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約束の森

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約束の森 <6>

やがて汽車は終着駅へとたどり着いた。
人気のないホームに降りるふたつの影。

「自分はここから歩きです」政志が言う。
「そうですか、ではお元気で」飛鳥は深く一礼をした。

あの森へ
伍郎と式を挙げると約束したあの森へ
飛鳥は歩きだす。

政志はしばらくそこに佇んでいたが、
小走りに飛鳥に駆け寄り、その肩に触れた。

「あなた、まさか・・」
「え ?」
「まさか、死ぬつもりではないでしょうね」

飛鳥は答えない。
ただうつむき、伍郎の遺骨をじっと見つめている。

「自分は戦場にいた人間です。
いつ死んでもおかしくない所にいた人間です。
だから分かるんです。死を決意した人の顔が」

飛鳥の着物が風に揺れる。
伍郎が命がけで守ってくれたその着物が。

「だめです、死んではいけない。
何があったかは分かりませんが、生きてください。
それに・・」

「それに ?」

「あなたは身篭っている」

飛鳥は強く目を見開いた。

・・やっぱり・・
ひょっとしたらと思ってた・・

・・私の中に命がある・・伍郎の命が・・
私の中に生きている・・

伍郎は死んでなんていない・・
私の中に生きている・・・

風が飛鳥の体を包みこむように吹いた。

約束の森 <5>

汽車は林を抜けていく。
政志はその景色を眺めている。

「この辺は昔のままだなあ」

変わらない景色というものは嬉しいものだ。
悲しみも苦しみも、その景色が癒してくれる。

「政さんはどちらまで」飛鳥が訪ねる。

「自分は故郷に帰るところです」

「それは嬉しいでしょう。あなたのことを首を長くしてお待ちになってらしゃるご家族にお会いできるのですから」

政志は小さく笑った。
「いや、自分はひとりです。家族はもうおらんです。
親父もおふくろも子供の頃、他界しました。
兄貴がおったのですが、それも先日、戦死の知らせが届きました」

飛鳥は申し訳なさそうに目を伏せた。
「すみません、辛いことを言わせてしまって」

「いや、気にせんで下さい。人はいつか死ぬものです、
戦争で死のうと、病気で死のうと、それが運命です」

飛鳥がじっと政志の顔を見据えた。

「運命 ? 戦争で死ぬことがですか ?」

「そうです、運命ですよ。誰のせいでもない」

「そんな・・・」

飛鳥の脳裏にあの空襲の日が蘇る。
伍郎を失った、あの忌まわしい夜が・・・

飛鳥の目からとめどなく涙があふれだした。
硬く握り締めたその手の上に涙がこぼれ落ちる。

「そ、そんな言葉、わたくしは受け入れることはできません。
私たちが何をしたというのですか、
国が勝手に始めた戦争が、愛する人や家族を引き裂いて、
それを、それを、運命の一言で片付けてしまうなんて、
私は、私は、納得できません」

汽車は昔と変わらぬ景色の中を進んでいく。

約束の森 <4>

その言葉に答えず、飛鳥はじっと目を伏せていた。

男は年の頃は二十歳ぐらい、
左手を包帯で吊っている。
軍服を着ているところをみると、戦地帰りのようだ。

男はしばらく目を細めるように、
窓の外の景色を眺めていたが、
やがて膝の上に風呂敷包みを置いた。
右手でその包みを開こうとするが、うまくほどけない。

飛鳥は静かに手をのばし、その包みを開いてあげた。
中は白いにぎりめしが三つならんでいた。

「いやあ・・申し訳ない」
男はにっこりと笑い、礼を言った。
その愛くるしい笑顔につられ、飛鳥もそっと微笑んだ。

「兵隊さんでいらしゃいますのね、お勤めご苦労さまでした」
飛鳥が一礼する。

「いえ、面目ございません。お国のためになれず、
こんな姿で帰ってまいりました」

男は深く頭を下げた。

「そんな、生きて帰れたことがなによりですわ」

男は包みからにぎりめしを口に入れると、
「おひとついかがですか ? こんなものでよろしければ」

飛鳥は小さく手を横に振り断ると、
「たとえ敗戦であろうと、命をかけて戦ってくださったのですから・・」

男はふいに包みを膝から下し、
飛鳥の方に向き直った。

「申し遅れました。わたくし政志と申します。
マサとでも呼んでください」

約束の森 <3>

夜が明けていく。
焼けただれたその街にも
何もなかったかのように、夜が明けていく。

一夜にして街は廃墟となった。
その愛も絆も無残に引き裂き
それでも朝は音もなくやってくる
素知らぬ顔で

私がどれだけのことを望んだというの・・・
愛する人と結ばれる
それが、そんなに罪なことなの・・
私にはそれさえも許されないの・・

冷たくなった伍郎の体を抱いたまま
飛鳥はただじっと朝の光を待った
その陽の光が、もう一度伍郎の体に温もりをもどしてくれることを願い


銃弾に打ち抜かれた彼の手は、
しっかりと飛鳥の着物を掴んだままだった。
彼はいまでも自分の死を知らずにいるのかもしれない
その晴れ着を抱いたまま、あの森へと向かっているのかもしれない

・・伍郎・・行こう、あの森へ・・
私が連れてってあげる・・
そこで、私、あなたと約束する・・
私たち、もう一度生まれかわる、
戦争のない世界で・・

私はあなたと一緒になる・・

だから、約束して、
たとえ生まれかわっても、私を忘れないって

そして私を迎えにくるって


夜が明けていく
そこにどんな悲しみがあろうと
戦争が絆を引き裂こうとも
朝は必ずやってくるように
願いはいつの日にか叶う

時を越えて、
二人はまた巡り合う

そこに約束があるかぎり


・・・・・・・・


戦争は終わった
飛鳥は伍郎の遺骨を抱いて
汽車に乗っていた。

照りつける八月の日射しが
彼女の肩に降り注ぐ
終点まではまだありそうだ
時折、海岸線が見える

「暑いですねえ」
一人の男性が飛鳥の向かいの席に座った。

約束の森 <2>

<火の海>

「だめよ、もう間に合わない !」 飛鳥が叫ぶ。
伍郎はその手を振り切って駆け出す。
飛鳥は必死にその後を追う。

火はもう奥の間へと燃え移っていた。
B-29の爆撃は容赦なく辺りを火の海へと変えていく。
いたるところで閃光が光り、爆音が耳をつらぬく。

真っ赤な火柱が伍郎の頭をかすめる。
その火が肩に飛び、一瞬にして彼の右腕は火に包まれた。
ころげるように倒れこむ。
飛鳥は自分の体を彼の上に投げ出し、激しくその火を振り払う。

「バカ ! 死んだらなんにもなんないでしょ !」

「大丈夫さ、まだタンスは無事だ」

「着物なんてどうでもいいよ、ふたり生きて初めて一緒になれるんだから !」

焼夷弾の炸裂する音が彼女の言葉をかき消す。

伍郎は立ち上がると彼女の手を握った。

「もうすぐ戦争は終わる、そしたらあの森で式を挙げるんだ。
その時はせめて君に晴れ姿でいて欲しい」

そう言うと、伍郎は燃えあがる家の中へと飛び込んでいった。

飛鳥は跪き、硬く両手を合わせた。

天井が激しい音と共に伍郎の上に落ちてくる。
もう辺りは灰色の煙に包まれ何も見えない。
空には無数の米軍機が悪魔の翼を広げる。

飛鳥はただ彼の無事を神に祈った。


「ほら、着物は無事だったよ」
伍郎は真っ黒にすすけた顔で飛鳥に微笑んだ。
飛鳥は彼の胸に飛び込み、彼の体をしっかりと抱いた。

「さあ、早く防空壕へ」
彼女が彼の手を引いたその一瞬、


機銃器の銃弾が伍郎の体を貫いた。

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