私という人間

育児中〜。 素直な気持ちを書きます。

想像 …プラスの法則…

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想像の世界です。
まだまだ勉強中なので、いろんなコメントを聞かせて下さい。
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プラスの法則 5

 娘の表情は次第に生き生きとし、余計に主達から執拗ないじめを受けた。
 それでも、内から溢れる力が絶えず、娘はついに決心する。

 地下室。いつものように深呼吸をする。
 小さな空気窓に向い、手のひらを合わせ指を組み、祈るような視線で言った。
「私は決心しました。あなたが教えてくれたプラスの法則、信じて良かった」
 そして俯き目を伏せる。
 神にでも祈るような清らかな時間が過ぎた。
 体の内側にある、嫌な物を吐きだす様に、ゆっくりと息を吐き、
「今夜、消えます」
 見開いた蒼く深い瞳は、まっすぐに窓を、そしてその先の世界を見据えていた。


「まだ見つからんのか!」
 主は屋敷の隅々まで探せと、唾を飛ばし叫ぶ。
「このまま、逃げられてはならぬ…」
 奥歯がギリギリと締り、肌も赤黒く変わっていく。

 数分前に地下室の麻袋に隠れて、次へのチャンスをうかがっていた。
 遠くの方で、大きな声と足音が頻繁に聞こえる。
(もう少し、もう少し静かになれば…)
 娘の入った麻袋の隣には、いくつもの同じ袋が重なり合い、見た目には娘が入っているなど分からない。
 夜中になるとさすがに、屋敷は静まりかえる。
 今だ! と外に出る。
 下調べで長い塀の一部が崩れていることを知っていた。
 頭の中で繰り返した通りに、地下室から塀までの距離を、隠れながら走った。
 さながら脱獄犯のように必至で走った。


 屋敷の外へ出て、誰にも見つからず、追手も来ないが、休むことなく走り続けた。
 娘の全身から玉の汗が流れ、涙と共に後方へ流れる。
 幼いころの記憶も、あの屋敷で体験したこともすべて忘れるかの様に走り、どぅっと倒れたところは二股に分かれた道があった。
 ちょうど二つの道を左右にし、真ん中に座るモノがいる。
 少し小さい石に背を預け、タバコをうまそうに吸っていた。
「はぁ…はぁ…、あの…この先に、町はありますか?」
 娘は町へ出て、住み込みで仕事をし、お金を貯めて一人で生活をたてようと考えていた。
 どっちの道を進んだら、私の希望する場所が見つかるのか、運命の分かれ道に思える。
「さぁて…しらんよ」
 どこかで聞いたような声だが、娘にとって今は関係ない。
「そうですか」
 少し止まったせいか息も整い、落ちついて考えることが出来た。

 右の道は少し広く、車などが通れそう。
 左の道は狭いが、その先に森や山が見えない。
 娘は迷った。
「あなたはどちらから来ました?」
 タバコを持つ手が指したのは、娘が来た方向。
「これからどちらへ行かれるのですか?」
 首を横に振り、大気へ煙を吐き出す。
 困り果てた娘は、運試しと言い、まずは右道の前へと立つ。
 両手を合わせ、道の先を見つめ、パァンと手を鳴らした。
 同じことを左道の前でも行う。
 神頼みなのか、はたまた占いなのか、自分の心に問うていた。
「よし! こっちへ行きます」
 選んだのは右の道。
 真ん中に座るモノに小さく頭を下げると、娘はゆっくりと、しっかりした足取りで進む。
 その選んだ道が、自分の新しい世界だと信じて。


 
 夜空を見上げる。
 無数の星々が瞬き、この世の小ささを語っているかのよう。
「そっちの道を選んだこと、後悔しないといいねぇ〜」
 よっと掛声をかけ立ち上がり、最後の一口を吸い込む。
 タバコの先がジリジリと燃えた。
「彼女には、信じるものが出来たから、これから同じようなことがあっても大丈夫か…」
 手には、消えかけの吸い殻があり、ポイと投げると、左の道へ落ちた。
 その最後の煙が、彼女の幸せを指し示すかの様に、揺らめき消えた。

プラスの法則 4

「体をほぐす」
 娘はつぶやきながら、屋敷の掃除に精を出す。
 体力をつけ、緊張を解き、柔軟に動いた。

「笑顔」
 何かを押しつけられたり、嫌がらせをされても笑顔になった。
 腫れた目や頬でも、にっこりと笑い、その様子に誰もが気持ちが悪いと言って、叩くことが少なくなった。

「どうでもいいやと力を抜く」
 言葉の罵倒は絶えなかったが、娘はどうでもいいやと胸の内でつぶやき、受け流した。
 それだけでも少しだけ、心が軽くなった気がする。

「文字の力」
 幼いころは、お嬢様として、それなりの教育を受けさせてもらった。
 文字を書くこと、読むことは好きな方で、紙やペンがなくても、砂に書いた。
 自分の好きなこと、やってみたいこと、どんなことでも書いては口に出した。
 見つかりそうになったら、さっと消し笑顔を作りごまかす。

「会話をする」
 主やその他の人に、怒鳴られようと会話に参加した。
 言葉使いは丁寧に、親切に、言われたことをこなしつつ、少しずつ増やしていく。

「手をたたく」
 周りに迷惑がかからぬ様、地下の部屋で行った。
 肺の隅々まで届くように深呼吸をし、瞬きもせず、大きく鳴り響かせた。
 壁や扉に反射し、こだまする音は、娘の心を清めてくれる様だ。


 何年かかろうと、どんな境遇になろうとも、この六つを信じ疑わず実行した。
 娘にとってこれだけが、生きる希望となる。

プラスの法則 3

 ドブネズミのような生活。
 以前も心のない、「宙」の生活をしていたが、今は「汚」の生活。
 屋敷の外へはもちろん出られない。
 数回、逃亡しようと試みて、すぐに見つかり、体罰を受けた。
 

 出会いとは突然に起こる。
 主に言われ、地下の倉庫へ片付けに行った時。
 小さな空気窓から射す明かりが、一瞬途切れた。
 明かりの乏しい地下では、空気窓も光を入れる重要な窓。
 ちろちろと光が途切れ、影が躍る。
「私は暗いところが好き。光の世界なんて…」
 娘のつぶやきに、影が反応した。
「光がないと、影も出来ないよ」
 その穏やかな声に、娘の心臓が大きな音をたてた。
 甘く優しい声。
 屋敷の誰でもない。
 小さな窓から、ほのかに香る、タバコのにおい。
 娘の脳裏に以前見た、あのだらけたライオンの姿を思い出した。
「あなたは…」
 光の窓から、小さな紙切れが蝶のように落ちてきた。
 真っ白な紙は、薄暗い部屋に、天使の羽が落ちた舞い降りたと思った。
 娘は静かに拾い上げ、紙に書かれたことを呟いた。
「プラスの法則…」
「君が変われる方法だよ。そして君は、自分の歩む道を見つける」
 娘が顔を上げ窓を見ると、すでに気配も影もなかった。
 
 プラスの法則…

”六つのことを実行したとき、もう昔の自分ではない”
 最後に書かれた言葉に、娘の空になった心に、小さな明かりが灯った。
 

プラスの法則 2

「参りました。御用は何でしょう」
 少女は部屋に入ると、膝を少し曲げ挨拶をした。
「おお、来たか… さあこれを」
 部屋の奥に座る影の手に、握られていたものは、小さな鍵のついた手錠。
 少女も無言でそれを受け取る。
 その影は、少女の一挙手一投足を血走った目で追った。
 館の主だ。
 少女は主の愛玩具として、この屋敷に囲われていた。
 身よりのないものを招き、自分の玩具にする。
 世間体を気にし、養子として育てているのだと、屋敷の者にも話してあった。
 お楽しみの時間は、日に何度もあり、そのたび少女は心を殺した。

 私は玩具。生きても、死んでも玩具。
 辛い…悲しい…苦しい…痛い…
 そんな感情さえ、今はわからない…

 思考能力が落ち、主の相手をするためだけに生かされる。
 お嬢様として…


 時は勝手に流れる。
 止めようにも、時代が進化しても、止まるものではない。

 いつしか少女は、年頃の娘になった。
 その成長と共に、主の態度が変わっていった。
「お前はいつも同じだ! 面白みがない!」
 罵声を浴びせ、容赦なく叩く。あざは絶えず、見えないところは腫れ上がっていた。
 しばらくして主は、数人の女の子を養子にとった。
 娘にとって、それは解放か、崩壊か、別れ際だ。
 今までのことを、新しく入った子が変わりにしてくれる。
 私は、解放される…
 ……甘い考えだった。
「今日からお前は、馬車馬のように働け」
 主の一言で、生活は一変する。
 今まで、お嬢様と言って仕えた女でさえ、娘を蹴り飛ばし働かせた。
「お前はもうお嬢様じゃないんだ! 私の変わりに雑用をしなっ!」
 朝も、昼も、夜も、寝る時間さえ与えてはくれない。
 綺麗に着飾って目の前を過ぎる子供は、先日養子になったばかりの女の子。
 今は、まだ知らない。主の裏の顔を…
 楽しげに笑う顔は、昔の自分と重なる。
(まだ玩具の方が良かったのか)
 もう玩具でない自分は、動物以下。いや…玩具以下か…

プラスの法則

 天上に星々が瞬いていた。
 一面無数のまたたきが、その手をつないでいる様だ。
 西の空から、ゆっくりと雲が侵入し、星々を食べ暗闇となっていく。
 大気も息をひそめ、何一つ動くものはなかった。

 その時間の流れを見つめて、呟くモノがいる。
「変わるのは、人だけじゃない。すべてのものが変わりゆく」
 微かな明かりの中、そのモノが動く。

 

 屋敷の中は騒然としていた。
 娘がいなくなったと、お付きの者達が右往左往する。
「いち早く見つけたものに、か…金を出す」
 主人は、なりふり構わず、娘を探しその身を案じていた。
「ご主人さま! 屋敷中を探しましたが、見つかりません」
 報告を聞くや否や、その者の横っ面を、手の甲でひっぱたく。
 その顔は目が釣り上がり、明らかに苛立っていた。
 口から洩れた言葉は、心配する者の言葉ではなかった。
「どこへいった…くっそっ」

 この日のために、麻袋を準備していた。その中に息をひそめ隠れる。
 屋敷のものに見つからないよう、体の震えを必至に抑え、蒼く深い目を見開いていた。
(ここで捕まったら、もう先はない。何としても逃げ切らなきゃ…)
 あたりが静まるまで待ち、外へ出るチャンスを窺う。 
 一人の娘がここまで決心したのには、大きな覚悟があった。
(利用されて死んで行くのは嫌! あれを信じる!)
 ギュと固く目を閉じると、遠い日のことを思い出していた。


 少女が窓辺に立つ。毎日の習慣。
 窓から見える景色はいつも同じで、少女は景色を眺めるというより、空と同じ蒼く深い目を、宙に漂わせているにすぎない。
 眼下には、長く高い塀と見回り兵が見える。
トントントン。
 ノック後すぐに、入ってきたのは、常に身の回りのお世話をするお付きの者。
「お嬢様、ご主人様がお呼びです」
「わかりました」
 感情のない機械のような返答。少女にとって良いことは一つもない。
 その無表情な冷たい顔は、少女に大人びた顔をさせる。
 瞬きの回数と共に、視線が落ちる。
 その目線の先に、いつもとは違ったものが見えた。
(……人? 誰?)
 見慣れない格好のそのモノは、木の上でタバコをくわえ、その煙に身を燻らせていた。
 足をだらりと下げ、真昼のライオンのようだ。
(クスッ…不思議な人)
 少女の愛らしい小さな笑顔は、誰にも見られることなく屋敷の奥へと消えて行く。

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