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自作の小説とイラストで・・・

月の姫

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月の姫 <3>

"月の姫"を歌い終えたあや子は、
衣装を着替える間も惜しんで、ホールを飛び出した。

「中央病院へ、急いで !」

タクシーに乗り込むと、
両手を硬く抱き合わせ、富田の無事を神に祈った。

病院に駆け込むと、
あや子は両目いっぱいの涙を浮かべ、
富田の手を握りしめた。

「・・あや子か・・綺麗だったよ・・
これでおまえも一流のスターだ。

・・・すまない・・・
俺に腕があれば、もっと早くおまえをスターにできたのに、

・・長いこと、苦労させてしまったなあ・・
でも、よかった・・うん、これでいい・・
俺が死んでもしっかりやるんだぞ・・」

「だめ ! 生きて ! 私にはあなたが必要なの、
あなたがいたから今日まで頑張ってこれた、
お願い、私を置いていかないで !」

あや子は顔中の涙を拭うことなく叫んだ。

「・・あや子・・そんな顔するな・・
おまえには笑顔が似合う・・

俺はおまえの笑顔にどれだけ救われてきたか・・
おまえの一番の美しさは、その目じりの刻みだ・・

本当の美しさとは、そういうものだ。
だから、笑ってくれ・・その笑顔を抱いて、俺は死にたい・・」

あや子は激しく首を振る。

「いや、私、笑わない、
あなたが生きると言ってくれるまで、
私と生きるって言ってくれるまで・・

・・絶対、笑わない・・・」


・・・・・・





ところが・・・

富田はそれから奇跡的に回復した。
彼は死の淵から見事に生還した。

一年後、
彼女は二曲目も順調にヒットを飛ばし、
富田は現場へと復帰した。

彼は今日も叫んでいる。





「メイクは厚く、カメラは遠く !」





・・・・・おわり・・・・

月の姫 <2>

「えっ・・癌 ?」
あや子の顔が曇る。

「ああ・・大丈夫だ、心配するな」
富田の言葉に力はない。
おそらく、かなり以前から自覚症状があったのだろう。
しかし、彼にとってはこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。

「大丈夫なわけないじゃない、お願い、少し仕事を休んで」

「今、休むわけにはいかない。
いいか、おまえは仕事のことだけ考えろ、
俺の体は俺が一番分かってる」

富田はその体で西へ東へと飛び回った。
彼女のため、いや、ふたりのため・・・

秋が深まる頃、
あや子はついに紅白出場の切符を手にした。

「やったぞ、あや子 ! ついにやった !
これでおまえも押しも押されぬ大スターの仲間入りだ」
富田は有頂天だった。
自分の体を省みることなく、
相変わらずのセリフを叫ぶ。

「メイクは厚く、カメラは遠く !」

富田が倒れたのは、年の瀬もせまった頃だった。
移動中の車の中、意識を失い、救急病院へと担ぎ込まれたのだった。

「俺は大丈夫だ。それより紅白の時の衣装を、もう一度確認しろ。
それから、メイクとカメラへの指示を忘れるな」

・・・12月31日、NHK紅白歌合戦・・・

富田は病院のベッドで彼女の姿を追っていた。

・・もう俺の命も長くはないだろう、
でも、こうしてあいつの晴れ姿を見れる、
俺は幸せ者じゃないか・・・

少しづつ遠のく意識の中で、
富田は静かに笑った。


・・つづく・・

月の姫 <1>

イメージ 1

鏡に映るあや子の横顔に夕闇がそっと舞い降りる。

16年・・・
そんな月日の影が、彼女の目じりにも浮かんでいた。

「あや子、新曲だ。いい曲だぞ」

マネージャーの富田が作り笑顔で彼女に告げた。
曲のタイトルは"月の姫"
"姫"というには、かなり遅すぎた感もあるのだが・・・

・・これでだめなら、俺も荷物をまとめて田舎に帰るか・・
富田はひとり暮れゆく空につぶやいていた。

演歌歌手になって16年、
ヒット曲に恵まれず、細々とやってきた。
地方巡業でなんとか食いつないできたが、
彼女の歳を考えれば、
たしかにそろそろ見切りをつけてもいい頃なのかもしれない。

・・おそらく今回もだめだろう・・

デビュー当時、"かぐや姫"の異名を取ったその美貌、
まだまだ美しいのだが、やはり、もはや"姫"ではなかった。

「月の姫」
"かぐや姫"の最後には、ふさわしいタイトルなのかもしれない。

ところが、
発売当初は毎度の低迷を続けていたこの曲が、
案に反し、有線放送から火がつき、
序々にヒットチャートを昇りはじめた。
業界が少しずつ彼女に注目するようになり、
ラジオからも、この曲が流れるようになった。

「すごいぞ、あや子」
富田は意気込んだ。
彼女と歩んだ長く辛い年月が、今、花開こうとしている。
いつか、こんな日を夢見ていた。

「テレビだ、地方じゃないぞ、民放だ、
しかもゴールデンタイムだ !」
二人は東京のスタジオへと向かった。

富田はスタジオのスタッフに指示を出す。

「メイクさん、目じりのしわをうまく隠してくれ !
カメラさん、アップはなるべく避けて、遠めのアングルで !」

"月の姫"の勢いは止まらない。

とうとうベスト10に食い込んだ。
演歌としては久々の大ヒットだ。
彼女は引っ張りダコになり、テレビをにぎわした。

富田は叫ぶ。
「メイクは厚く、カメラは遠く !」

そんな富田の体に、
静かに病魔が近づいていたのを、
二人はこの時、知る由もなかった。


・・・・つづく・・・

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