ヤマハ2スト気まぐれ日記(時々TWと山遊び)

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小説 第六・七章

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第六章 キャンパー達の夜
 
陽は山の向こうへ沈みかけ、空は真っ赤に燃え上がっていた。
 
限界まで捻られたアクセル、だけどなおアクセルを捻る手に力が入った。
 
「もうすぐだ!もうすぐ会える!」
 
松林の奥には、夕陽の光を跳ね返し、キラキラと輝く猪苗代湖の湖面が垣間見え。その光景の中に小さなテントが見え隠れしていた。
 
気持ちははちきれんばかりにピークへと達した。
 
「彼女がそこにいる…」
 
もうそこまで迫った再会。
 
TWは激しく悲鳴を上げる。
 
そして、僕の頭の中では再会のシナリオが展開していた。
 
“苦労して彼女を捜し出し、肩を叩かんばかりの再開”
 
“そして、あの日の夜のように…そして今度は二人で星空の下で夜が更けるまで彼女と語り合う…”
  
“翌日、南へと旅立つ彼女を、今度こそは僕が最後まで見送る…”
 
期待は高鳴った。
 
目指す場所では大きく手を振る人の姿。その元へと走り込むと、抑え切れないほど溢れる笑顔を押し込んだヘルメットを脱いだ。
 
そこへ黄色いジャンパー姿の彼女が駆け足で近寄り。広角にあいた口元と、キラキラと輝く大きな瞳が僕を出迎えた。
 
まさに今再会のシナリオが展開しようし、TW200 から飛び降り、彼女へと駆け出そうとした。
 
そして肩を叩かんばかりの再会…が今展開されようとした時。その彼女から10歩下がった場所から強烈に睨む視線を感じ、走る僕の足は立ち止まった。
 
見上げると、太くたくましい腕を組んだ髭面の大男が、僕をじっと見据えて立っていた。
 
「よくここが分かったね!」
 
「みなみちゃんと出会ったキャンプ場と似たトコ探したから…」
 
あの時と変わらぬ笑顔で彼女は駆け寄った。
 
だけど、彼女の背後で仁王立ちする大男の存在に、一歩前に踏み込む事が出来なかった。
 
「あっ!こちらは昨日蔵王のキャンプ場で一緒になって、今日も偶然一緒になった“熊さん”で、こちらが先日私が迷子になっていたトコを助けてもらった“栗っこくん”だよ」
 
彼女に紹介され、二人の男はぎこちなく頭を下げ合った。
 
「熊さんも私同様、日本一周の旅の帰り足なんだ」
 
“!!”
 
辺りを見渡すと、彼女のバイク、セローの隣に見慣れぬバイクが並べられていた。
 
それは迷彩に塗られ、タンクにはDRと手書きで書かれた無骨で野生的なオフロードバイクだった。
 
予想していなかった登場人物。描いていた再会のシナリオが崩れ、僕は三歩、四歩と彼女から後ろずさっていた。
 
「熊さんも北海道でのキャンプ生活長かったんだよ」
 
唖然としている僕の耳に彼女の声が右から左へと流れていった。だが、髭面の大男を“熊”とあまりにはまった呼び方をしているのが気になり、うつむいた顔を上げた。
 
その様子に気付いた彼女はニコッと笑った。
 
「熊ってキャンパーネームだよ!」
 
「キャンパーネーム?」
 
「キャンプ生活している人達が、キャンプ場で呼び合う名前だよ!」
 
「俺の本当のキャンパーネームは“ジュニア熊”…」
 
すると頑なに真一文字に結ばれた熊さんの口元が緩み、ゆっくりと重い口調で動き出した。
 
「北海道のキャンプ場でキャンプしている時、そこへ自転車で旅する俺より身体がでかいキャンパーがキャンプしていたんだ…そのキャンパーも“熊”ってキャンパーネームだったんだ…それで同じキャンパーネームが二人も居たから、他のキャンパーが身体が大きい方を“パパ熊”そして俺を“ジュニア熊”って呼ぶようになった…」
 
「へえ〜、私の知り合った広島のキャンパーで“ヤクザ熊”ってキャンパーネームの人いるよ!」
 
爽快な笑みを浮かべ始めた熊さん、そして彼女の表情。
 
二人の間にいる僕の心には風が吹き込んでいた。
 
“あの時と変わらぬ風のはずなのに、今は生ぬるく感じる…”
 
「あっ!そうそう!栗っこくんって名前もキャンパーネームだよ!」
 
「そういう事…なの?」
 
「そう言う事!」
 
ニコッと笑う彼女。だけどそこに一歩踏み込めない僕がいた。
 
「ねえ!せっかく猪苗代湖に来たのだから、これから三人で散歩しない?」
 
「あっ…もう暗くなるから…テント組み立てなくちゃ…」
 
彼女の誘いに、とっさにその言葉が出た。
 
彼女の肩越しからは並べられた二組のテントが見え。その光景を見ると、素直に二人の間に入る事が出来なかった。
 
松林の向こうには砂浜を歩く二人。その足元には猪苗代湖の穏やかな波が打ち寄せ、日が落ちた空は紅く染まり、緩やかに裾を延ばす磐梯山のシルエットを大空に映していた。
 
くやしいけどその風景に二人はまっていた。
 
散歩から戻った二人は、並んだテントの間に腰掛け、尽きぬ話に夢中になっていた。
 
「昨夜のキャンプ場、峠族が走り回って深夜まで騒がしかったね」
 
「でも、真っ暗なキャンプ場の隅っこでトランペット吹いていた人いたろ?あの人なんだったんだろう?」
 
「あっ!松林の向こうで大きなRV車からあんなにたくさんキャンプ道具降ろしてるよ」
 
「あの二組のカップルか…今夜はにぎやかなキャンプになるな」
 
途切れることのない二人の会話。
 
テントを組み終え、その間に座った僕は二人の空間に入ることが出来ず、上目遣いになり、深い溜息が出た。
 
“どうしてこんなとこへ来てしまったんだ?だた、時間を無駄に過ごしているだけなのじゃ…”
 
背後では、山を掘削する工事の音が響き渡った。その音はまるで製造機械の爆音が叫んでるかのように…“ハタラケ!ハタラケ!”と僕の耳に響いた。
 
二人が上げた煙草の煙が上昇していった。
 
その時、キャンパーの姿と、機械が止まっているのにお構いなしに、隠れさぼって煙草の煙を上げる彼等の姿とが重なって見えた。
 
“敗者だ…”
 
“こんな場所で、こんな事をしていたら、みんなが先に行ってしまって、僕がせっかく掴みかけたチャンスが…そして、僕は足元に転がってしまう…”
 
「最近眠ると…いつも大量の鮭がベルトコンベアに乗っかって…俺の身体に押し寄せる夢…見るんだ」
 
「熊さんも鮭の詰め込みバイトしていたの!!私も泊り込みで鮭バイしていたんだ!」
 
止めどない良い笑顔の彼女と熊さん。それにあわせて無理に笑う僕がいた。
 
その時彼女の胸のポケットからメロディが流れ、ポケットから携帯電話を取り出すと、見えない向こうの相手とにこやかに会話を始め、その彼女の姿を穏やかに見つめる熊さんの姿があった。
 
その瞬間、僕と彼女の距離が決定的に開き、その隙間に冷たい風が吹き込んだ。
 
“もう帰ろう!”
 
彼女がケータイを切った時、僕は今すぐ帰路に着く事を心に決め立ち上がった。
 
だがその時、突然辺り一面を震わすほどの爆音が響いた。
 
「何だ!」
 
一斉に爆音のする方向を見ると、遥か向こうからヘッドライトの明かりが一個、すさまじい勢いでこちらへと向かって来た。

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