こんなの堂

糖質制限、MEC食で息子を育ててます。

雑感小説

[ リスト | 詳細 ]

思うまま書き綴ったメモだらけのお部屋。
好き嫌いははっきりわかれるでしょうけど・・・(w
記事検索
検索

全2ページ

[1] [2]

[ 次のページ ]

妄想シンドローム

携帯は恋愛の担保になるかしら。

小さな画面の向こうにみえる
目を閉じても目の前に輝くもの。

優しければ、愛される?
美しければ、手に入る?
思いは右手の親指に委ねられる。

目覚めた瞬間から、もっと
あなたを知ることに不足する。

あなたが通り雨でないように。
じっと、それをにぎりしめる。

妄想とは、人々の理想の境地で、 美しさや価値をうみだす芸術行為。

たりているのに不幸だとおもうなら、
たりないことで幸せの予見をしていたほうがましだ。

雨にうたれた自分をみつめれば、
きっと目的地まで笑顔でいられる。

小さくてもとても強い、焦らずたゆまず進もうとする光に
導き導かれながら、夢をみよう。

人生はラブストーリーに満ちている。

奈緒子−(5

11月の祭日、コートを着るまでもないが肌寒い朝だった。
天気予報を伝える女性は、前髪の無いロングヘアに、
ショッキングピンクのニットのワンピースを着ていた。
金色の輪っかがたくさんついてる女性のベルトが揺れて目がチカチカした。
首を傾けながら、木枯らしが吹くかもしれないといっていた。

奈緒子は、春乃と10時に大学の校門前で待ち合わせた。
少し遅れそうになったため、自転車に乗って急ぐ。
待ち合わせの2分前の時刻に着いた奈緒子は、
先日訪れたときと全く違う大学の異様な雰囲気に圧倒された。

テレビではアマチュアからプロへの登竜門となるオーディション番組がちょっとした話題を呼び、
どこの大学も連日、文化祭にどれだけ有名なアーティストを呼べるかに話題が集中していた。
レベッカはそんなバンドブームに火をつけたアーティストのディーバ的存在で、
コンサートのチケットも入手が難しかった。

少し経つと春乃がやってきたが、春乃の格好をみて奈緒子は驚いた。
朝見た天気予報の女性に似ていたからだ。
いつも後ろできゅっと縛り上げてる髪をおろすと、薄化粧も手伝って
どうみても大学生だった。
ぴったりした服装に負けないラインがひそかに服の下から主張していて
奈緒子は自分のことが恥ずかしくなった。
先週、原宿で買った赤いキュロットスカートに、チェックのハイソックスと黒いタートルネックと
古着屋で買った赤いウェスタンブーツを合わせて
何度も鏡の前に立って確認してきたはずが、
春乃が自分のことを嫌うのではないかと思うほどの劣等感に苛まれた。

春乃はまるで、そんな奈緒子の心を見透かしたように、
「奈緒子は、制服より私服のが似合うね。色が白いから赤がすごく良く似合う。」
優しさを通り越した賢さに、奈緒子は春乃を尊敬せずにはいられなかった。


桐山は文化祭当日はとても忙しく、会う時間はとれないだろうと言っていた。
それでも奈緒子はどこかで偶然会えるかもしれないと期待していた。
会えなければ、それだけの縁であり、しかたがない。


「仕方が無い」

そっと奈緒子はつぶやくが、その言葉は雑踏に吸い込まれる。

いつだったか、桐山が、奈緒子が口にした「しかたがない」という言葉を叱ったことがある。

「僕は「しかたがない」という言葉が一番嫌いだ。放棄するのは愚かなことだ。」
「だれにだって、可能性という権利がある。」

急に強い口調になった桐山に、奈緒子は少し驚きながらも、静かな声で
「そうね。」と同調した。



春乃と奈緒子は、たくさんある小さな出店をひやかしては、
「1年生?ねぇ、アンケートだけでも答えてよ」
「かわいいからおまけするし寄っていって」
「2時から寄席があるから見にきてよ」
と、めまぐるしく声をかけられた。

着ぐるみをまとった人が階段から落ちて、ちょっとした騒ぎをおこしていた。
落語の研究会や、中島みゆき研究会、とにかく様々な集まりと活動があるものだと、
奈緒子は、何を見ても驚きの連続で、どれも興味深く感じた。

「奈緒子だいじょぶ?」
「自分の世界はどれだけ狭いものなのか、世界がどれだけ広いのかって・・・。」
「やっぱ広いよね、なんか表の顔とは違って、入ってみると宗教だったり、変な集団だったり、
いろいろあるみたいよ。怖いよね。」
春乃は大学の中のことにも詳しそうだった。

バンドブームから構内のあちこちで、小さなフォークソングを歌ってる人たちがいた。
ブルースなのか、とても物悲しいメロディーが、ホットドッグとポテトの匂いの充満する廊下に響きわたる。

やがて二人はレベッカのコンサートがあるメインの広場に向って移動した。
人ごみをかきわけながら牛歩で進む。
ところがその人ごみは会場に近づくに連れて、激しくうねりを増し、
酸素の薄い中で会場に辿り着いたころに、ふと気づくと前にいたはずの春乃の姿がなかった。

春乃の姿を探そうと、パイプ椅子がならんでいたので思い切ってその上に立ってみたが、
ピンク色の影は見えなかった。
校門までの帰路も果てしなく困難に思えた奈緒子は、そのままステージ前の中央付近に
静かに近づいてゆき、ライブを楽しんで帰ろうと決めた。
生で歌手を見るというのは初めてだったが、奈緒子はかなりのレコードを聞いていた。
日本の歌手は、特に好きで、最初に自分で買ったアルバムがレベッカのものだった。

しばらくすると奈緒子の周りの人の密度がめいっぱい膨れ上がり、
大学生に混じると圧倒的に小さい背の奈緒子は人ごみに完全にのみこまれていた。

ふいに歓声があがったかと思うと、心臓を打つような重低音が耳をうちのめした。
耳のいい奈緒子はとっさに自分の両耳をふさいだが、
体の芯にせまるその音にしだいに身を任せていった。

ボーカルの女性はとても小さく、そして強く光っていた。
屋外の特設ステージは、決して簡素ではなく本格的な照明や音響の機材が並んでいる。
様々な光、音、人にもみくちゃにされながら奈緒子は全身でリズムをとり、
人の波に同化した。

ふいに曲間で恐ろしい沈黙があり、次のイントロが流れ始めると、激しい歓声とともに
全員が飛び跳ねる。リトルロックという曲だった。その波に身を任せては奈緒子は叫んでいた。
2曲目にさしかかったちょうどその時、ステージ裏で無線をもった黒いタートルネックセーターの
見覚えある男が見えた。

桐山だった。
次の瞬感、空中を泳いでるような感覚がして、時間が突然止まったように思えた。
急に視線をそらし、人の波に同調できずに体が傾いた奈緒子は、バランスを崩して後ろに倒れそうになる。
寸前のところで、周りから自分に向って伸びてきた知らない人の大きな腕で支えられた。
本当に、倒れたら将棋倒しになるところだった。
絶対に周囲の大人たちに怒鳴られる・・・と思って首を縮めたが、隣の大学生が大丈夫?と声をかけてくれた。

冷や汗をかきながら、もう一度ステージ裏を見つめたが、桐山はもういない。
支えてもらいながらも気づくとあちこちぶつかって、肘や腕、膝にも痛みを感じた。
それでも観客は、激しいビートと共に波打ちながらくその威力を増していく。
右足がおかしいと思ったら、奈緒子の靴が脱げてどこかへ消えていた。
片方の靴を無くした奈緒子は、どうでもよくなって人の波に身をまかせ、ジャンプし、
それ以上に何かを叫び、テンションを上げて音楽を楽しんだ。
蝶番の壊れたドアのように閃いては理性を失った。

終わってから、急にひいていく客の足元を覗きながら、自分のスエードの茶色の靴を探したが、
どこにもみつからない。
片足を引きずるように、地面だけを見つめて探し歩く。
みじめな気持ちを拾い歩くつもりが、なぜか冷静になると笑いがこみあげてきた。

結局、最後まで春乃とも再会できず、片方の靴をなくしたまま自転車をこいで家に帰った。
何人かの人には靴の無いことを気づかれ、指をさされたが、どうしようもなかった。

奈緒子の心は晴れていた。

あれが、桐山のいるところなんだ。あの人はあそこで何をしてるんだろう。

帰ったあと、奈緒子は日記を書き始めた。



1988.11.3 Thu

あの人の大学にいった。

先生、先生は今日は先生?
それとも、普通の大学生?

金木犀の香りに頭がおかしくなる。
あなたという媚薬に翻弄され、私は私じゃなくなる。
今日、文化祭で靴を無くして、右足の裏から何か黙っていたものが流れ出したみたい。

もう誰も信じないよ。
と自分に約束したはずなのに。

死にゆくために生きている。
静かに、穏やかに、そっと生きていたかったのに。
だから生きる理由はいらなかった、あなたに会うまで。


毎日が早すぎるのです。


あなたは失意の底から光を見せてくれる。
不敵な笑みでかき混ぜる。
きっと、あなたは、才能や学歴や家柄からは到底測りきれないプレッシャーの果てと
運命に生きて、やっとみつけたんだと思う。あの部屋を。
その部屋の灯りは私がともしたい。
あれだけのことが叶って、自分のほんとうは叶わず苦悩するあなたの苦しみを
私に分けてください。


愛してゆくことを許してくれますか。



To be continued.
Die Fortsetzung folgt.

奈緒子−(4

久しぶりの続きとなりました。。。
冬になると思い浮かべるわたしの記憶、あなたの記憶、
奈緒子はそれでも生きています。







あの夜、桐山の行きつけの店で飲んだ夜から、
奈緒子の桐山に対する興味は否応なしにふくらんでいった。

ただ、相変わらずありえない展開に、何か裏を疑っては彼の瞳の奥を探ってしまう。

何も信じない。傷つきたくない。これだけは正直な気持ちだった。

金曜日の英語の授業が終わった後、久しぶりに
奈緒子の数少ない友達の春乃が、桐山との噂を聞きつけて声をかけてきた。

「奈緒子、うちの特Aでも桐山はかなり人気で、他の生徒との噂も聞いたよ、
 気をつけなよ。そんなのにひっかかる奈緒子じゃないと思うけどさ。。。」

「・・・ありがと春乃。何もないよ、別に。たまに話すけど、
たいした話もしてないし、あいつ大学に彼女ちゃんといるみたいだし。。」

「えっ、そうなの?彼女いるんだ。やっぱり。それにしちゃ派手だね。
もてるのはわかるけどさ。気になってないならいいんだけどさ、
あんなやつ、やめなよ。」
春乃は、奈緒子の心を見透かしたように、「やめなよ。」というところを強調して言った。

「うん。ありがとう。」奈緒子は苦笑いしながら肩をすくめた。

「また、そうやって悲観的な顔するんだから、悲劇のヒロインぶっても何もかっこよくないんだからね。悲愴のレクイエムの中でモノを考えるんじゃないよ。まっ、そういうところが奈緒子らしいんだよね・・・まさか桐山がそこを狙ってるとも思えないしなぁ。とにかくあいつだけはダメ。」

「信じて裏切られたくないから。信じたくもないよ。だから誰も好きになんかなれない。大人なんか信じられないしね。ただ暇つぶしに本の話しとかしてるだけ。。。」

「ならいいけどさ、あっ、で話変わるけど、W大学の文化祭行こうよ、今度の祭日だって。レベッカも来るんだって。」

W大学とは、桐山の大学だった。
塾からも歩いて2,3分で着く距離にあった。


春乃は、要点をつかんで早口で快活に話すのが癖だった。
銀行員の父をもち、小学校の頃から転校をたくさんしてきて
成績はずばぬけていて、足が速かった。
頭もよく運動神経もよいとそれだけで、輝いて見える。
大人っぽく、嫌いなものをはっきり嫌いというため、周囲に人をよせつけない雰囲気が漂っていて、
一匹狼という点では、奈緒子に似ていた。
だが、他の生徒からの印象では、春乃と奈緒子は陽と陰のように、相反する雰囲気があった。

春乃との出会いは、塾の最初の授業のときだった。
奈緒子は5号館の教室をさがしてうろうろしていたが、
春乃の方から奈緒子に声をかけてきた。


「何クラス?、こっちだよ。」

その日、奈緒子は初めての塾の日であり、理由なく機嫌の悪い叔母に、
外出前にたくさんのことをいいつけられ、やっとの思いで
家をでて遅刻ぎりぎりで塾に着いたところだった。
塾までの道のりを走るときに、少し涙がでて、白目が充血していた



秋も深まり、日が暮れるのが早くなっていった。
塾に通うようになってから、明日が来ることが、今日が来ることが早すぎると
奈緒子は思った。


考えてみると、桐山に対するイメージは変わっていった。
それは、最初の印象が悪すぎた分、よけいに反動が働いて、大きな変化にも感じられた。

塾の時間の間中は、相変わらず不敵な態度の桐山だったが、
それ以外の時間は、奈緒子ととても楽しそうに話をした。

他人のことをあれこれ詮索し、恋愛話には特に目がない女子中学生たちの生徒間で、
桐山と奈緒子のことが噂されるのに、時間はかからなかった。
その噂に混じって聞いたことだが、もっと親密な関係になって本部や保護者から警告がでた教師も
今までたくさんいたようだった。




先日、春乃から文化祭の情報を得た奈緒子は、そのことを桐山に聞いてみた。
「そうなんだよ、僕は運営の中心をしていて今すごく忙しいんだ。
うちの、大学に興味あるの?じゃ明日来てみる?」

その翌日の土曜日、奈緒子は大学内に遊びに行った。
桐山と並んで歩くと、すれ違う人のほとんどが桐山に軽く会釈をしていく。
髪型から、洋服、もっているバッグにヒールの靴まで、女性は美しく映った。
大学生というだけでまるで輝いて見える。
とても長い学生服を着て、下駄をはいてる集団ともすれ違った。

少し背伸びした格好をしてきたものの、奈緒子は何だか自分が場違いなところにきてしまったような
気がして、桐山の少しうしろを歩いた。

少し待っててくれる?体育局に行って来ないといけないから。
といわれ、奈緒子は白い古いマイクロバスが置いてある横のベンチで待っていた。
しばらく待ったが、桐山は戻ってこない。
かれこれ40分ほど経って、仕方なく帰ろうかと思った奈緒子の視線の先に、
桐山と、短髪の女性が見えた。女性は、桐山の手をとって揺らしながらくねくねとした動きをしていた。
彼女なのかもしれなかった。

桐山は、その女性に手を振って別れたあと、ゆっくり奈緒子に近づいてきて、
もてて仕方がない。と笑顔を見せた。

その後は、何だかすれ違う人のほとんどが桐山と何かしら関係がある人のような気がしてならなかった。
聞いてもいないのに、桐山は、僕には彼女なんてたくさんいるよ。そんなことはどうでもいいんだけどね。

人生にとって女性は、まるで色んな柄のマフラーだとでも言ってるような雰囲気だった。




それまで、人との会話が少ないわりに、本ばかり読んでる奈緒子は、
小学生の時、父や学校の先生から理屈っぽいとよく言われた。
たくさんの言葉を知りながら、その経験が不足していて言葉が独り歩きしているようだった。
奈緒子自身もそれは何となくわかっていて、だからなのか、人と話す事が苦手になっていき、
口数が減った。それでいいのかもしれない。きっと大人たちは、徹底的なことを言われたくないのだ。
世の中には、白と黒だけで片付かないような、自分が知らない事がたぶんたくさんあるんだ。
空の色も人の心も、灰色ほど信じられないものはない。
それでも、物事がはっきりしない方が安心していられることもあるもんだなと奈緒子は思った。
桐山との会話には、お互いをどう思ってるとか好きとか嫌いとかいう言葉は出てこなかった。


自然に二人の会話は増えていった。


桐山が塾や大学に来る時間を考えて、奈緒子が、東京駅でずっと待っていることもあった。
特に約束することもなく、ただただ待って、人ごみを見つめていた。
誰かを想い、どこかでその人を待っている時間というのは、
こんなに楽しいものなんだなと思った。
何度もその人らしき人を見つけては、胸から赤い風船が膨らんで飛び出すような感覚を覚え
奈緒子は可笑しかった。
4時間ほど待って会えないこともたくさんあったが、
いずれも生きた心地のする時間だった。

塾が終わった頃の時間帯は、本部の前で待っていて、運良く会えれば例の店で飲むこともあった。

また、奈緒子が待っていないときは、昨日待ってると思ったのに。いなかった。と桐山に叱られる事もあった。

そんな中、秋はしだいに冬を覚え、文化祭の日がやってきた。




To be continued.
Die Fortsetzung folgt.

奈緒子−(3

前回のあらすじ:
塾の時間の途中で教室を飛び出した奈緒子は、国語の塾教師桐山の、
言葉に困惑していた。
次の授業の時間が終わった後、再度桐山に呼び出される・・・

イメージ 1

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




授業が終わってから、しばらくざわざわしていたが、
生徒はどんどん帰っていき、しまいに教室は誰もいなくなった。
いつもだらだらと残っている桐山ファンの生徒たちも、
中間テスト勉強で忙しいらしく、今日は誰も残らなかった。


桐山に、授業が終わった後、残るように言われた奈緒子は、
一番後ろの席に移動して、彼の次の言葉を待った。
自分の心臓の鼓動が、こだましている気がする。

「そんなに怖い顔をして・・・・、怒ってるの?」

「先生、もうやめてもらえませんか、こういうの。」

「どういうの?(笑)僕がしたくてしてるだけだから気にしなくていいよ」

何を言っても通じなさそうだった。

「僕は、今日、もうこのあと授業がないんだ。帰るだけなんだけど、君つきあわないか?」
「どうせ、そんなに早く帰りたくもないんでしょ?」

「え?・・・・・・」声にならない声で、奈緒子はやっとの思いで答えた。

家に帰りたくないことをなぜ桐山が知ってるんだろう。
あれだけあったはずの余裕が、手元にもう何も残っていない。

わけがわからないまま、教室を出る桐山についていった。
しばらく塾の本部の前で待っていたが、桐山は平然と、じゃ行こうといって、
大通りを高田馬場方面に歩き出した。
桐山の大学の文学部がある方向に曲がった途端、急に立ち止まり、
タクシーをつかまえて、奈緒子を先に乗せ、自分はあとから乗り、
ほんの少しの距離をタクシーに走らせた。

奈緒子は、動転していた。
塾講師は、ネクタイにスーツスタイルで授業をするため、
はっきりいって中学生から見たら、大学生とはいっても大人だった。
今日は自分が制服でなかったことに安堵していた。いや、制服ではないから誘っ
てきたのかもしれない。
そんなくだらないことを考えているうちに、タクシーを降り、ひっそりと佇む飲食店に入っていった。
こうなった以上、ついていくしかない。

案内後すぐに、丁寧で感じのよいウェイターがやってきた。
調度品も落ち着いた雰囲気で、決して安い店ではない。
小さな音で、ビル・エヴェンスが流れている。
桐山の行きつけの店らしかった。

「僕はジントニック。君も飲めば?」
そんな振り方をされて、まごつくのも格好悪いと思った奈緒子は、とっさに
「私はホットで。」とすぐに言った。

「ホットコーヒーがすきなんだね」
といって桐山は不敵な笑みを浮かべている。

一瞬彼を見たが、奈緒子はそれには答えず、少し気分が悪くなって下を向いてい
た。よっぽど自分に自信がなければここまで人を振り回すことは出来ないだろう。
ファッション誌にそのまま映っても遜色のないモデルのような笑顔だ。
その後、何人か入ってきた客の中には、彼の方をちらちら見ている人もいた。
暗い店内で、桐山の上質な皮靴が恐ろしく磨かれて光っている。

まもなく、ジントニックとホットコーヒーが運ばれてきた。
もちろん乾杯する必要もないからホットコーヒーにしたのだった。
ホットコーヒーには、銀の小さな器に盛られてピーナッツが添えてあった。
桐山は、自分のジントニックの中の大きな丸い氷を、きれいな人差し指でもてあ
そぶように回した。
そして二口ほど飲むと、「それ、頂戴。」と言って奈緒子のコーヒーに添えられたピー
ナッツをつまみだした。
品があって、非の打ち所のないこの人の、こういうところが異性だけでなく同性にも人気がある理由か
と奈緒子は思った。

アルコールが入って気分がよくなったのか、桐山は自分のことを話しだした。
聞いていて、奈緒子は不思議な感覚を覚えた。
桐山の話す本、音楽、好きなCM、テレビ、俳優、映画、きらいな物、味、人・・
・なぜか一致するのである。
あまりにも一致するため、奈緒子の好みをだれかから聞き出してわざと言ってる
のかもしれない。とさえ思った。
が、そうするには自然すぎる。だいいち、目的が見えないのである。
桐山は本当に楽しそうに、話をした。
いつの間にか奈緒子も自分の好むものばかりがでてくるので、自然に会話が広がっていった。

「村上春樹だと、何が好き?」
「いるかホテルって、北海道にほんとにあるんだよ・・・」
「五木寛之の車の話ってさ憧れちゃうんだよね・・・」
「福永武彦の息子が池澤夏樹って知ってた?・・・」
特に文学の話で盛り上がった。
このような話ができる人間は、学校中探してもいなかった。

「先生は、経済学部っていってたけど、どうしてそんなに文学のこと詳しいの?」
と奈緒子は不思議に思って聞いた。
すると桐山は急に笑顔をなくし、
「本当は、文学部も受けて受かったんだけどね・・・いや、経済学部と両方受かったら
結局こっちを選ぶしかなかったんだ・・・受かるはずだった国立はだめだったからね・・・」
その時、桐山の左手が硬く握り締められたのを奈緒子は見逃さなかった。
説明はいらないほど、桐山が優秀なのがわかった。

「何一つ挫折のない人生ね。」
わかった風に奈緒子が言った。
桐山は何も答えず、2杯目の残りのジントニックを一気に飲み干した。
気がつくと22時を過ぎていた。
桐山が、もう帰らないとそろそろ電車がね、と言った。
口元をきゅっと一文字にしめ、奈緒子は黙って頷いた。

この次はあるのだろうか、気になっただけで終わったのだろうか・・
奈緒子は「自分に惹かれた理由」を結局聞けなかった。

また桐山は、タクシーを止め奈緒子を先に乗せてから自分も乗った。
彼は「東京駅まで」と言った。
結局、奈緒子は途中で降ろしてもらえず、
車中でも終始二人は無言のままだった。
だが、奈緒子は、東京駅なら行き慣れているので怖く無かった。

早く帰るより、ましだった。
「じゃ、また・・・塾で。」彼はそう言ってまた微笑み、改札を入っていった。

なんとなく、彼の背中を目で追っていた。
彼は一度も振り返らずエスカレータに乗り、地下に吸い込まれていった。

しばらく奈緒子は改札口の外から人の流れをみつめていた。
口の中に鈍痛があった。ずっと歯を食いしばっていたのだった。

東西線で何駅か戻り、駅の出口を地上に上がると小雨が降っていた。
家に着くと23時を過ぎていたが、呼び鈴を押しても誰も出ず、玄関は開かなかった。
叔母が、叔父を迎えに行った様だった。

奈緒子は生活費を実家から仕送りしてもらい、自分の中でやりくりをしていた。
初めのうちは、一緒にとっていた食事も、叔父の帰宅が遅いことと、
塾が始まって不規則になったこともあって、ひとりで適当にすませることが多くなっていった。
はっきりした理由はわからないが、何度か頼んでみても、
いつまでたっても奈緒子に合い鍵は渡してもらえなかった。

奈緒子の父の姉は、叔父の前妻で、8年前に亡くなっていた。
そして昨年叔父は13歳年下の女性と再婚した。
再婚相手の叔母の素性はよくわからない。
ただ、小柄な人で目が大きく、遠くから見てそこだけ花が咲いたように目立つ美形だった。
結婚するまでデパートに勤めていたらしいがそれ以上何もわからなかった。
表面的には優しい人だった。
亡くなった叔母は情の深い人だったので、正反対の人と再婚した叔父が理解できなかった。
一度、3人で北青山のフレンチレストランで食事をした時、叔父が奈緒子の色の白さを褒
めたことがあった。
その時の叔母の表情を、奈緒子は忘れられなかった。

つまり実質血がつながっていない。だからからかもしれない。

「だからかもしれない」
奈緒子は、非常階段に座って、声に出してつぶやいてみた。
きちんと声になって聞こえたので、少しだけ安心した。
そうやって自分の存在を確認する行為を、奈緒子はたまにしていた。
14階建てのマンションの11階部分は、裸の非常階段を、地上よりも強い風がすりぬける。
下を見ると闇の中に駐車場が浮きあがり、すいこまれそうな気がした。
雨に濡れた髪が冷たかったが、意外なほど寒さを感じなかった。まだ体が火照っている。

何かを信じたいと願うほど、力がぬけていく感じがした。
いろいろありすぎて疲れたのかもしれない。得体の知れない不思議な感情だった。
ただただ切なさに襲われる。
桐山の存在が自分の中に蔦(つた)を這って広がるような感覚を覚え、震えた。

20分ほど経っただろうか・・・叔父と叔母が帰ってきた。
「あら、奈緒ちゃん帰ってたのね。」叔母は無表情だったがどちらかというと笑
っているようにも見えた。
叔父は少し酔っているようだ。
家に入ると、すぐに奈緒子は自分の部屋にこもったが、叔母が奈緒子の帰りが遅
かったことについてだらだらと叔父に文句を言っているのがおぼろげに聞こえた。
叔父は、いかにも面倒な返事をしていて、叔母を苛立たせているようだった。
奈緒子はふと、この家以外には行くところがないかもしれない、と少し不安になった。

そして、現実から逃れるように、横になり文庫本を開いた。
谷崎潤一郎の「猫と正造と二人の女」だ。
過去に何もない自分が懐古的になって、この谷崎を選んだことを少し笑った。
いつも熱い視線をあびてる桐山を、女ったらしの正造に、自然に重ねる自分がいた。
実際、黄色い声の塾生や、塾生の母親まで、彼と話をしたがった。
ワンレングスのストレートな髪と体にぴったりした服を着た塾の事務の人も、
桐山にだけは態度が違う。

なかなかページがめくれないと思ったら、奈緒子は東京駅のことばかり考えていた。
エスカレータに吸い込まれた桐山が、そのままもう二度と自分の前に現れないの
ではないかとさえ思いはじながら
ゆっくり眠りの中に落ちていった。


To be continued.
Die Fortsetzung folgt.

奈緒子−(2

前回のあらすじ:
ローカルな田園地帯で小学校を過ごした奈緒子は、
家の事情で、中学校入学と同時に、叔父の家に預けられる。
通い始めた塾である日、漢字の宿題を忘れた奈緒子は、
国語の講師に頭を殴られ、塾の教室を無言で飛び出した・・・

イメージ 1

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

教室を飛び出した奈緒子は、

まだ、ネオンの明るい駅前の通りが目に入った瞬間、我に返り
すぐに平静を取り戻した。

まだ、授業時間開始から30分しか経っていない。
これから帰宅するわけにもいかないので、塾の並びにあるモスバーガーに入ろうとした。
夜空には、鋭利な刃物のような三日月が小さく見えた。日ごとに秋が近づいている。


店に入ると、もう少し気分を落ち着かせたかった奈緒子はホットコーヒーを頼んだ。
「お砂糖とミルクは・・」と機械的な応対に、
下を向いて「結構です。」と言った。
ディナー帯であり、人がまばらにしか座っていない。
少し迷ったが窓際のカウンター席に座った。

なぜあんなに動揺したのか・・・
奈緒子は、自分の感情が暴力に対して反応したことにむしろ驚いていた。

あの嫌味な塾講師の雰囲気がそんなに生理的に受付けなかったのだろうか・・・
違う、何かが違うような気がする。
心の中に何かが引っかかっては、ほどけない糸が増えていく。

コーヒーを2口ほど飲んだとき、突然店の前を、彼が横切った。
反射的に身を縮める。背筋に冷たいものがはしった。

授業はどうしたんだろう。
まさか連れ戻すわけではないだろうし。

そういう状況が何より苦手だった。
コーヒーのせいなのか口の中の苦みが増し、奈緒子は眉をひそめた。
嫌な予感は的中し、国語の塾講師は、通り過ぎてからすぐに戻ってきて、店に入ってきた。


そして、奈緒子に、
平然と 「ちょっと待ってて。」と言い、
自分のためのコーヒーを買ってきて、横に座った。

奈緒子は、すっかり血の気がひきながらも無表情で
「先生、授業は?」と聞いた。

「あー、自習にした、別に君を連れ戻しにきたわけじゃない。
ただちょっと気になってね。
あと、僕もコーヒーが飲みたくなったんだ。」

何を言ってるんだろう・・・と奈緒子は思った。
殴ったことを謝るわけでも、連れ戻すわけでもない。
音から感情を読み取ろうとしたが、かけらもみつからないような棒読みだった。
状況に合わせた感は全くなく、ただただ、
本当にコーヒーが飲みたくて飲んでいるという感じ。

「あのさ、ちょっと話してもいいかな。」

「・・ん・・・・」

奈緒子は半分呆れて、自分がされたことも、自分のしたことも忘れ、
どうでもいいような返事をした。
二人とも通りに向かって座り、何気なく縦列駐車の客待ちタクシーを見ている。

「変な意味じゃないんだけど・・・君の事が何だか前から気になっていてね。」

「え?」
彼の横顔をまじまじと見つめた。鼻梁の傾斜が美しい。端整な顔立ちだ。
何だか自分の出した「え?」という聞き返しの声が大きすぎたような気がして
奈緒子はどこか恥ずかしくなった。

「・・・変な意味じゃない・・・ただ・・・」

この人、自分が先生と思っていない。
だから私も生徒という感覚が欠落してしまうから、何だか、不思議な気分に襲われるんだ。
奈緒子はこんな時でさえも冷静に感じた。

「ただ・・・?」

「本当によくわからないんだ。だけど何かに惹かれるんだ。それが何なのか知りたくて・・・」
語尾の方が何だか自信のない言い方だった。
この人らしくない意外な一面にふいをつかれ、奈緒子は困惑した。


結局、その場ではそれ以上の会話の発展もなく、ただ黙って二人ともコーヒーを飲み、
「じゃまた、」と彼が言って別れた。

奈緒子は何事もなかったかのように帰宅し、
ベッドに入ると天井を見上げながら、なかなか寝付けなかった。
本を読む気にもならず、胸のつかえがとれない自分に苛立っていた。

「じゃまた?」ってどういうことだろう。最後に見せた表情はなんだったのか。
曖昧な時間を過ごしてしまった・・・なんだろうこの気持ち。複雑すぎる。
クラスには、有名女子中学校に通う子、BMWで送り迎えされる子、
いつも美容院の匂いがする美しい黒髪の子、
ブランド物のバックをもってどう見ても大学生に見えるような子、様々だ。
私なんか目立つはずもない。
少々やせていて色白なくらいで、とりたててブスでも美人でもない。
背も高くも低くもない。
告白もしたことはないし、ラブレターだってもらったことはないのだ。
友達以上になることの方が、よっぽど面倒だと思ってしまう。


国語の塾教師、彼の名前は・・・確か桐山・・・雄介だったはずだ。
大学2年生だと、彼の熱狂的ファンである生徒たちが噂していたのを聞いたことがある。
ということは14歳の奈緒子と6歳差ということになる。
なぜ、桐山は自習にしたのか、コーヒーが飲みたくなったのか、私と一緒にいたのか、
私を気になるといったのか、
考えるほど真意がつかめなかった。

深夜1時を過ぎた頃、叔父が帰宅したようだった。
隣の公園では、誰かがわけのわからない歌を叫んでる。
騒々しい夜だった。



それから、1週間が過ぎ、また国語の授業のある水曜日がやってきた。

奈緒子はすっかり、落ち着いていた。
何か気の迷いだったのだという思いと、真意を確かめたい衝動の狭間で、
早めに塾に着き、一番前の一番右の席に座った。
目の前に講師の机が隣接している机だ。
講師は、この机に荷物やテキストを置き、中央に立ってホワイトボードに書きな
がら授業をする。

またいつものように漢字のテストが始まった。今日は見直してきたので特に問題はなかった。
が、開始3分くらいたったところで、足に何かがあたった。
奈緒子は足元を覗こうとしたがすぐにやめた。
それは目の前に座ってテスト時間を計ってる桐山の足だとわかったからだ。
目が合うと桐山は、奈緒子の足をノックしながらまっすぐ彼女を見て微笑んだ。

また、この人は私をかき乱す。
かき乱しては楽しんでるのかもしれない。

関係ないふりをして、黙々と解答用紙に書き終え、
わざと音を立てて筆記具を机に置いた後、下を向いていた。

桐山はテストの間中、奈緒子のことをじっと見つめていた。
その後、終始何事もなかったかのように2時間ほど授業が行われた。
奈緒子もほっと安堵して帰ろうとした時に、
「樋口さん、連絡があるのでちょっと残ってください」という声がした。

予測できなかったことでもない。
からかうのはもうやめてもらおうと、奈緒子も頷いた。


To be continued.
Die Fortsetzung folgt.

全2ページ

[1] [2]

[ 次のページ ]


.
ぷく
ぷく
女性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
検索 検索

過去の記事一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事