ヤマハ2スト気まぐれ日記(時々TWと山遊び)

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小説 第三・四・五章

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第五章       高鳴る猪苗代 
    107日 福島県猪苗代湖へ
 
 
待ちに待った土曜の朝がやってきた。
 
「よしっ!」
 
上空には清々しい青空…見上るとつい声が出てしまった。
 
夜勤から解放されたばかりの身体は十分な睡眠をとってなく、疲れ果てているはずだった。でも身体の底から溢れ出す感情で、自分自身が制御出来ないほど気持ちは高ぶった。
 
TWに跨りエンジンを始動させると、東北自動車道に上り南へと向かって走り出した。
 
「風が気持ちいい!そして彼女は…きっと居る」
 
確証なんて無かったが、そんな自信に満ちていた。
 
何処までも続くアスファルトロード、アクセルは限界まで開けられた。
 
着込んだ米軍放出品の迷彩のコートが風でバタバタと騒ぎ出し、TWのエンジン音は高回転の高周波の音を発し始めた。
 
“モットハヤク!ハヤクハヤク!”
 
エンジンの高周波音はまるで製造機械の音のように、催促を始めた。
 
「ハンドルの振動が凄い…手が痺れる…でも頑張らなきゃ…」
 
だが、TWは自動車やトラックから次々と追い越され、排気ガスを浴びせられ、自動車道の隅へと追いやられていた。
 
「くそっ!」
 
思わず言葉が出た。しかしアクセルは緩められる事は無く、走り続けていた。
 
「このまま一気に走る!」
 
そんな僕の頭の中では、彼女との再会のシナリオが描かれていた。
 
“苦労して彼女を捜し出し、肩を叩かんばかりの再開”
 
“そして、あの日の夜のように…そして今度は二人で星空の下で夜が更けるまで彼女と語り合う…”
 
“そうしたら、あの不思議な空間の謎も分かるはず…”
 
“翌日、南へと旅立つ彼女を、今度こそは僕が最後まで見送る”
 
気持ちは高まっていった。
 
TWは県境を越えサービスエリアやパーキングエリアを次々と左目で過ごし、ただ一心不乱に走り続けた。
 
「この高鳴る気持ちは何なのだろう?」
 
走行する風に打たれながらふと自分に問い掛けた…
 
「もしかして彼女の事が…いやそんな事は無い!自分だって恋の一つや二つした。でも初めて会った人と…それに彼女の事は何も知らないのにそんな事無いよ!」
 
自分自身に問い掛けた言葉は、流れ行く秋色に染まりかけた景色へと無理矢理消し去った。そして僕の行く先には白線が延々と続いていた。
 
やがて福島県の中央に差し掛かると、東北自動車道は磐越道と交差し。ジャンクションから磐越道に入り、西の方角へ進路を変えて走った。
 
間もなく遠く山間からは、頂上部が荒々しい岩肌を覗かせた巨大な山の姿が威風堂々と現れた。
 
“磐梯山だ…もう少しで彼女と会える…”
 
気持ちはピークへと登り始めた
 
磐梯山が圧倒されるほど間近に迫ると、その反対側には待望の猪苗代湖が視界に収まりきれないほど広がり、高まる期待感を抑えながら自動車道を降りた。
 
道端に停めたTW。
 
“ほんのりと暖かな風が身体を包んでいく…”
 
早速地図を開き、猪苗代湖周辺のキャンプ場を探し始めた。
 
「彼女の側まで来ている!!」
 
否が応でも気持ちが高まっていった。
 
“どうしたんだ!?いったい僕は??”
 
気持ちを落ち着かせ、地図上に描かれた猪苗代湖を指でなぞっていく。そのTWの後部シートには友人から借りたテントなどが括られ、溢れんばかりに荷物が積まれていた。
 
“猪苗代湖周辺にはたくさんのキャンプ場がある…ここをしらみつぶしに探したら、あっという間に夜になってしまう…”
 
気を更に静め、彼女の居そうなキャンプ場を思い描いた。 
 
そして地図上をゆっくりと指がなぞっていった。
 
“猪苗代湖北側は観光施設が多い…きっと彼女はあのキャンプ場…兵糧山みたいな静かな場所に居るはず…”
 
指は猪苗代湖周辺をなぞり続け、ある場所で突然止まった。
 
そこは地図上に空白地帯が広がる猪苗代湖の南側湖面。
 
「ここだ!」
 
閃いた場所へTWを走らせた。猪苗代湖南側へと通じる国道294号へ入った頃には、もう日は傾き始め、すれ違う自動車や民家もなくなり、辺りは田園と山間の風景が延々と続き、目印にしていた猪苗代湖も丘で遮られていた。
 
「早く!!」
 
不安と焦る気持ちが募っていく。
 
「もしかして彼女と会えないかも…でもそんなの嫌だ!」
 
「会いたい!」
 
寂しげな景色が続く中、民家が点在する集落が現れ、そこに小さな商店を発見をすると、その中へと駆け込んだ。
 
「すいません…」
 
気が付くと店の中へ足を踏み入れた。
 
「はいよ!」
 
駄菓子が無造作に積まれた棚の奥から、ボサボサの頭を掻きながら、不機嫌そうに男が現れ、勇気をしぼった。
 
「キャンプ場を探しているのだけど、この辺にありますか?」
 
男は無精ひげだらけ顎をさすりながら、表を眺めた。
 
「なーんだ!バイクで旅している人なの!」
 
「えっ…まあー…」
 
不機嫌そうな男の表情は一変し、僕は変な感じに包まれた。
 
「そうかー!そんな汚い格好だから、怪しい人だと思ったよ!」
 
「えっ!そうですか?」
 
着ている迷彩のコートを広げ、ニコッと作り笑顔を浮かべる僕だが、額には妙な汗が浮いていた。
 
「あっ!キャンプ場探しているのか〜」
 
男は腕を組みして考えた。
 
「そうだ!この先の峠を越えた所に、小さなキャンプ場あったなー」
 
「そこは無料のキャンプ場ですか?」
 
僕は食いついた。
 
「ああ、確か無料で何も無いよ…そこより北側湖面にお金は掛かるけど立派なキャンプ場があるぞ!」
 
男のその言葉に、僕はニコッと微笑んだ。
 
「何も無いからいいんだよ!」
 
男は一瞬不思議な顔をしたが、すぐにニコッとした。
 
「そーか、今夜はここにキャンプか!気を付けろよ!」
 
「はい!どうも!」
 
店を飛び出すと、TWに飛び乗りキャンプ場へと走らせた。
 
“もう少しで会える!”
 
右へ左へ複雑に屈折する峠の頂上へ達すると、そこから眼下に猪苗代湖の湖面が現れた。
 
「じゃあ、テント持って猪苗代湖に行ってみようかな〜」
 
「本当に!!私待っているよ!」
 
頭の中ではあの夜の言葉と彼女の笑顔がぐるぐると回っていた。
 
「彼女はそこに居る!」
 
そんな確信ではち切れんばかり気持ちでTWを湖岸へと走らせた。
 
エンジンが高回転で唸っている。
 
「壊れてもいい!走れ!TW!」
 
向かう松林の奥に、砂浜とキラキラと輝く湖面が見えた。
 
「そこに彼女が…」
 
期待は高鳴った。 

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