紫星かんさつ日記

創作とイラストをまったりマイペースにup しています(o・ω・o)

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10章【詰寄る焼亡】

10章【詰寄る焼亡】

 
 
 
意図の読めない待機命令の末にもたらされた新しい命令は、決意と不安の間を綱渡りしているルークスの心を揺さぶるには十分過ぎるものだった。伝令から直接命令を預かったクーゲルと防衛部隊を率いるルークス、援軍の小隊長であるドライエック以外には知らせてはならないという義務まで付加されており、責任感と緊張に拍車がかかる。
 
「焦土作戦って……!」
 
ルークスは何度も読み間違いであってほしいと願ったが、いくら読み返そうが命令が記された文書は淡々と事実を告げるのみだった。
 
着々と侵攻しつつある帝国軍に対し、アルムバント王国上層部は焦土作戦を敢行すると言ってきた。森林を焼き、道を掘り起こし、メーネシティの家屋全てに火を放ち、井戸に毒を流し、更にその周辺の草原を焼き払った上で撤退せよ、と告げているのだ。
 
メーネシティの北西には帝国軍との激しい戦いが繰り広げられた“古戦場跡地”が存在し、戦争の影響で草の一本も生えなくなってしまった死の大地は砂漠と化してメーネシティ付近まで広がっている。その中でもようやく自然が再生しつつあるメーネシティ周辺の森林と草原を焼き尽くすことで帝国軍は過酷な大地での侵攻を強いられ、更に補給源を絶つことでその戦力を大きく削ぐ、というのが作戦の狙いであるらしい。ルークス達防衛部隊は焦土作戦を実行したのち、ただちに首都付近の最終防衛拠点まで撤退せよとある。
 
文書を読み上げてからずっと、ルークスは自室のベッドに腰掛けたままで頭を抱えていた。ドライエックが傍らで何度も文書を読み直し、深くため息を吐く。
 
「防衛側としてはリスクが大きい戦術ですが、同時に大きな成果を発揮するものでもあります。しかし、ここまでのことをするとは…」
「何をしてでも負けたくないってことなのか…!?だからって、こんな…」
 
長らくダクテュリオス帝国との戦争と冷戦を経験してきたドライエックも焦土作戦には気が向かないようだった。それが森林、街、水道などの資産を犠牲にしてしまう戦術であることを身に染みて知っているのだ。
文書には、さらにもう一つの命令が記されていた。
 
 
帝国軍は補給の為にメーネシティを目指して進軍する可能性が高い。焦土作戦によって補給源を絶やされた街で補給が出来ず疲弊している帝国軍を狙って、ドライエック率いる高位魔術師小隊が地属性魔術を使用して地面を抉り、疑似的な蟻地獄を作り出す。内部の土を水属性魔術でぬかるませて復帰までの時間を稼ぎ、火属性魔術で上から全てを焼き尽くす――帝国軍を一網打尽にしてしまおうというその策はあまりにも粗雑で、けれどもし寸分の狂いも無く実現してしまえば確実に地獄絵図が広がるだろう事は明白だった。
 
「こんな…こんなの、作戦なんて呼べるか!」
 
帝国の侵攻部隊が一つとは限らない。魔術の準備をしている間に背後から奇襲を受ける可能性がある。追い詰められた帝国軍に決死の反撃を仕掛けられてこちらが蟻地獄に落ちる危険だってある。言いたいことは山ほどあった。けれどルークスが何よりも腹に据えかねたのは、相手の命どころか自国の資源すら潰してしまうような残酷さだった。
 
けれども文書は無情にも、そんな粗雑で残酷な策とも言えないような策を実行せよと命じている。
いくらプライドの高い上層部が敗戦するのを許せないからといって、ここまで性急で粗末な策に打って出るとは思わなかった。そんなにも彼らを焦らせるものが、帝国側にあるとでもいうのだろうか。
 
「……まさか、」
 
そこでルークスははたと思い至る。苦悩のあまり髪を掻き毟っていた手を止めて黙り込むのを見てドライエックが心配そうに覗き込んで来るが、答えている余裕はない。
 
「アーベントを…?」
 
脳裏に浮かぶのは、冷たい目をした同じ顔――自分の“弟”だった。
 
上層部が、アーベントが帝国軍の侵攻部隊に加わっていることを独自に嗅ぎつけていたとしたらどうだろう。双子として生まれた王子のうち一人を排斥し“予備”として扱っていた事が知れれば、お世辞にも人道的とは言えないその行為は国民から非難を浴びるだろう。そして排斥された“弟”が帝国軍を率いて侵攻していることが国民に知られれば、彼らは帝国側に寝返ってしまうかもしれない。
 
情報統制をしたところで、アーベント率いる侵攻部隊が首都まで辿り着いてしまえば言い逃れはできない。彼の顔は国民が良く知る王子ルークスに瓜二つなのだから、何を言い訳したところで焼け石に水だろう。
 
アーベントの存在は、上層部にとって様々な脅威をもたらす可能性が非常に高い。だからこそ彼が首都に辿り着く前に一刻も早い排除を望んでいて、このような強硬策に踏み切ったのだとしたら――
 
(あいつが一番に狙われる…!!)
 
最早自国のことさえ信じられなくなりそうだったが、それでもアーベントに及ぶ危険は振り払いたかった。幼い頃に守ってやれず、約束を破ってしまったからこそ、今度こそちゃんと守ってやりたかった。
どれだけあの冷たい瞳に蔑まれようとも、弟が生きていてくれるのならばそれで良いと、強く思った。
 
「…ドライエック」
「ルークス様?どうなされました?」
 
ルークスは拳を強く握りしめたまま、腰掛けていたベッドから立ち上がる。文書を手にして立っているドライエックの老成した瞳を見つめて一言、静かに告げた。
 
「俺は隊を抜けて単独で動く」
「ルークス様、それは…」
「すごく勝手なことを言ってるってことは分かってるんだ。けど俺は、和解も出来ないまま、ただ黙って大切な人が地獄に落とされるのを見ているだけなんて我慢ならない!
きっと命令違反になるだろうから、付いて来てくれなんて言えないけど…どうか黙っててほしい」
 
幼いあの日、誰も居なくなったがらんどうの牢屋を前に呆然と立ち尽くしていた自分の姿が瞼の裏を掠めていく。アーベントとの約束も、彼自身のことも守れず、ただ離別という結果だけをもたらしたあの頃と同じ過ちだけは犯したくなかった。
今度こそアーベントの命を救いたい。そのうえで弟に恨まれてしまっても構わない。
 
ドライエックは暫し驚いたように目を見開いていたが、やがてため息交じりに小さく笑った。苦笑とも嘲笑とも違う温かな笑みのまま、そっと握りしめられたルークスの拳に手を重ねてくる。
 
「…ルークス様。このドライエック、仕えるべき主を間違えるほど老いてはおりません」
「ドライエック…それって」
「国の決定事項には逆らえずとも、せめて救える命を救い、貴方の大切な人と貴方の心を守れるよう、この爺も尽力致しましょう」
 
彼の穏やかな色を湛えた瞳が優しげに細められているのを見て、ルークスはいっそうの心強さと安堵が胸の内に広がっていくのを感じた。上層部から直々に受けた命令に背くかもしれないという危険を、ドライエックは共に背負うと言ってくれているのだ。不意に目頭が熱くなるのを、ルークスは必死に頭を振ってこらえた。
 
「……ありがとう」
 
なんとか絞り出したその声に、ドライエックが苦笑する気配がした。ぽんぽんと優しい手つきで頭を撫でられる。
 
「その言葉は、無事に戻ってからお聞かせください」
 
孫を労わる祖父のような、それでいて主を激励する騎士のようなその手の温かさに、本当にこの老兵には敵わないなと身に染みた。
 
 
「さて…。そろそろ出てきてはどうだ、2人とも」
「え?」
 
やがてルークスの頭からそっと手を離したドライエックが、部屋の扉に向かって声を張った。その意図が分からないルークスが彼の隣からそちらを覗き込むと、ゆっくりと扉が開かれる。
 
「あ、えっと…すみません!立ち聞きするつもりはなかったんです!」
「クライスは悪くねえんだ、俺が部屋に行こうって言ったから…!」
「クーゲル…クライス…?」
 
現れたのは、クーゲルとクライスの2人だった。どちらもばつが悪そうに謝罪を繰り返しているその様子から、どうやらルークス達の会話はすっかり聞かれてしまっていたらしい。
そんな2人の様子を見て、ドライエックがやれやれといった具合でため息を吐いている。
 
「あ、あの…兄さんが、いつのまにかこの拠点の部屋で寝ていて…でも寝る前の記憶がないって言うので、何かの症状かもしれないし、一応報告しておこうと思いまして…それで…」
「部屋の前まで来たところで、2人が話してるのが聞こえちまってさ…」
「記憶がない?強烈な睡眠薬でも使われたのか!?」
「ルークス様、そのあたりの話は私が聞いておきましょう。今はこの2人の処遇を決めるのが先です」
 
混乱しそうになる場を執り成すと、ドライエックはすっかり委縮しているクーゲルとクライスに向き直る。
 
「クーゲル・ユーリアンとクライス・ユーリアン。聞いていたと思うが、私とルークス様はこれから命令違反にも成り得る単独行動に移る。今までの立場を失いたくなければ、今さっき聞いたことは全て忘れて軍務に従事するのだ。良いな?」
「ドライエック…」
 
ルークスがまだ何をしたいかについて話していないにも関わらず、ドライエックはそれが命に関わる危険を及ぼすものだと悟っているのだろう。ルークスの決意を尊重しつつも、未来あるクーゲルとクライスのことは危険から逃がそうとしている。
けれどその言葉に首を振ったのは、当のクライスだった。
 
「…いえ。フォルン小隊長、ルークス様。私もどうか、ご一緒させて下さい!」
「クライス!?」
「危険だということは承知しています。お2人に下された命令の責任も重大さも、一衛生兵に過ぎない私には分かりません。けれど、力になりたいのです。出来る限りでも、誰かの命を救いたいんです!」
 
必至に訴えかけるクライスの瞳は、それでも緊張からか揺らいでいる。か弱い衛生兵であるクライスは、殺し合いが好きではない。けれどそんな性質だからこそ、多くの命が失われようとしているこの局面で黙ってはいられないのだろう。
そんなクライスを守るようにして、クーゲルが一歩前に出る。
 
「…俺も。聞いちまったからには、責任を取りたい。なによりルークス様をほっとけねえ。……どうか、俺とクライスも連れて行って欲しい」
「兄さん…」
 
ドライエックはそんな2人をじっと見つめ、やがて渋面を作りながらも頷いた。責任感が強く多くの命を救いたいと願っているクライスと、クライスをこれ以上ないほど大切に想い、ルークスに対して優しく、失われようとする命を放っておけないクーゲル。そんな彼らが折れるとも、まして素直に言う事を聞くとも思えなかったらしい。
 
「……分かった。ただし私の指揮下に入り、私の命令に従ってもらうぞ。…良いですな、ルークス様」
「ああ。こうなったら2人とも、聞きそうにないしな」
 
苦笑しながら答えたルークスの言葉に、ぱっと2人が破顔して頭を下げる。ほぼ同時に礼をする彼らに再び苦笑しながらも、ルークスは心の片隅でそっと、此処には居ない弟のことを想った。
 
 
文書の通りに行けば、焦土作戦の開始まであと2日。蟻地獄の作戦はその後、日没と共に実行される。それまでの限られた時間の中で何ができるか、どのようにして弟の命を救うか、今はそのことだけ考えていたかった。
 
そうしていなければ、悪い想像が脳裏に浮かんでしまいそうだった。
 
 
太陽が天高く昇った正午の空が、ひどく眩しく感じた。
 
 
 
 
焦土作戦、最初に字面だけ見た時は敵をめちゃくちゃに焼き尽くす作戦なのかなーと思ってました。ある種の兵糧攻めでしたね(o・ω・o)軍略関連ガバっててももういいやと開き直って書いてる←

もう少しで山場です(o・ω・o)がんばるぞ!!

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焦土作戦!ヤベー手段に出ましたね王国上層部。
クーゲルは泳がされたんですね。ということは作戦が筒抜けってことを王国は知らないわけで・・・。地獄を見るのは王国軍になるのか!?

2019/5/20(月) 午後 8:44 [ 大和 ]


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