンネットに鍵十字のマークを書いた。


「ハーケンクロイツ」

ハーケンクロイツ<11>

寺は山の裾野にあった。
蝉の声以外には何も聞こえてこない静かな場所であった。

"龍宝寺"と書かれた門をくぐると、
広い境内がそこにひろがっていた。
孔雀が二羽、なにやら地面を突ついている。
近くで道を尋ねた時、ここを"孔雀寺"と云っていたのは、これ由のことだろうか。
飛び石を渡っていくと、左が御堂、右が母屋のようだ。
母屋の方には"沢木"という表札が掛けられている。

呼び鈴を押すと、夫人とおぼしき老女が出迎えに現れた。
「住職がお待ちです。どうぞ奥の方へ」
居間では七十を超えたであろう主人が、笑顔で待っていた。

「遠路はるばる、よう来んしゃった。
さ、さ、どうぞお入り下さい」
「ありがとうございます。せっかくですから、まず本堂の仏様にご挨拶をさせて頂きたいのですが」
「おお、これはこれはご丁寧に。どうぞその奥におりますきに」

人の背丈の倍はあろうかと思われる仏神に二人は手を合わせた。

「お疲れになったじゃろう。ま、楽にしんしゃい」
二人はさし出された座布団に腰を下した。

高杉が切り出した。
「早速ですが、ご住職。息子さんについてお尋ねしたく参りました」
「おお、そうじゃったの」
主人は作衣の前を正した。

「奴は元々わしの実の子ではのうて。
幼い時に両親を亡くしての。不憫な子じゃて、
わしが引き取ったっちゅうわけじゃ」

「ご両親を病気で失くされたと伺っておりますが」
「それも、同じ年に相次いでなあ。
いきなり孤児になってもうた。
うちに来てからも、しばらくは気の抜けたようになって、よく寺の境内でひとりぽつんとしとったもんじゃ」

境内では、先ほどの孔雀が見事な羽を広げていた。

「まあ、次第に慣れてきおったが、素直でおとなしい子じゃったよ」

時折、庭を眺めては、当時を懐かしそうに回想している風であった。
年のわりには、記憶もしっかりしており、
当時のことを、つい最近のことのように話す。

やがて話は高校卒業後のことに及んだ。

「勉学のできる子じゃったので、
わしとしては大学にと思うとったんじゃが、
どうも本人はその気がのう様子で、しばらくぶらぶらしとったが、
ふいに"旅に出たい"と言い出しおってのお」

「旅に ? それはまたどちらに ?」
「それがよう分からん。ふいに出て行ったきり帰りゃあせん」

「連絡はなかったのですか ?」

「手紙ひとつ寄こさずに十年じゃ。ははは」
「十年もの間、どこで何を ?」
「さあなぁ。わしゃあ今でも知らん。それが十年経ったある日、
突然帰ってきよって、東京で会社を始めたという。
できれば寺の後次ぎにとも考えた時期もあったさい、ちと残念じゃった」

「そうですか・・」

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