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第二章 旅人達の空
細く寂しげな道を走る二台のバイク。
目指すは兵糧山キャンプ場。
樹林がうっそうと生い茂る、薄暗い緩やかな坂道を登り切ると。そこからはパッと視界が開け、360度展望が見渡せる場所へ辿り着いた。
キャンプ場の駐車場に二台のバイク場到着した。
彼女が乗るバイク、ヤマハセロー225。
小さなライトに小ぶりなタンク、細く大きな車輪。
その流れるようなデザインと、細く長い足…セロー(ヒマラヤカモシカ)の名の通り、急峻な岩場を跳ね飛び回るような無駄の無いしなやかなバイクだ…。
そしてここは兵糧山…と言っても標高もさほど無く、山というより、緩やかに盛り上がった丘と言った方が正しい場所だ。
ヘルメットを脱ぎ去ると、先程の緊張感から開放されたせいか大きな息が出た。
そして彼女の方向を見ると、今まさにヘルメットを脱ぎ去ろうとしていた。
“どんな感じの娘なんだ…”
思わず息を呑んだ。
両手がかけられたヘルメットはゆっくりと持ち上がり、上がってゆくヘルメットと共に髪がフワリと舞い上がり、パラパラとバラけていった。そのバラけた髪を後ろにキュッと束ねると、僕へ暖かな笑顔が送られた。
その光景はまるでスローモーションで見ているかのように、眼の前で展開し、まるで映像かと錯覚に陥ってしまった。
小麦色に焼けたきれいな肌。くりりとした瞳に、凛とした顔立ち。それは南の島を思わせるものだった。でも彼女の雰囲気は、この東北の長閑な風景に妙にはまっていた。
“僕が思っていた通り…いやそれ以上綺麗な娘だ…”
ゆっくり周囲を見渡す彼女、久々にこの場に来た僕も一緒に見渡した。
そこは僕が思った場所とは正反対に太陽の光が燦々と溢れていた。
キャンプ場は手入れが施された芝生が一面に張られ、そこには桜の木が点々と植えられ、丘から見下ろした場所には湖が広がり、遥か向こうには緑に彩られた丘陵地帯が延々と広がっていた。
ふと側に眼をやると、赤レンガで作られた洋風レストランがいつの間にか建てられ。余りの変わりように僕は驚き、そして同時に安心してこの場から去ろうとした。
「ねえ!道案内のお礼にジュースおごるから、飲も!」
彼女がバイクから降り、駐車場の片隅の自販機へと歩き出し、慌てて後を付いて行った。
「いいよ!僕がおごるから…」
旅する彼女の財布を気遣ったが、彼女はくるり僕を向いた。
「こんな汚い格好でも、旅しながらバイトしていたから、ちょーっとはリッチだぞ!」
そう言って、得意げで無垢な笑顔を浮かべた。
その笑顔を見た瞬間、僕の中のまばゆく暖かいものが吹き込み、その厚意を素直に受け入れる事にした。
自販機へコインを入れ「どれにする?」と一言聞いて、彼女はそっとボタンを押した。
“このままじゃ男がすたる!いいとこ見せなきゃ!!”
受け取り口にジュースが落ちる音がした瞬間、僕は速攻でしゃがんで、受け取り口に手を伸ばそうとした、その時。
“ゴッン!!”
頭に激痛が走り、その場に座り込み、思わず頭をさすりながら顔を上げた。するとそこに同じように座り込み頭をさする彼女の姿があった。
事の次第が理解できた。
“格好つけたばかりに…”
申し訳ない気持ちになっていた。だが…。
「変な顔になっているぞー」
「うるせー、生まれつきだよ!」
そんな僕を彼女は無邪気に笑い飛ばし、僕の顔も満面の笑みになっていた。
「はいどーぞ」
「どうも…」
彼女の手からひんやりと冷たい缶が渡された。
それは重々しい濃紺から清々しい大空の色へと鮮やかにグラデーションしていく缶コーヒー。
それは忘れる事が出来ない程綺麗だった。
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小説 第一章・二章
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