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自販機の脇で腰掛ける二人。缶コーヒーの栓を開けると、自分の心もいつの間にか開いていくような感じがした。
「私、街中を走るの苦手だから、街中を通らないように抜け道を探しながら走っていたんだ。そしたら、道に迷っちゃって…その時に君が来たから助かったよ!」
「そーか、だからあんな所に居たんだ」
異性の前だといつもぎこちないのに、彼女の前だとなぜか自然で居る事が出来た。
「学生?」
「社会人だよ」
「えっ!仕事は?」
「この旅の為に辞めちゃった」
穏やかに流れていく時間。彼女への興味は尽きる事無く、次から次へと興味はかき立てられ、そのたわいのない僕の興味に答える彼女の顔からは笑顔が溢れて止まなかった。
「たくさん走って、いろんなものを見て、ゆっくり鹿児島に帰るんだ」
「いいなー、そんな束縛のない旅って…」
彼女の自由奔放の旅に、仕事や時間に追われて生きている僕の裸の言葉が出て、そんな僕に彼女はニコッと微笑んだ。
「ちょっといい?」
そう彼女が一言尋ねると、腰に下げた革のシガーケースから煙草を一本取り出し、一方の手にはライターとアッシュトレイ、唇には煙草。
ゆっくりと上昇する青い煙。両膝が擦り切れたジーンズ。
“まるで時間が逆流している感じ…不思議な空間だ…”
僕は煙草を吸わないせいか、煙草を吸う女性には嫌悪感があった。だけど、彼女にはそんな嫌悪感は無く、むしろその光景をずっと眺めていたいと思った。
「じゃあ、かなりの長旅していたの?」
「うん、六月に旅を始めて、北海道に三ヶ月のんびりしていたなー」
思い出をしみじみと思い返す彼女を、羨ましく見ていた。
「でもそんなのんびり旅をしていた時、雨の日にバイクで走っていたら転んじゃった!その日から雨の日はバイクに乗らないって決めたんだ!」
悲惨だった思い出なのに、その笑顔は途切れる事は無く、むしろ輝いていた。
「そしたらずーっと雨の日が続いて、北海道のキャンプ場で一週間も足止めされたなー」
「一週間も!」
「うん、その間は毎日セローちゃんを磨いていたなー」
「ふーん」
“彼女に大切にされ、なんか羨ましいな…”
彼女の愛車“ヤマハセロー”そのあっちこっちの擦り傷も、剥げかけた塗装も勲章のように輝いていた。
だが、バイクを停めている方向に目をやると、一人の中年男性がTWとセローの周りをうろうろと回っていた。
その怪しい様子に何事かと思った僕と彼女はバイクの元へと戻った。
「何か?」
「この鹿児島ナンバー、君のバイク?」
その中年男性はたくましい風貌をし、長く伸ばされた黒い髪は後ろに束ねられ。タンクトップから剥き出された肩や両腕、胸は真っ黒に焼け、その筋肉は隆々としていた。
“でも、以前どこかで見た事がある感じだ…”
「いえ、彼女のバイクです…」
彼女のバイクと言う事実を知ると、男性は目を丸くして驚いた。
しかし、突然の男性の乱入を僕は素直に受け入れる事は出来なかった。
続いて男性は僕の愛車、TW のナンバーを覗いた。
「…と言う事は…このバイクも九州の…みや…ざ…き?」
「いえ、地元の…宮城です…」
「あっ!そうだ!!宮城だ〜」
眼をこすり男性はナンバーを見直し。その滑稽な様子に僕と彼女はクスクスと笑った。
「ところで二人は彼氏と彼女なの?」
突然の男性の質問に二人は焦った。
「い、いえ…そ、そんな…」
「いま道案内してもらって…」
僕と彼女は一斉に否定をし、男性はニヤッと笑った。
「その荷物と格好だと彼女はかなりの長旅をしているな〜」
「分かる!」
「俺も、そこのキャンピングカーで日本を周る旅をしている最中だよ」
ふと駐車場の片隅を見ると、2トントラックを改造したキャンピングカーが停められていた。
気付くとその男性からも彼女と同じ風が僕の中へと吹き込み、いつの間に僕等は輪になって、日本各地での旅の話で盛り上がっていた
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小説 第一章・二章
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