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かなしい月

お散歩は楽しい。
いろんなものが見れる。
 
ケンさんは、「聖なる書斎」からのそのそ這い出し、近くの緑道を散歩した。
もう紫陽花が咲いている。
 
梅雨はまだなのに、だ。
ケンさんは、色とりどりの紫陽花を愛でながら寺山と岸上の歌を思い出した。
 
森駆けてきてほてりたるわが頬をうずめんとするに紫陽花くらし 寺山修司
色変えてゆく紫陽花の開花期に触れながら触れがたきもの確かめる 岸上大作
 
寺山の青春、岸上の60年安保。
6月は、もの思う時でもある。
 
イメージ 1
もの思うといえば、
美しき球の透視をゆめむべくあぢさゐの花あまた咲きたり 葛原妙子
も忘れがたい一首だ。
 
紫陽花の「球体」は、独特の美に満ちている。
ひそやかで華やいでいる。
 
でも、ケンさんの好きな歌は、やはり、
紫陽花のその水いろのかなしみの滴るゆふべ蜩(かなかな)のなく 若山牧水
だ。
 
と、ここまで書いたところで文学座の演出家・高瀬久男の訃報に接した。
享年57。
 
劇場で会うたびに「元気か」と互いに確かめ合っていた。
不調を耳にし、24日にメールを送ったばかりだった。
 
返事はなかった。
「明治の柩」の演出中だったこともあり、忙しいのだろうと思っていた。
 
そこに突然の訃報だ。
ケンさんは、しばし呆然とした。
 
6月はかなしい月である。
 
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