紫星かんさつ日記

創作とイラストをまったりマイペースにup しています(o・ω・o)

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9章【黒風の前触れ】

9章【黒風の前触れ】

 
 
 
夜も更けた頃に出発した偵察部隊とプリエールは森林地帯を隠れ潜むようにして進み、ミローネ村から北東に位置する工芸の街メーネシティへと到着した。5時間ほどかかった道程は決して楽なものではなかったが、密偵として放たれた彼らに休んでいる暇はない。
 
豊かな土地と広大な森林に隣接したこの街は木製の工芸品の製造が盛んで、完成度の高いそれはアルムバントを代表する立派な名産品の一つとなっている。そのため首都からやや離れているにも関わらず街の規模はそれなりのもので、少し全体を眺めた程度では王国軍の拠点が何処に置かれているのか分からない。
 
そのため8名からなる分隊が2人ずつの4班に分かれて拠点の場所を探ることとなり、プリエールは単独での偵察を志願した。
 
「……アーベント様、待っていてくださいね」
 
他の兵士達がそれぞれ別の方向に散っていくのを見届けて、プリエールも息を深く吐いて数瞬、音も無く駆け出した。
 
 
 
 
 
 
************
 
 
 
 
 
 
山の向こうに隠れていた太陽が昇り、辺りに少しばかりの肌寒さが残る頃。ルークスは王国軍をメーネシティの四方と中心街に分散させてそれぞれに拠点を置き、怪我人の治療と部隊の補給を行いながら待機していた。
 
ダクテュリオス帝国が国境砦を陥落せしめた、あの衝撃の開戦から今日でひと月が経過しようとしている。帝国軍は今頃グランツ大橋を渡ってミローネ村を占拠し、そこで奪った物資で補給を済ませているのだろう。そしてこのメーネシティを落とされてしまえば、アルムバント王国の首都は目と鼻の先だ。
 
だというのに王国の上層部はルークスたち防衛部隊に対して待機を命じたまま、なんの続報も寄越さなかった。代わりに送られてきたのは小隊一つ分の援軍だけである。攻め込まれた当初こそ混乱で初動の対応が遅れていたとはいえ、ここまで対応らしい対応が見られない上層部に対して、ルークスの不信感は募る一方だった。
 
 
「長いことこの国に仕えておりますが、上層部の考えることは私にも分かりませぬ。王子が前線に立っている以上、無茶な企てはしないと思いたいのですがな…」
 
中心街の大きな教会に設けられた拠点の中、ルークスの自室で椅子に座りながらそう苦笑したのは、援軍として寄越された小隊を率いている老兵ドライエック・フォルンだった。ルークスが幼い頃から世話になっている兵士で、開戦直後に思い悩むルークスに対して「まずは戦争を終わらせるしかない」と言ったのも彼である。
 
「ドライエックにも、上の奴らの考えなんて分かんねえか…そりゃそうだよなあ。やたらと秘密主義だもんな、うちの国」
 
ベッドに腰掛けたルークスは乾いた苦笑を漏らすと、ため息を吐いて窓の外に目をやる。
教会の二階にあるこの部屋には朝の陽ざしが燦々と降り注いでくるが、穏やかなそれはルークスの心を上向かせるには至らなかった。
 
「王子…私は開戦直後の折に、大切な人との和解の為には、まずは戦争を終わらせることだと申し上げました。今でもその考えは変わっておりませんが…終戦後の和解の為に、今からでもこちらの誠意を示しておく、という手段もございます」
「ドライエック、それって……」
「戦争をするつもりで進軍して来ている相手に対して誠意を示すというのは、場合によっては無防備のまま打ち負かされてしまう危険もございます。ですから私はあの時、口を噤みました。しかし…」
 
老兵の優しい目は、ルークスを“王子”ではなく一人の少年として寄り添うようにして言葉を投げかけている。彼の言わんとするところを察したルークスは、小さく頷いた。
 
「上層部の動きが見えない以上、この先何があるか分からない。もしかすると、上層部は何か良くないことを企んでるかもしれない。最悪の事態が起きて戦後の和解が不可能になる前に…少しずつでも、手を打っておいた方がいい…そういうことだな?」
「申し訳ございません、王子…私はこのような粗末な助言しかできませぬ…」
「いや、いいんだ…ドライエック。敵に大切な人が居るからすぐに和解したいだなんて、プライドの高い上層部が聞くはずないんだ。気にしないでくれ」
 
重く頷くドライエックの表情は、優しいながらもどこか険しい。ルークスに勧めたそれが無謀とも言える行動だと分かっているのだろう。けれどドライエックにも、そしてルークスにさえも、国の実権はありはしない。
アルムバントの全てを動かし、決定付けられるのは、今まさに企みを巡らせているであろう上層部だけなのだった。
 
 
 
 
北部の拠点に居たクーゲル・ユーリアンは負傷兵の中でも傷がほぼ回復しきっていたこともあり、街北部の出入り口にて見張りにあたっていた。そのためいち早く伝令に会い、上層部からの新たな命令が記された文書を受け取った彼は、その足で中心街の拠点に居るルークスの元へと駆け付けたのだった。
情報漏洩を防ぐため厳重に封が施された文書はやたらと重く感じ、ルークスに手渡す瞬間はらしくもなく緊張したものだったが、なんとか役目を果たすことができた。偶然にも負わされた責任から解放され、ようやっと汗がクーゲルの額から流れ落ちる。
 
「…けどあの命令、いくらなんでも…」
 
命令が書かれた文書はルークスとドライエック、その他の関係者以外には勝手な閲覧が許されていない為、伝令を務めたクーゲル以外の大多数の兵士達は命令の内容を知らない。ただ“ついに新たな命令が下された”という事実を知るのみだ。

文書に書かれた命令は、それはそれはとんでもないものだった。

既に帝国軍がミローネ村まで迫っていることは明白であり、ここまでの侵攻を許した王国軍が強硬策に出るかもしれないとは思っていた。けれどここまでとは予想していなかった。
しかしどれだけ気を揉んだところで、一兵士に過ぎないクーゲルには何も出来ることなど無い。
 
「ま、考えてもしゃーねえか。クライスにコーヒーでも淹れてもらうかね…」
 
兵を率いるにはいささか優しすぎるあの王子様にあの重大な命令を背負わせるのは心配だったが、経験豊富なドライエックが一緒なら大丈夫だろうと気を持ち直すしかない。なんとか切り替えたクーゲルが妹が待つ北部の拠点へ帰ろうと出入り口に足を向けた、その瞬間――
 
「ぅわ…ッ!」
 
背後から素早く伸びた細い腕が回され、鎖骨の辺りを強く押されると同時に足払いをかけられて訳も分からぬままに体勢を崩された。咄嗟にメイスを掴もうとするが、それより早く背後から首元にナイフが突きつけられる。やられたと思った頃には利き腕は後ろ手に拘束されていた。
 
「っくそ…!」
「声を出すな」
 
短く告げられた声は魔術によって意図的に声質を変えているらしく、性別はおろか年齢すらも分からない。クーゲルの視界には自分よりもか細い相手の腕が映るのみである。しかし女のようにも見える細い腕でありながら、その腕は恐ろしいほど強くクーゲルを押さえつけていた。
 
抑え込まれたまま死角へと引きずり込まれる。依然として態勢はそのまま、ナイフは少しも震えることのない腕によって首筋に突き付けられている。
 
「先程の命令の内容を言え」
「っ誰が…!」
 
正体の分からない声の主はやはりというべきか、帝国軍の密偵であるらしい。もしや伝令から文書を預かった時点で後をつけられていたのだろうか。
しかしこの細い腕の人物が帝国軍の密偵ならば、尚更口を割る訳にはいかなかった。
 
「言えって言われて素直に喋る馬鹿が、どこに居るってんだ…!」
 
突き付けられたナイフは、一歩間違えればそのまま喉に突き刺さってしまうほどに肉薄している。
それでもあの優しい王子様のことを思うと、素直に喋ってやる気にはならなかった。
 
(同じだけの責任を背負ってやれないなら、せめて――
 
けれどそれは、相手にとっても想定済みだったらしい。
 
「…クライス・ユーリアン衛生兵」
「な…っ」
「北部拠点の医療班に所属。宛がわれた自室は北部拠点1階の北西にある角部屋。現在は医務室にて負傷兵の治療中」
 
淀みなく告げられた情報は、その全てが事実であった。産まれてからずっと苦楽を共にしてきた、かけがえのない家族である妹についての事実を、敵が握っている。
クーゲルは悔しさのあまり歯噛みした。口の中で噛み締められた奥歯が、ぎりりと鈍い音を立てる。
この密偵は、言外に告げてきているのだ。“お前の妹はいつでも殺せる。喋らないのなら妹を殺す”と、言葉少なに宣告している。
 
「ちくしょう…!」
 
心優しいけれどたまにドジで、けれどどこか憎めない王子様と、産まれてからずっと一緒だった、唯一の肉親である大切な妹。その両者を天秤にかけることなどできない。
けれど即決しなければ、この密偵は自分を殺した後に妹を殺しに行くかもしれない。情報を得る為に、ルークスを殺そうとするかもしれない。
 
そこまで考えてしまっては、もう選択肢などありはしなかった。
悔しさに拳を握りしめながら、自分の無力さを嘆きながら、それでも大切な人のことを思うと自然と口は開いてしまう。気が付けば命令の全てを白状してしまっていた。
 
「これでいいだろ、早く解放してくれ…。それと、妹と王子には、手を――」
 
手を出さないでくれ、と無様を承知で懇願しようとした瞬間、クーゲルの意識は強烈な眠気によって攫われてしまった。よほど強い睡眠薬でも使われたらしく、一秒と経たないうちに何も分からなくなる。
 
 
「…帝国のメイドは、一味違うんですよ」
 
 
 
 
 
 
************
 
 
 
 
 
 
「そんなにプリエールのことが心配なの?」
 
元村長宅の裏庭で鍛錬中に日の出を眺めていたアーベントは、不意に背後からかけられた声に反射的に身構える。が、声の主は友のリムネだったらしい。冗談めかした笑みで両手を上げて見せる彼に小さく謝罪して構えを解く。
 
「なんかいつも以上に張り詰めてるじゃないか。気持ちはわかるけど、休める時に休んでおかないと身が持たないよ?」
「…分かっている」
「分かってても休めない、ってとこ?…まあ、今度ばかりは無理もないかな」
 
ゆっくりと歩み寄ってきたリムネは、アーベントのすぐ近くに腰を下ろす。小さく笑んだ彼に手招きされて、アーベントも彼の隣に座りこんだ。青々とした芝生が心地良い。
 
「にしたってこんな分かりにくい所で鍛錬しなくたって良くない?そのうえライルの奴は「殿下の邪魔をしないで頂きたい」とかなんとか言って、ボクがきみに会うのを邪魔するし。ほんとあいつ性悪だよねー」
「鍛錬を見世物にする趣味はないからな。僕が目立つ場所で鍛錬すると、兵達が委縮するだろう」
 
アーベントは自分と違ってお喋りな友人の言葉に気が向いたタイミングで相槌を打ちライルへの愚痴は敢えてスルーして答える。どうもリムネはライルと反りが合わないのか、昔から腹の探り合いと嫌味の応酬を続けているようだった。
力のある者同士、何かアーベントの預かり知らぬ所で確執を抱えているのかもしれない。ダクテュリオス帝国にはよくあることだ。
 
「…でもさ、アーベント。本当に辛い時は、1人で抱えちゃいけないよ。誰かに頼ることだって必要なんだ。完全に潰れちゃう前に、ね。
…ま、きみは人を頼るのがヘタクソだから、もし何かあったらボクがなんとかしたげるよ」
「人を心配しているのか馬鹿にしているのか、どっちなんだお前は」
「あはは、ゴメンゴメン」
 
からからと軽快に笑う友人に、アーベントは小さく苦笑した。本当に馬鹿にしている訳ではないということくらいは長年の付き合いで熟知している。
 
「だけどね、これだけは忘れないでよアーベント。ボクは絶対、きみを裏切ったりはしない。何かあったら、ボクを信じて。いいね?」
 
先程までの笑いから一転して真剣な表情をたたえたリムネの言葉に、その真摯な響きに、アーベントは数瞬戸惑った。“裏切らない”“信じてくれ”という言葉は、彼にとってはひたすらに重いものだった。
けれど自分を見つめるリムネの瞳がどこか必死なものに見えてしまって、気が付けば小さな言葉が口の端から漏れていた。
 
「……ああ、そうだな」
 
その言葉に、リムネの口角がすっと上向いた。上機嫌そうに笑って頷いた友人は、周りをキョロキョロと見まわしてから素早く立ち上がる。
 
「…じゃ、そろそろライルの奴が来そうだから、ボクは行くね。またねアーベント!」
「ああ…」
 
言うが早いが小走りに立ち去って行ったリムネを軽く手を上げて見送る。本当に反りが合わない2人なのだなと苦笑しつつも、あれで仕事や戦闘での連携はばっちりとるのだから恐ろしい。
 
やがて昇りゆく朝日を見つめながら、アーベントは今此処には居ないプリエールの無事を願っていた。
 
 
 
 
友人が去って行った先の自分から死角になっている物陰で、リムネとライルが殺意を向け合っている事など、彼は知る由も無い。
 
 
 

そんなこんなで9話です。この時点で数人ほど猫被ってる奴いるから騙されちゃいけないぞ☆
ダクテュリオス帝国におけるメイドはいざという時は王族の護衛も務めるため、潜入や隠密、諜報活動が得意です。襲撃の際、主人を安全に逃がすためですね。

そろそろ中盤の山場です。描きたい場面まであとちょっと!がんばるます!ヽ( ^ω^)ノ

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プリエールさん(もはやちゃん付けできない)マジ有能っすね。クーゲル、どうなるんだろう。やっぱり尋問とかされちゃうんでしょうか。リムネもひと癖ありそうで素直に味方と信じられないような。アーベント殿下の明日はどっちだ!

2019/5/19(日) 午後 11:32 [ 大和 ]


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